第23話 姉の代わりにVTuber 23
◇ ◇ ◇ ◇
「届いた届いたッ!!」
祝日、日曜日。
穂高(ほだか)は前日に頼んでいたお届け物が届くと、それを上機嫌に開封していく。
春奈(はるな)達と遊びに出かけたあの日、穂高は少し面白そうな企画、配信内容を思いつき、それをするために必要な物を、ネット注文していた。
「一応、配信で必要な物ではあるけど……、これ、経費とかで落とせんのか?」
現役高校生とはあるまじきセリフを吐きながら、段ボールを開封すると、中から目当てな物が飛び出す。
「うおぉぉおおッ!! 懐かしいなぁ! おいッ!!」
穂高は子供の頃、もしかしたら親の顔よりも見た、黒い物体を手に取り、箱から出した。
PH2 (play home2)と呼ばれるZonyから出たゲーム機器であり、発売当初はそのあまりの人気から社会現象にまでなった伝説のゲーム機だった。
発売から20年近く経った今でも、コアなファンに求められ、未だにネットや店舗で取り扱いがされているゲーム機であった。
「あれ、こんな薄かったけか??
もっとゴツくて重かった印象だけど……。
子供だったからそう感じただけか…………」
穂高はまだ高校生であり、PH2は穂高の世代よりも少し上の世代が、丁度全盛期にはなっていたが、穂高からしてみれば生まれた時から、既に存在しており、PH3を購入するまでは、天ケ瀬(あまがせ)家で絶対的な支持を得ていた機種だった。
「あ、ソフトもちゃんと届いてるじゃんッ!!」
穂高はまるで、新しいゲームを与えられた少年のように目を輝かせ、段ボールに入ったソフトも取り出す。
(当時、俺にはまだ難しくてプレイできなかったけど、親父や母親のやってるところは見てたからな~。
記憶もおぼろげだし、何しろ傑作だからな…………)
これで穂高には、穂高のやりたい新しい配信の準備が整い、後は配信テストと、一応佐伯(さえき)にもこの事を相談するつもりでいた。
こうして、早速今夜の配信に向け穂高は準備を進めた。
◇ ◇ ◇ ◇
Zwitter(ズイッター)
簡単な分と少ない文字で、気軽に情報を発信できるソーシャルメディアであり、国内、国外において利用者が多く、『チューンコネクト』ももちろん、広告や宣伝、あるいはファンとの交流の為、ズイッターを利用していた。
そして、そのズイッターの上の中。
『チューンコネクト』のリスナー、特に越血宮(おちみや) リムのリスナーがズイッター上でざわついていた。
リムが何か今夜面白そうな配信しようとしてるぞ!!
『サカなる』???? なんだこのゲームは…………
サカなるって、めちゃくちゃ古いゲームじゃねぇかッ!!wwww
PH2のゲームだぞ??
若い子しらないだろwwww
リム、遂に年齢バレかッ!?wwww
リムの緊急告知と、配信予定の動画のサムネイルをズイッターで告知すると、他のVtuberもやった事の無いジャンルで、もちろん今流行っているわけではないゲームの為、困惑と、何やら面白うそうな事になるぞという期待が、リスナー達の間で賑わっていた。
そんな、リスナー達の期待と不安を背に、リムの配信は約束の時間になると、幕を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「あ、あぁ~~テステス……。
聞こえてますか~~。
聞こえてるっぽいねッ!
傀儡(かいらい)の皆々、おはこんばんにちわ!
堕血宮 リムです!」
リムの配信はズイッターで告知した時間通りに始まり、緊急告知、そして元々配信予定では無かった、この配信だが、それなりの人数のリスナーが集まった。
「いやいや、君達ッ!
開幕からざわつき過ぎだよ~~ッ!!」
リムは待機画面で待つリスナーの反応を見ていたのか、ニヤニヤと笑みを零しながら話す。
緊急配信で、しかもめちゃくちゃレトロなゲームやるなんて……
これ、俺の就活時代にやってたゲームだよッ!!(ちな 30歳後半)
リム、古いゲーム知ってると年齢バレるよッ!
