第22話 姉の代わりにVTuber 22

 ◇ ◇ ◇ ◇


ズポッチャからの帰り。


行きと同じく、バスで駅まで戻ると、駅での解散となり、自然と家が同じ方向な者同士で別れての解散となった。


夜の10時を既に回っており、高校生の身分で考えるとあまり褒められた遊び方をしていなかった。


辺りも暗い為、基本的に女子だけで帰らせるような形はとらない事とし、穂高(ほだか)は幸か不幸か春奈(はるな)と二人っきりで帰ることとなった。


帰る間際、残念ながら男女6人での、団体様グループに枠組みされてしまった武志(たけし)が、穂高を羨みながら、恨み言を呟いていた。


しかし、穂高からしてみれば、二人っきりなど気を使ってしょうがない為、あまり気分は乗らなかった。


「楽しかったねぇ~~! 今日ッ!!」


「え? あ、あぁ、まぁね……。

まさかこんな遅くなるとは思わなかったけど…………。

流石はパーリィーピーポー……」


「アハハハ……、流石に夜遅いよね…………」


穂高は作り笑いを必死に保ちながら言葉を返し、ぼそりと呟いた穂高の最後の言葉に春奈も罪悪感を感じてか、苦笑いを浮かべる。


「いつもこんな感じで遊んでるの?」


「ん? 日によるけど…………、流石にいつもはもっと早い解散だよ……。

瑠衣もいるしね」


「あぁ~~、確かに……」


穂高は瑠衣が名家な事を思い出し、彼女の言葉に納得した。


「じゃあ、今日は良かったのか??

四条(しじょう)さんいたけど……」


「今日は家に親がいないから大丈夫だって……。

とゆうかさ、天ケ瀬(あまがせ)君…………。

私達にも気を使わないで、彰(あきら)と話すときと同じように、砕けた口調でもいいんだよ?」


「え……? いや、それはマズいよ……。

普段の俺は、口あんまりよくないし…………

それに、他の男子から、アイツ調子乗ってるって思われるのも嫌だし…………」


「えぇ~~ッ! せっかく仲良くなったのに~~??

別に、誰も何とも思わないと思うけど」


(四天王相手に武志や彰と話ように話せるわけないだろ…………)


穂高は春奈の問いの受け答えに言葉を若干詰まらせた。


「天ケ瀬君って結構ガード固いよね?」


「硬派で通ってるからね。

とうゆうか、俺よりも杉崎(すぎさき)さんの方がよっぽど硬派だと思うけど……」


「別に硬派を目指してるわけじゃ無いんだけどね~~。

天ケ瀬君みたいに……」


穂高の言葉に、やれやれと言った様子で春奈は答える。


「聞いたよ? ウチの学校のイケメンで有名な、サッカー部のキャプテンよりも告白された回数が多いって」


「あ……、それまた瑠衣でしょ?

ほんっと余計な事ばっかり言う……」


「イケメンでモテる男子以上に告白されるって……、大変そうだね」


「ホントだよ……まったく」


穂高は依然としてたわいのない話を春奈にぶつけていたが、少し思惑もあった。


それは、先程のズポッチャでの事だった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「天ケ瀬君に頼みたい事って、ハルに対しての事なの……」


穂高に願いを叶えて貰う為、瑠衣は本題へと移った。


「実はね? 少し前……、高校二年生の事からかな……。

ハルにやりたいことが出来たったぽくて……」


「やりたい事?」


「うん……、どうやら、ハル、配信者……、それもVTuberになりたいと思ってるっぽいの」


「えッ!?」


瑠衣の唐突な話に、穂高は思わず大きな声が漏れた。


穂高の声に、周りにいた一緒にズポッチャへ訪れた人たちは、一斉に穂高を見たが、穂高はそれに気付くとすぐに作り笑いを浮かべ、軽く謝罪し、その場を難なく収めた。


周りが穂高に興味が無くなり、再び個々で盛り上がり始めると、穂高はすぐに瑠衣の方へと視線を戻した。


「ご、ごめん……大きな声出して…………」


「もう! 気負付けてねッ!?」


瑠衣のその些細な行動に、「また魔性の天然お嬢様が発動してるわ」とくだらない事を考えたが、それよりも気になる話題があった為、すぐに余計な雑念は消え失せた。


「私、VTuberとかそういうのに疎くて……。

どういった手助けをすればいいのか、どうやったらなれるのかとかも分からないし……。

天ケ瀬君、多分そういう配信みたいなのってやった事あるよね??」


瑠衣の鋭い指摘に、穂高は一気に緊張が走り、心臓が飛び跳ねた。


(流石に杉崎とのやり取りで何となく、経験者なのを悟ったのか??

