第三章 母なる者
第25話 姉の代わりにVTuber 25
◇ ◇ ◇ ◇
杉崎(すぎさき)家。
ズポッチャ当日での一夜。
春奈(はるな)はベットに倒れこむと、今日の事を思い出す。
(楽しかったな~~今日……。
帰りが遅いのに、連絡遅れちゃったから怒られたけど)
春奈は帰るなり、10時を過ぎていた為、軽く両親から注意を受けていた。
ベットに寝転びながら、携帯を弄る。
「梨沙(りさ)……、もう今日の出来事ズイッターに上げてるし」
SNSでの活動も活発な梨沙は、その辺もぬかりなく、しっかりと今日の出来事を上げていた。
そして学校で人気者の彼女の投稿には、すぐにリプライが付いた。
「私は、あんまりこうゆうの得意じゃないんだよね~~……」
VTuberを目指す為、そういったズイッター等の活用も上手くならなければと、思ったこともある春奈だったが、結局自分合わず、投稿は控えめになっていた。
「結局、今日も彰にボーリング勝てなかったなぁ~~」
春奈は梨沙の投稿を見ながら、今日あった出来事を遡ってき、梨沙の投稿した写真を一枚一枚見ていくと、ふとある写真で春奈は携帯を操作する手を止めた。
「――――天ヶ瀬(あまがせ)君…………」
梨沙の投稿した写真には、不器用で下手くそな笑みを浮かべる穂高の姿があった。
春奈はその写真に写る穂高を見つめ、つい先程起こった出来事を思い出す。
オーディション受けてみようよ!
綺麗な声してるし、一次落ちは無いんじゃないかな??
穂高は一つも迷いのない、真っ直ぐな瞳で、まるでそれを信じて疑っていないようにも見えた。
(なんで、あそこまでハッキリと断言できるんだろう……)
春奈はVTuberの夢を持ってはいたが、自分に自信は無く、まだ知り合って間もない穂高にそこまで断言できるのか、不思議でしょうがなかった。
(こ、声が綺麗なんて……、初めて言われたな……。
ホントにき、綺麗なんだろうか…………)
自分ではわからない部分であり、周りからも言われた事もない為、穂高の言葉が本当に的を得ているかわからなかった。
桜木高校四天王として、容姿を褒められる事はもちろん何度もあったが、春奈が唯一褒められた事の褒められ方で、考えれば考えるほど困惑した。
VTuberになる為には、最もと言って良い程の重要な能力であり、声に特徴がないのであれば、何かほかの分野で圧倒的なセンスが無いとなれない程、声は重要だった。
同じVが好きな仲間だし、信用できるでしょ?
再び、穂高の言葉が頭の中でこだまする。
(もし、天ヶ瀬君の言うように本当に可能性があるなら……、私はッ!!)
諦めかけた事もある夢だったが、春奈はこれまで以上に後押しされたような気になり、今まで以上にやる気が出てきた。
それは自分でも驚くほどに。
「あ、天ヶ瀬君に相談してみよう……かな…………?
連絡先も知ってるし、メッセージで聞いてみても……。
あぁぁぁ~~~ッ!! でも、恥ずいッ!!」
春奈は今日一緒に遊んだメンバーのグループチャットに穂高がいることは知っていた為、そこから個人チャットにメッセージを送ろうかと、携帯を操作したが、途中で羞恥心が勝ち、それは実行する事は叶わなかった。
「はぁ~~~、いつもの同性に言われる勇ましさや、男らしさは何処へ…………」
肝心な時に勇気の出ない自分を情けなく思いながら、小さく嘆いた。
そして、虚無な時間を数分過ごしていた、そんな時だった。
「ッ!!」
春奈は何故か、根拠はないが強い視線のようなものを感じ、締め切ったカーテンを開き、外を見た。
何故自分が急にそんなこと行動をとったか、自分にはわからなかったが、一つ理由があるとすれば、最近妙な視線を感じる事が多かった。
「誰もいない…………、まぁ、当然と言えば当然か……」
時間も夜遅かった為、こんな夜更けに外を出歩く人など少なく、結局、視線は春奈自身の勘違いという事で決着がつく。
そんな行動で、穂高へ相談するかどうかの考えも冷め、これ以上そのことに付いて考える事は無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
東橘(ひがしたちばな)総合病院。
姉の美絆(みき)がいる病室に、穂高は訪れていた。
学校帰りの放課後であったが、最近は忙しい日々もあり、あまり見舞いに行けてもいなかった為、今後のリムの方針の相談も兼ね、姉と話す事が沢山あった。
「姉貴? こないだの俺の配信見たか??
