第15話 姉の代わりにVTuber 15


サクラ 最近チヨ、調子良いよね~~!


チヨ  そんな事ないよ~~ッ! サクラちゃんには負けるよ~。

    六期生の中で、リムちゃんに続いて、二番目に登録者数が多し……


サクラ 登録者数なんて関係ないよッ!! 登録してる人が多いからって、

    必ずしも面白いコンテンツを提供してるとは、限らないじゃんッ!?

    エルもそう思うでしょ?


エルフィオ それについてはサクラに同意……。

      チヨの配信はいつ見ても元気を貰えるし、楽しいよ。


サクラ ほらッ! エルだってこう言ってるじゃんッ!

    サクラもチヨの配信はいつ見ても、癒されるから好きだよ!!


チヨ  えへへ……、そうかな? 

    私は一番六期生の中で登録者数少ないし、

    最近ちょっと自信無かったんだ……。

    サクラちゃんとエルちゃんにそう言ってもらえて、

    ちょっと元気出た……。

    ありがと!


チャット蘭はほんわかとした空気が流れ、仲睦まじい様子が見て取れた。


(こんなのを見れてるのがファンに知れたら、俺は殺されるかもしれないな……)


穂高は、熱心な『チューンコネクト』のファンならば、何としてでも見たいであろう、裏のやり取りを、見れている事がバレた事を想像し、思わずゾッとしていた。


サクラ チヨのあの動画のスタイルは、どうやって思いついたの?

    ストリーミングでリスナーと旅をする配信。


チヨ  いや、偶々だよ! ほんと偶々。

    リスナーとある地方の話になって、みんなの記憶も不確かだったから、

    じゃあ見にいってみようって……。

    それから、有名な国や場所のストリーミングをリスナーと、

    ただ見て聞く配信もいいかなって。

    幸いにも、海外には結構いろんなところに行ってた経験もあったから!


サクラ あぁ~! そういえばチヨちゃんって英語ペラペラだもんねッ!

    なるほどねぇ~~、でもあの緩くいろんなところを、

    見ていく配信、好きなんだよなぁ~。

    リスナーと談笑しながらさ!

    サクラにはマネしたくてもできない配信だし……、

    ほんとチヨちゃんにしかできない配信だよね!

 

チヨ  そんな大層なことじゃないよ~~

    サクラちゃんもしてみたいならさ、

    今度コラボした時に一緒にやってみようよ!

    私と一緒ならサクラちゃんも気兼ねなく楽しめそうでしょ?


サクラ えッ!? いいのッ?

    やりたいッ!! ありがと~ッ! チヨッ!!


チヨ  サクラちゃんにはいつも勇気付けてもらってるし、全然問題ないよ!!


エルフィオ 私もそのコラボやってみたい……。


チヨ  エルちゃんも? いいよいいよッ!! みんなでやろうッ!!


勉強の為、ジスコードを開いた穂高だったが、思わぬ六期生の微笑ましい交流を目撃してしまった。


そして、穂高は美絆に初めてリムを託された病室でのことを思い返す。


(姉貴は多分、今デビューしたのこと時期のこういった交流をしたかったんだろうな……)


美絆のあの鬼気迫る光景は今でもはっきりと覚えており、その時に美絆の放った言葉すらもよく覚えてた。


チヨ  となると、六期生でリムちゃんとだけやらないのも変だから、

    リムちゃんともやりたいなぁ~~


サクラ そうだね~~、みんなでやりたいね~~。

    でも、流石に四人は多いかもねw 

   

エルフィオ でも、リムの復帰配信で言ってたけど……、

      コラボの頻度減らすって……。

      体調も良くはなってきてるんだろうけど、

      まだ心配…………。


チヨ  うん、心配だよ……。

    実はさ……、私、結構裏でリムちゃんに相談とか、

    してたんだよね……。

    私たち六期生の中でも、リムちゃんは配信の視聴者も多かったし。

    今はさ、逆にリムちゃんが大変な時期だと思うんだ……。

    だからさ、何とか力になってあげたい


サクラ そうだね~~、サクラも配信のアイデアとかリムからもらってたり、

    コラボにも付き合ってもらってたからな~~。

    今度さ! 何かリムのやりたい事に付き合うようなコラボしたくない?

