第14話 姉の代わりにVTuber 14
穂高(ほだか)と瀬川(せがわ)は、予期せぬ緊急事態にすぐさま、お互いに目を合わせた。
(せ、瀬川! お、お前からどうにかして断ってくれ!
断るのは慣れてるし、十八番だろ!!)
穂高は心の中でそう瀬川に念じながら、顎をクイクイと動かし、瀬川から断れと合図を出す。
(む、無理に決まってるだろッ!? 相手は四天王だぞ??
断ったらどんな噂が流れるか…………。
あ、天ケ瀬(あまがせ)こそ、女子に興味ないとか、思春期真っ只中の中学生みたいな事言ってるんだから、天ケ瀬が断ってくれよッ!!)
穂高の合図に瀬川もまた心の中で念じながら、合図に答える様にして首を横に振り、無理だという事を一生懸命伝えた。
どちらが断るか、押し問答をしていると、そんな二人の心境に割って入るかのように、武志が声を上げる。
「いッ、行きますッ!行きますッ!!
俺たち基本暇なんでいつでもいけますよッ!!」
「「なッ!?」」
出遅れた二人は、武志に視線を向け、武志の暴走に驚き思わず声を漏らす。
「ほんとッ!? よかった~~!
まだ、クラス替えしたばっかりで絡めて無い人も多いし、仲良くしたかったんだぁ~~」
「ちょ、ちょっと、梨沙!?
暴走しすぎだよ……。
ホントにいいの? 迷惑じゃない??」
あまりの急な提案に、春奈(はるな)も穂高達と同じように動揺していた。
そして、春奈は突然の展開に流される瀬川や穂高に話を振る。
「い、いや……、ま、まぁ……、迷惑って事は無いけど……。
俺らと行っても楽しいかな?って疑問はあるよな…………。
なぁ? 瀬川?」
「う、うんそうだな天ケ瀬。
気を遣わせちゃったりしたら悪いなとは思う」
穂高はチャンスとばかりに、言葉を必死で選びながらやんわりと断りを入れ、瀬川も穂高の意見に全面的に乗った。
そんな二人の作り出した、断る流れだったが、一人、頂点までテンションが上がる男にそれは阻まれた。
「な、なに言ってんだよ! お前らッ!
クラスの親睦を深めようって、俺らみたいな日陰者にも声を掛けてくれたんだぞッ!?
俺らに断る権利は無いだろ?」
「武志…………」
せっかく穏便に、いい流れで断れそうになってきたところで、こちらも必死な武志にそれを阻まれ、これ以上誘いを断るような事を言えば、穂高や瀬川が悪者に見えてしまうような事まで、続けて発言した。
瀬川は万事休すかと言わんばかりに、ため息を付きこれ以上の反論を諦め、穂高は誰にも届かないような小さな声で、武志を恨んだ。
「天ケ瀬君も瀬川君も大丈夫かな?」
「――あ、あぁ……、大丈夫だよ!
彰もいるし、武志の言う様に断る方が悪いからな?」
「俺も問題ない。 楽しみにしてるよ……」
少しだけ表情を曇らせ、不安げに尋ねてくる梨沙に、穂高も瀬川も断る選択肢など取れるはずも無く、若干引きつった笑顔で、承諾した。
「やったッ!
――それじゃあ、まずは連絡先はpain(パイン)で知ってるから……。
私達専用のグループ作ろっか! クラスpainから招待するから入ってねッ?」
現役の高校生なら90%以上使っているであろう、グループチャットアプリ『pain』で、梨沙は今度遊ぶメンバーで連絡を取り合う場を作ると宣言すると、痛い事をそのまま伝え、春奈と彰を連れ、その場から去っていった。
「はぁぁぁああ~~~~~~ッ!!
幸せ~~~~~~~~ッ!!」
項垂れる瀬川と穂高の隣で、今にも天に上りそうな、幸せな表情を浮かべ、武志は呟いた。
「瀬川……、俺だけ上手い事バックレるから、何とか代役立てられないか??
四天王との休日だったら喜んで、立候補者が出るだろ…………?」
「天ケ瀬、お前だけ逃げる事は許さないぞ……?
当日いなかったら、お前がバックレた事をみんなにバラす」
気分が底辺まで落ち込む、穂高と瀬川に我に返った武志も反応する。
「お前ら……、そんなに嫌かッ!?
