第16話 姉の代わりにVTuber 16


 ◇ ◇ ◇ ◇


「おい……、天ヶ瀬(あまがせ)…………。

昨日、眠れたか……?」


菊池 梨沙(きくち りさ)から遊びに誘われ、週末。


穂高(ほだか)と瀬川(せがわ)は約束の場所に15分前に到着していた。


瀬川は眠そうに目をこすりながら、今日の予定のせいで眠れなかったのか、眠そうにしながら訪ねる。


「ん? あぁ、あんまり眠れてないな……。

配信でだけど…………」


穂高は瀬川の質問に素直に答えた後、誰にも聞こえないほど小さな声でポツリと呟いた。


「えぇ~~と、ズポッチャだっけ??

確かに、いろいろできるけど何するんだろうな……」


「さぁな…………。

ズポッチャって釣り出来たっけ??」


「できるわけないだろ…………。

女子もいるんだぞ? あったとしても釣りには行けないぞ……?」


穂高は冗談気味に瀬川に答えたが、瀬川はそんな気分にはなれないのか、ため息交じりにマジレスを返す。


穂高達は、painでの話し合いにより、今週末はズポッチャへと行くことになっていた。


ズポッチャには、色々な娯楽があり、テニスやバスケ、フットサルといったスポーツができ、その他にもゲームセンターやボーリング、カラオケボックスなども完備していた。


「そういや、彰(あきら)と武志(たけし)は??」


「楠木(くすのき)はもうちょいで着くみたいだぞ?

松本(まつもと)は…………、少し遅れるかもな……」


「ん? なんで??」


何故か少し言いにくそうに武志のことを話す瀬川に、穂高は当然のように質問をする。


「なんか、身支度に時間がかかるとかなんとか……」


「はぁ~? 何してんだか……。

期待してるような事は起きないし、むしろ不安しか感じないのに……。

――――ってゆうか、今日何人で遊ぶ予定になってんだ??」


「あ~~、そういえば誰が来るとか、細かい話はしてないよな……。

なんか、仲がいい子を数人連れてくるとかは言ってたけど……」


瀬川のそんな答えに、穂高は興味のなさそうに返事を返すが、内心では嫌な予感しか感じなかった。


「お~~い! 穂高! 瀬川!」


穂高と瀬川は難しい表情のまま、話し込んでいると、少し離れたところから、二人を呼ぶ声がした。


声の方へと振り向くと、そこにはカジュアルな服を纏った、彰の姿があった。


「瀬川と穂高が一番か~~。

相変わらず、しっかりしてるな!」


彰は楽し気に二人に話しかけるが、穂高と瀬川は、視線を彰の顔よりも少し下にさげ、すぐには反応を返さなかった。


そして、そんな二人を見て、彰は不審げにさらに話しかける。


「んん? どうした? お前ら……。

なんかおかしいとこでもあんのか??」


彰が尋ねると、穂高は苦い表情を浮かべながら話し始める。


「いや、流石イケイケグループだなと…………。

おしゃれ意識高すぎて、ちょっと絶望してた」


「そうだな……。

楠木だけはデートの予定なのか??」


「はぁッ!? なんでだよッ!!

みんなで遊ぶんだろ? そうゆうのないから心配すんなよ」


自分だけ少しのけ者な感じを感じた彰は、すぐにそれを否定した。


しかし、穂高と瀬川は簡単には納得しない。


「でも彰、俺達と釣り行く時と気合の入り方が違だろ? 明らかに……」


「は、はぁッ!? そんなこと言ったらお前らだって気合入ってんだろ!

釣りに行く時、そんな恰好か!?」


「いや、俺は普段通りだろ??

瀬川は……、まぁ、瀬川も若干気合入ってる感じだけどな……」


「いや待てッ! ある程度は気を遣うだろ…………。

楠木みたいに勝負しに来ましたって感じではない」


「勝負しに来てねぇよッ!!

なんでお前らもいる今日に掛けるんだよ……」


そんな、他愛もない会話を繰り返し、話題は別の話題へと変わる。


「そういえば、彰。

今日何人来るか知ってるのか??」


穂高は先ほど、答えの出なかった事を今度は彰にぶつける。


「知らなかったのか? えぇ~~と、今日は男子6人、女子4人だったかな……。

計10人……」


「多ッ!! 明らかに俺いらなかっただろ!?

