第18話 姉の代わりにVTuber 18


◇ ◇ ◇ ◇


穂高は一行は、ひとしきりズポッチャにてスポーツを楽しみ、最後はカラオケへと訪れていた。


よく遊びに出かける事も多い、穂高達は何とか体力が持っていたが、かなりへばり気味になっており、逆に今日のように徹底的に遊ぶことをする、彰を含めたイケイケグループは、まだまだ体力に余裕があるといった様子だった。


ズポッチャに訪れた時と変わらないテンションで、梨沙(りさ)に率いられるまま、穂高や武志(たけし)、瀬川(せがわ)は後を付いて行っていた。


「よしッ!! じゃんじゃん盛り上がっていっちゃおうッ!!

ささ! 曲入れてッ!!」


梨沙がそう発言すると、次々とイケイケ組の男子たちがそれに続き、穂高や瀬川はただ「凄いな」と感心するようにその光景を見つめた。


「よいっしょっと……、梨沙が振り回してごめんなさい。

あの子カラオケ大好きだから……」


ドリンクバーで注いできた飲み物を飲みながら、ノリノリの雰囲気に若干ついていけていなかった穂高に、声を掛けながら、穂高の隣へと四条 瑠衣(しじょう るい)が座った。


「いや、別に俺たちに気を使わなくても大丈夫ですよ?

ただ、菊池さんは凄いですね……。ずっと元気というか……、何というか……」


穂高は隣にいきなり座られたことに、一瞬ドキッとしながらも、春奈と話した時と同様に、思わず敬語で受け答える。


瑠衣のとても気品あふれるような所作に、余計に穂高は背筋が伸びるような、緊張を感じた。


「確かに、梨沙の元気にはいつも、振り回されます……。

先ほどの話になってしまいますけど、天ヶ瀬さんってテニス上手いですね!

そんな話も聞いてなかったんでビックリしました」


先ほど、テニスをしてる際にも少し話した相手だったが、同じペアでは戦っていなかった為、あまり会話は出来ず、先ほどのスポーツの興奮冷めやらぬといった様子で、穂高に瑠衣はその話題を振った。


「あ、あぁ……、一応、テニス部だったので……。

でもそんなこと言ったら、四条さんは流石でしたけどね?

今年の夏も何か大きな大会に出るんだとか……。

凄いと思います」


「いえいえ、私なんてそんな……。

――天ヶ瀬さんって……、好きな選手とかっていたりするんですか……?」


「あぁ~~、選手ですか…………」


穂高がやっていたテニスは中学時代という事もあり、軟式が主流で、硬式はあまり触れてはいなかった。


しかし、プロの世界、有名な選手では硬式の選手ばかりで、四条のやっているテニスも硬式という事もあり、穂高は四条が求めている回答が自然と想像でき、その期待に応えられるよう必死に思考を巡らした。


「男性選手しかわからないですけど、ジェフェラーとかジナルとかの試合は見たりしてましたかね……。

後は、個人的にはですけどジャスティンとか……、プレーのマネとか部活でやってましたよ!」


穂高は正直、プロの世界に自分でも詳しいとは思っておらず、完全なにわか状況だったが、当時部活でマネしていた選手や、話題にあった選手の名前、調べて試合を見たことのある選手の名前を出し、少ない知識だが一生懸命に答えた。


「ジャスティンですか……、いいですよね~~。

プレーはクールな感じもあって、熱くなると、点を取った時、凄く野性味溢れていて……」


「アクロバティックなボレーもすごいですけど、相手を欺くロブとか見てて、超気持ち良いですよね?

後、俺が中学の時は丁度、北折 大悟(きたおり だいご)が活躍してた世代なんで流行りましたよ」


「「エアⅮッ!!」」


穂高がすべて言い終える前に、瑠衣も穂高が何を言わんとしているのかが伝わり、思わず声を上げ、上げた声は、話していた途中の穂高の声を重なる。


「やっぱりマネしちゃいますよね~~。

女子もマネしてました……」


瑠衣は少し恥ずかしそうに、穂高にそう告げ、そんなテニスの話題に花を咲かせていた時だった。


「ねぇねぇ、なんの話?」


瑠衣の友人である春奈(はるな)が、声を掛け会話に入ってくる。


穂高はそんな春奈に視線を向けた後、次に梨沙を中心に盛り上がる集団へ視線を向ける。


するとそこには、梨沙が次々と周りに曲を入れ、歌わせる事を強要しており、どうやら春奈はそんな状況から逃げてきたようにも思えた。


「テニスの選手の話!