視聴数、同時接続共に好調だったぞッ!?」
穂高は少し自慢げに、ベットから体を起こしている美絆にそう告げる。
「見たよ。サッカーゲームでしょ?
配信も見てた。まぁ、穂高にしては上々だったんじゃない??」
美絆は笑みを浮かべながらも、素直に穂高を褒める事は無く、少ししたり顔で答えた。
「良いアイデアだったろ? 復帰後の姉貴もああいった配信を真似れるだろうし」
「まぁねぇ~~。
コラボが主力だったリムの新しい武器ではある」
美絆はそういうと、今度は少し考え込むようにして話を続ける。
「私の配信は確かにリスナーを振り回すような配信が多かった。
穂高の新しいスタイルを見て、それに気づいた……。
魅せるプレイもトークも重要だけど、あぁいったゴールも見えない配信を振り回されながらする配信もありなんだね。
場は冷めないよう、とてつもないバランス感が必要だけど……
――――まぁ、なんにしよ穂高は私みたいにゲーム上手くはないから、魅せるプレイができないのが痛いねッ!」
「下手じゃねぇよ……平凡だよ、平凡…………。
自分の力量が分かってる奴はひたすら器用に、満遍なくこなすのが最良の人生の歩み方だよ」
美絆の最後に放った、意地の悪い言葉に穂高は反論し、穂高の反論が気に入らなかったのか、美絆はムッとした表情を浮かべる。
「またそれ~~? その考え方、お姉ちゃんはどうかと思うけどねぇ~~。
器用貧乏になりそう……、いや、もう既になってるか……」
「うっせッ!」
穂高は姉との会話を打ち切り、病室に持ってきた着替えと、持って帰る姉の衣類をまとめ始めた。
穂高のその行動を見てか、美絆は携帯を弄り始める。
無言の時間が少しの間流れたが、作業の途中、携帯を弄る姉の表情が穂高は気になった。
とても楽しそうに携帯を素早く操作する美絆を見て、穂高は姉が何をしているのかすぐに想像でき、緊急の連絡が入ってもいいように通知をオンにし、バイブレーション機能を付けている自分の携帯が勢いよく振動をし始めた事で、それは確信に変わった。
「姉貴……、ずっと気になってたんだけど、姉貴はこれでほんとに良かったんだよな?」
美絆の表情を見て、穂高は頭の片隅でいつも考えていた事を美絆にぶつけた。
「ん? あ、あぁ~~、アンタ、まだそんなこと気にしてたの??
良かったに決まってるじゃん! こうして私の仲間と楽しくチャットも出来てるんだしッ!」
穂高の表情を見て、穂高の心情を察したのか、美絆は笑顔で携帯の画面を穂高に見せつけ、そう言い切った。
美絆の画面には、ジスコードの画面が表示されており、開かれたチャット欄は『チューンコネクト』六期生のチャットルームだった。
穂高もジスコードを覗く事はよくあったが、そこには他愛ない会話が繰り広げられていることが多く、本当にメンバー間、仲がいい事、そしてなにより六期生、同期の絆が深い事を知っていた。
「そ、姉貴が良かったなら俺はいいよ……」
穂高は心配していた部分もあった為、一つ悩みが解消されホッとした。
そして、そのまま作業に戻った穂高だったが、再び姉の行動でその行為は止められる。
「ゲッ!」
美絆のその不穏な発言を穂高は聞き逃さなかった。
穂高は美絆の顔を見ると、美絆も穂高を見ており、自然と目が合った。
そして、有無も言わさず美絆は、携帯の画面をおもむろに穂高に見せた。
穂高はその画面に書いてあることを、すぐに理解することはできなかったが、相変わらず、ジスコードであり、誰かからメッセージが届いているようだった。
「穂高、単刀直入に言う……。
お母さんが会いたがってる」
美絆は、真顔で穂高にその言葉を伝え、穂高はその言葉の意味を瞬時に理解する事できなかった。
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