瀬川は部活の練習があるとはいえ、日曜はオフだろ?
穂高に関してはいっつも暇じゃないかッ!?
出かけるにしても、爺臭い釣りとかだろ?」
「爺臭いッてなんだよッ!?
釣りは楽しいんだぞ!? 彰だってやってるし、よく一緒に行くわッ!!
――っていうか、お前も釣り好きじゃねぇかッ!」
「ま、まぁまぁ……。
落ち着いて……」
武志の言葉は穂高の逆鱗に触れ、武志を強く非難したが、瀬川が間に入ると、すぐに穏便に収まった。
「花の高校生が週末釣りって……、そんな寂しいことないだろ?
そろそろ、俺たちにも春が来ても良い時期だと思う!!
――っというか遅すぎるけどなッ、もう高三だし、俺ら……」
「春でも何でもいいけどよ~~、武志……。
お前、四天王相手に楽しませること出来るのか?」
「――――今日から一発芸の練習だな……!」
「付き合わないぞ……、俺らは…………」
意味の分からないことを言い出し、ただ桜木高校四天王と一緒に遊びに行ける事に浮かれる武志に、穂高は冷たく呟くと、その話題に付いてそれ以上話す事は無かった。
そして、その晩。
穂高は家に帰ると、梨沙から新しいpainのグループの招待がされており、今週末の休日に親睦を深める為、遊びに行く事が決定した。
◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ~て、これからの方針でもちょっと練るか…………」
穂高はリムとしての今日のノルマを達成し、配信の質を上げるために研究を行っていた。
リムの初配信以降、穂高がずっと課題にしてきたことであり、現状、動画の批判は無く、評価も悪くは無かったが、活動していくにあたって大事な作業だった。
(今、俺がやってる事はあくまで、姉貴のやってきた事の延長線上に過ぎないからな……。
姉貴の行ってた配信シリーズが底を付いたり、マンネリ化してからじゃ遅い……。
何とかして、新しい企画と配信スタイルを作らないと……)
穂高は数日に渡って、色々と試してみたり、先輩や同期と言ったメンバーの配信や他のストリーマーの配信を見て勉強したが、どれもリムとして想像した時に、ピンとくるものは無かった。
穂高の求めるクオリティはかなり高い物だった。
姉のやりそうな配信、尚且つリムのキャラを壊さず、大前提に面白くなくてはならない。
「――駄目だ……、何も浮かばねぇ…………」
数日に渡って根を詰めてきた穂高だったが、何も良い案は浮かんでは来なかった。
「ぶっつけ本番で何か新しい事やるのは流石に怖いしな……。
ある程度、これはイケるってものじゃないと試す気も起きねぇし…………」
穂高は行き詰ったところで、不意にジスコードを起動した。
本来ジスコードを起動した際には、他の連絡先を交換した者に、オンラインになって事を告げる機能がデフォルトで付いていたが、穂高から裏で何かメンバーとやり取りをすることはまずない為、オンラインを非表示にしていた。
あんまり褒められた行為じゃないが、メンバーのやり取りを裏で盗み見るような、そんな状況だった。
「六期生グループ……」
穂高は自分も所属する『チューンコネクト』の同期達がチャットする部屋を覗く。
◆ ◆ ◆ ◆
『チューンコネクト』六期生グループ。
今年の春にデビューした、新しい『チューンコネクト』のメンバーを総称して、そう呼ばれていた。
メンバーは四人。
巫(かんなぎ) サクラ、予知見(よちみ) チヨ、堕血宮(おちみや) リム、エルフィオの四人で構成されていた。
『チューンコネクト』は、3期生から偶数人でのデビューを決め、多くて6人、少なくて4人のメンバーで、デビューさせていた。
これは社長である山路(やまじ)の戦略であり、何かとカップリングをすることが多いこの業界で、上手く切り分けすることが出来る、偶数人でデビューをさせていた。
その為、六期生も例外でなく、偶数である4人でデビュー。
ファンの間ではリム×サクラ、チヨ×エルフィオのカップリングが人気であり、これも戦略通り上手くいっていた。
しかし、いくら戦略と言えど、裏でまで仲良くする相手を限定することは無く、六期生は他のグループと同じように、仲の良いグループだった。
◆ ◆ ◆ ◆
サクラ 最近、チヨちゃん調子良いよね~~~。
穂高がチャットを覗くと、丁度、サクラが書き込み、チャットが賑わっていた。
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