天ヶ瀬君も彰君と同じで元テニス部だったから、話弾んで」


「あぁ~、そういえばそうだったね!

天ヶ瀬君……、瑠衣は好きな話だと、熱くなって止まらないから、めんどくさかったでしょ?」


「あ……、いや、そんなことは…………」


春奈は冗談交じりに笑みを含めながら、穂高にそう言い、穂高は流石にそんな事を肯定する事などできるはずもなく、気まずそうに言い淀みながら否定した。


「は、ハルだって好きな事だと話止まらないじゃない!

ほら、Zoutubeの話とかさぁ~~。

なんか、今、ほらハマってるコンテンツがあるって言ってたじゃない……。

なんだっけ……? Vtuberだっけ…………??」


瑠衣の話を興味半分で聞いていた穂高は、最後の思わぬ単語で一気にむせ返る。


「だッ、大丈夫??」


「だ……、大丈夫です…………。

ちょっと、気管が急におかしくなっちゃって…………」


「急に気管がおかしく……??」


穂高の奇妙すぎる言い訳に、瑠衣は首をかじげ、思わず声を零したが、穂高のその言葉をそれ以上追及する流れにはならず、それよりも重要な情報がバラされたことに関して、話題は移っていく。


「す、杉崎さんってそうゆうのに興味あるんですね……、い、意外です…………」


穂高はあまりの出来事に、タメ口を許しあった春奈に、敬語で答えた。


「へ、変かな……?

――ってゆうか、瑠衣ッ! なんで本人が隠してる事言っちゃうのかなッ!!」


「フフフ……、ごめん、思わず口が滑っちゃって……。

でも、天ヶ瀬君なら言いふらすなんてこと、しないだろうし大丈夫だよ」


「フフフ、じゃないよ……、まったく……」


瑠衣は話してしまった事をそこまで深刻に考えておらず、春奈も依然として不満は残っている様子だったが、それ以上、瑠衣を責めるようなことはしなかった。


「だ、大丈夫ですよ。

別に言いふらしたりなんてしないですし……、それに、別に変だなんて思いませんよ?」

(それに成りすましてる俺が、杉崎の趣味を変だなんて言えないし……、

女のアバターに成りすましてる俺の方が十分変だし…………)


穂高は別に人の趣味をバカにするつもりはなかったが、自分の状況を鑑みても、人様の趣味に口出しできるような状況でなく、素直に心からの言葉を春奈にぶつけた。


「そ、そっか……、よかった…………。

あ、天ヶ瀬君って、Vtuberって知ってたりする?」


「――知ってるよ…………」


Vtuberのネームバリューは今や国内に治まらず、海外にまで浸透しているコンテンツでもあった為に、穂高は下手に嘘をつくことはしなかった。


ただ、自分の活動に不利になるような事だけは避けたかった為に、発言に慎重になりつつもあった。


「あッ! やっぱり!?」


「え…………? やっぱり……??」


(やっぱり……ってなんだ…………????

もしや、俺が姉の成り代わりだってバレ…………、

いやッ!! エゴサは怠ってないし、バレてるそぶりもなかった……。

有り得るはずが…………)


春奈の思わぬ言葉に、穂高は余計な事ばかりが頭に過り、一気に緊張が高まり、背筋に冷や汗をも感じた。


「松本君に聞いたんだよねぇ~~。

天ヶ瀬君が結構Vtuberのファンだって……」


「――――は??」


穂高は突然の出来事に思考が停止し、一体何が起こったのか、何を言われたのか瞬時に理解できなかった。


「え、えっと……、俺がファン??

Vtuberの……??」


穂高は腑抜けた様子で、思わず春奈に聞き返すと、春奈は満面の笑みで強く頷いた。

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