行きたい武志と、初めに声かけられて、需要ありそうな瀬川だけで…………」


人数を初めて知った穂高は、今日来たことを激しく後悔した。


元々、週末はリムの活動を平日にできない為、祝日に長く、数多い頻度で配信しようと予定していた。


そんな、予定もキャンセルした事情もあり、余計に今日ここに来るべきではなかったと、穂高は感じた。


「ちょっと待てッ! なんで俺だけなんだよ!!

俺だけなんて認めないぞ!」


「瀬川は妙な脅迫しなきゃ、確実に俺は今日来なかったぞ?

卑怯な手を使いやがって……」


「穂高も、需要? まぁ、需要みたいなもの……、一応あるぞ??」


今になって再度、瀬川に文句を言う穂高だったが、そんな穂高に彰は答えた。


「ほら……、関わった事の無い生徒と……、絡んでみたいみたいな…………」


「そんなのに祝日消費する必要ねぇだろ…………」


依然として納得がいってない穂高だったが、そんな穂高を瀬川も彰も気に掛ける様子はなく、彰は思い出したように声を上げた。


「あッ! そういえば、二人にちょっと言っておきたい事があるんだ……。

今日来るメンツの事なんだけどさ、ちょっと面倒な人間関係でさ……」


彰の言葉に瀬川と穂高は、ますます表情を暗くする。


「今日来る、女子4人ってのが、実は俗に言われてる桜木高校四天王の4人なんだけどさ……。

男子で俺達以外……、あ、穂高たちと面識がない男子、6人の内の2人なんだけど…………。

四天王の子を狙っててさ……」


「うわッ……、もう帰りてぇ…………」


話の一端だったが、すでにもう嫌な予感が漂う状況に、穂高はその場から帰ろうとするが、すぐさま彰はそれを止める。


「ちょッ、ちょっと待ってッ!!

ここまで話して返すわけねぇだろ……。

それでな? まぁ、協力してくれってわけじゃないんだけど……、まぁ……、空気を読んでほしいみたいな??」


「楠木……、お前苦労してるんだな…………」


「そうだよ! 苦労してんだよッ!!

――で、その二人っていうのが、お前らもよく知ってると思うけど、大貫(おおぬき)と若月(わかつき)の二人で……。

狙ってる相手っていうのが、杉崎 春奈(すぎさき はるな)と菊池 梨沙なんだよ!」


彰はこれからのイベントで、瀬川と穂高の協力は必要不可欠だった為、茶化されても、全ての事情を二人に伝えた。


大貫と若月の二人は、穂高も瀬川もよく知っていた。


彰や四天王と同じように、クラスの中心にいる二人は、よく四天王の誰かしらと、絡んでいるのを見かけ、端から見ても仲が良さそうに見えた。


そんな二人は、もちろんスクールカーストでも地位の高い位置におり、彰や瀬川程ではないが、それなりにモテる二人だった。


イケイケグループに所属し、陽キャラの二人ともちろん、穂高や瀬川が絡む事は無かったが、クラスでも賑やかしのグループではあった為、目には付くし、存在も知っていた。


「それを知って、俺らにどうしろって言うんだよ……。

自分も付き合ったことないのに、キューピットなんて無理だぞ??」


「瀬川に同感」


完全に面倒な方向へと話が進んでいき、瀬川と穂高が最も苦手とする繊細な人間関係だった為、完全に気分は落ち、やる気の無い雰囲気を醸し出す。


「わ、わかってる!

特に何か、ナイスアシストを期待してるわけじゃない…………。

ただ、知ってて欲しかったってこと……。

俺も学校で仲良くさせてもらってる手前、こんなことは言いたくないけど、面倒なんだよ……、色々と…………」


「武志のアホを遠ざける事ぐらいしかできないぞ?」


「せめて、楽しかったと思わせるような日にはするか……」


彰の気苦労は想像に難くなかった為か、穂高と瀬川はため息を付きながらも、自分にできる限りの協力をする事を決めた。

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