    ――ってことで、リムーーーッ!!

    何かやりたいこと考えておいてよッ!


エルフィオ サクラ企画丸投げ…………。  

      普通、リムのやりたそうな事を考えて、提案する…………。


チヨ  wwww

    リムちゃん! そこまで気負わなないでね??

    ほんとに配信とかは考えず、リムちゃんのやりたい事を、

    提案してもらえればいいから!!

    コラボも自粛してるみたいだし、無理そうなら全然、

    断って貰っても大丈夫だよ?


サクラ なるべく、配信ウケしそうなのでお願いッ!!


穂高は、チャットの流れで戦慄が走り、体中からヒア汗が止まらなかった。


チャット等の裏方は美絆にまかせっきりの為、穂高が返信を返すことはなかったが、穂高は何度もこの妙な流れを断ち切るために、返信を打つか悩んだ。


(姉貴……、マジで頼むぞ……。

二人コラボもキツいのに、四人なんて……、ほんとに無理だからな…………)


穂高は今、ジスコードを開いていない姉に強く念を送り、コラボ回避をしてくれることを願った。


そして、そんな読んでいて寒気すら感じる今日のチャット欄だったが、穂高は一つほかにも気になることもあった。


(姉貴にアドバイスねぇ……)


穂高はすでに、配信の企画に行き詰っていた為、その方法も悪い手ではなかった。


(ただ……、素直に教えてくれるかどうか…………)


穂高はなぜか少し、嫌な予感を感じつつも、美絆にメッセージを送った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


無理!


穂高の頼みの綱は、たった一言のそんな冷たいメッセージで、簡単に切れ果てる。


(やっぱりか……。

姉貴は俺に何を期待してんだか……)


美絆は、役割分担の裏方を完璧にこなし、これ以上にないサポートをしてくれてはいたが、何故か穂高には配信のアドバイスをすることはなく、今までの配信は穂高の独学で行っていた。


(姉貴だって、これ以上配信の質が落ちるのはヤバいだろ……。

相変わらず何を考えてんだ…………。

企画のアドバイスをするのすらも断るとは……)


穂高は心の中で悪態をついていたが、時間もない為、頼りにならないならば、これ以上美絆に頼っている場合ではなく、何とか様々な配信者を見ては勉強した。


「どうすれば…………」


完全に行き詰った穂高はつぶやくと、不意に携帯の着信が鳴り、メッセージが入る。


「姉貴……?」


穂高はメッセージの相手を確認すると、それは美絆だった。


まぁ、今回は私も頼み込んでる立場でもあるから、簡単に一言。

リムに囚われるのはやめな!


「また、あまりにも抽象的な……」


穂高は本当にたった一言しか送っては来なかった姉に、苛立ちを感じながらも、その言葉の真意を考え始めた。


(リムに囚われるのをやめろって……。

姉貴の配信に合わせないと、簡単にバレるだろうが…………)


簡単に人に教わっては人の為にならないと、美絆の考えは穂高にはわかってはいたが、ヒントがあまりにも抽象的過ぎ、穂高は逆に混乱を生んだ。


「ダメだ、わかんねぇ~……。

これ以上、根詰めるとゲロ吐きそう……」


穂高は今後の配信スタイルと企画をいったん考えるのをやめた。


そして、開いていたZutubeを閉じようとしたその時だった。


(そういえば…………)


穂高は数か月振りに開いたサイトZutubeである事を不意に思い出した。


そして、手慣れた手つきでパスワードを打ち込み、慣れ親しんだ一つのあるアカウントでログインする。


「去年の11月ぶりか…………。

ついでだしな……、覗くだけ、覗くだけッ」


穂高はそんなことを呟きながら、ログインしたユーザーのホームぺージへと進んだ。


(コメント欄だけは、見ないようにしないとな…………)


穂高は自分のあげた動画についている、視聴者からのコメント欄を見ない事を、胸の中で誓い、少しでもヒントになるようなものを探した。

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