「あぁ~~、やっぱり知ってるんだねこのゲーム。
名作だよね~~、『プロサッカーチームのオーナーになる』、略してサカなる!
シリーズもので特に、最高御傑作と名高い2002年版ねッ!!
ちなみに、私は当時幼かったのでお母さんがやってるのを見てましたッ!
ごめんね、アラサー」
なんか、ムカつくんですけど……
平常運転でリスナーをディスるwww
子供時代って事は、20代?? 10代は無いだろ
「あぁ~~、また中の人の年齢探ろうとしてる……。
ホント君達傀儡は、年齢気にするよね~~!
リアルでいちいち女の子に年齢聞くの??
相も変わらず、傀儡さんたちは変態さんだらけだね~~~」
うぐぐ……
リアルでできない事をヴァーチャルでだね……、ゲフンゲフンッ
リムちゃんには女の子のリスナーもいるよッ!! 私たちはリムちゃんの味方だからねッ!?
「あ、女の子のコメントッ!!
同性のコメントはやっぱり暖かいな~~。
いっつも、私は男の傀儡リスナーのおもちゃにされてるからッ!
嬉しくて涙でちゃう……」
男ってホントサイテー!!
リムちゃん泣かないでッ
や、ヤバい……、普段あまりコメ欄に現れない女性リスナー達に男が追いやられる…………
「フフフッ!
まぁ、茶番はこの辺にして、早速ゲームの方に移ろっかッ
有名なゲームだから、知ってる人も多いと思うんだけど、
タイトルにもある通り、自分がプロサッカーチームのオーナーになって、
チームを育てて、世界のサッカーチームに挑んでいくゲームなの。
ジャンルで言うと、シュミレーションゲームだね」
マジで奥が深い神げーだよなww
何時間でも遊べるし、何時間でも遊んでたわww
これ、難しいゲームだよねw とにかく序盤は勝てん
エディットとか色々出来たよな 何が面白いって某サッカー漫画のキャラクターがいるんだよなwww
「みんな流石によく知ってるねッ!!
サッカー漫画のキャラは本当は使いたいけど、権利関係もあるからね……。
ちょっと今回は無しで。 凄い強いんだけどね?
でね!
今回の配信において、ちょっとルールというか、方針があって……。
いつもは、私が好き放題やって配信をしてると思うんだけど、
今回はみんなのコメントで方針を決めてゲームを進めていきたいんだ。
いつも振り回してる分、私を振り回してみなさいよッ!ってわけ」
なるほど……
確かにアクションやRPGじゃないこのゲームはその方針が面白いかも
大丈夫か? 中々意見纏まらないんじゃ……
「あぁ~~、意見ね?
そこは任せなさいな! こっちはプロのストリーマーだよッ!?
頃合いを見て、だらだらとならないよう、コメントを拾って決めてくから」
なんだか楽しそうw
絶対勝てなそうwwww
有識者! カモンッ!!
「難しいゲームだからねぇ~~。
傀儡のみんなの手腕にかかってるよ??
どれだけ、ワザップが多いか…………、楽しみだわッ!!」
・・・・
急にプレッシャーが…………
それが目的かリムッ!!wwwww
「嘘嘘。
気軽にコメントしていいよッ!!
それじゃあ、始めるよ?
あ…………、ごめん、言い忘れてたんだけど、このゲーム最初のエディットの自由度が高すぎるから、
チームカラーと監督、秘書、チームマスコットとかは先に全部私の方で決めちゃった。
面白いゲームだからそこにあんまり時間を使いたくなくて……。
ちなみにチーム名はシンプルに『チューンコネクトウォーリアーズ』。
推しをWカップに連れてってわけ」
俺たちがタツヤってわけね……
甲子園がWカップって、俺たちの南ちゃん重すぎッwww
リムの配信は上々の盛り上がりのまま、そして穂高もいつもよりも配信をやりやすく感じ、自分が昔、配信していたスタイルに近いような、そんな気もしていた。
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