でも、億が一でもリム、VTuberを俺がやっているなんて事はバレるはずが無い)


同様はしたが、それを表に出すことなく、穂高は冷静に反応を返す。


「まぁ、配信をしたことはあるけど、二、三回だよ?

それも、10人も視聴者を集められなかった、ド底辺……」


穂高は半分嘘と半分本当を交えながら、誤魔化しつつも答えた。


「やっぱり、憧れるものなの? 配信を見てたりすると…………」


「えッ? あ、いやぁ~~どうだろ…………。

俺はZoutubeに憧れが居て始めたってわけじゃ無いし……、人によると思うよ?

――――そ、それで? 杉崎さんが憧れてるのは分かったけど、何を手伝えばいいの??」


穂高はリムに関してのボロを出さない自信はあったが、これ以上自分の話をされても迷惑だった為、半ば強引に本題へと話題を戻した。


「天ヶ瀬君、詳しいからアドバイスとかしてほしいんだ!」


 ◆ ◆ ◆ ◆


(アドバイスしろって言ったってな…………)


穂高は隣で、友人の恨み言を呟く春奈を見ながらどうするかを考えた。


もちろん、穂高にそんなことを手伝う義理も、親しい関係でもなかったが、自分がこれから活動していく中で、大事なヒントをくれた人物でもあったため、大きな力になれなくとも、何か手伝えればとは思っていた。


「四条さんに聞いたついでなんだけど……。

杉崎さんってVTuberになりたいとかって…………」


穂高は言葉を選ぼうかとも思ったが、自分の置かれた状況もあってか、そこまでの羞恥心をこの話題に感じられず、そのまま素直に尋ねた。


その瞬間、春奈はビクりと体を跳ねらせ、いつもボーイッシュでクールな彼女からは、想像もつかないほどに、顔を真っ赤に染めた。


(や、ヤバいッ……!!)


穂高は自分もやっている事でもあった為、感覚がマヒしている部分もあり、春奈の事をそこまで考えられていなかった。


「えッ? えッ??

そんなことも聞いちゃったのッ!?」


「――――あ、わ、悪い…………」


穂高は明らかに自分の失態でもあった為、素の返答に思わずなりながらも、謝罪した。


「もうぅ~~~~ッ、瑠衣ぃぃぃぃいいいッ!!」


春奈は真っ赤になった顔を両手で覆いながら、友人の名前を発した。


「ご、ごめん……、あんまりついでに聞くことじゃなかった……。

でも、ちょっと気になることがあったから。

それに、同じ趣味を共有してる相手だったら、そこまで恥ずかしがる事もないでしょ?」


「は、恥ずかしいよぉ~~~ッ!!

ぜ、絶対これ以上バラさないでねッ!!」


「ばらさないばらさない……。

それで? VTuberに憧れてるっていうのは聞いたけど、

何かオーディション受けたりとかはもうしてるの??」


「い、いや……、まだ、オーディションとかは…………。

ホント、試しに動画撮る~~?みたいな事はしてるかな」


「なるほどね…………」


穂高は考え込むようにして、少し会話に間を開けると、決意したように顔を上げた。


「オーディション受けてみようよ!

綺麗な声してるし、一次落ちは無いんじゃないかな??」


「えッ!? き、きれいって……」


穂高は何の恥ずかしげもなく、他意もなく素直な意見をそのまま春奈にぶつけ、春奈はそんな穂高に困惑する。


「同じVが好きな仲間だし、信用できるでしょ?

結局は運になるんだろうけど、受ける価値はあると思うよ?」


穂高は春奈がVTuberになれるであろう魅力は十分あると思っていた。


そして、リムを隠せなくてはいけない立場ではあった為、技術的なアドバイスはできなかったが、中々前に進めない彼女の背中を押す事は、穂高にもできた。


根拠もなく、無責任にも思える後押しだったが、穂高はきっと、VTuberになれるだけの素質を春奈は持っていると、そう感じていた。

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