第二章 自分のスタイル

第13話 姉の代わりにVTuber 13


 ◇ ◇ ◇ ◇


リムの復帰配信から数日。


穂高(ほだか)はリムで宣言したように、動画の配信数を減らし、平日は一日一本、配信時間も長くて4時間と、美絆(みき)の活動に比べると消極的な活動が続いた。


その代わりに、土日、祝日には配信を何度もし、リスナーを楽しませた。


そんな、美絆の成替わりを順調にこなしているかのように見えた、穂高だったが、ある大きな悩みがあった。


(増えねぇ……、とういかほぼ停滞…………)


穂高は学校のトイレで、リムのチャンネルをチェックしていた。


美絆から変わり一週間たったが、正直、穂高の活動は良く言えば安定、悪く言えば平凡だった。


リムの印象を崩さない為には、今まで通り、リムが行ってきたゲームを淡々とプレイし、姉の配信を完璧にトレースすることが重要だったが、面白みには欠けていた。


配信でのリスナーの反応は良好で悪くは無いにしても、美絆の行っていた活動に比べ、チャンネルの登録者数は伸びず、新規ファンの獲得には至らなかった。


「佐伯(さえき)さんは今ままのまんまでも、全然問題無いって言ってくれるんだけどな~~……。

正直これじゃな……」


穂高は深いため息とともに、誰もいないトイレで愚痴を零す。


(まぁ、悩んでても仕方ないしな……。

今は上手くやれてるし、現状維持って事で……)


穂高は自分を納得させる理由を付け、トイレから出た。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なげぇ~~よ、トイレ!

便秘か?」


穂高はクラスへと戻るといつものメンツが、穂高の机の周りに集まっていた。


「トイレが長いくらいで、いちいち文句言うなよ。

女子にモテないぞ~~」


穂高はダルそうにそう言いながら、自分の席へと付いた。


昼食に集まったのは、瀬川 勇気(せがわ ゆうき)と松本 武志(まつもと たけし)であり、二人は相も変わらず購買で購入したパンを食べていた。


「じょ、女子にモテないって……、穂高に言われたくないぞ!

っていうか、そういうデリカシーの無い話題を持ってくる方がモテないぞ~~ッ!!」


「はぁ? 先に便所の話をしたのは、お前だろ?

なぁ? 瀬川??」


「おい……、お前ら、飯食ってる最中によくそんな話できるな…………。

頼むから、やめてくれ……」


武志と穂高の醜い争いに、瀬川は昼食中という事もあり、顔をしかめ、心底嫌そうな表情を浮かべて答えた。


武志と穂高にはわだかまりが出来たが、瀬川の様子を見て、この話は中断し、結論は保留とした。


「――あ、そういえばさ!

今週、身体測定じゃないか??」


武志は思い出したかのように、昼休みの話題を振り始める。


「そういえば、そうだったな。

瀬川、今年もお前の輝ける春がきたな!」


「天ケ瀬(あまがせ)……、やめてくれ…………」


穂高は去年の身体測定をすぐに思い出し、そこで瀬川が輝いていた事を話題にあげた。


瀬川は身長は高く、185cmを越え、体格もかなりガッチリしており、筋肉も付いた良い体をしていた。


それもそのはず、瀬川は運動部に所属し、バスケ部のレギュラーにも選ばれる程、身体能力が高かった。


そして彼は顔も女子ウケが元々良かった為、身体検査では大いなる輝きを放っていた。


「良い事じゃねぇか。 俺らも近づき難い程に去年のお前はチヤホヤだったし。

今年も多分同じようになるんじゃないか?」


「身体測定か……。 本来なら楽しめるイベントなんだけどな…………」


運動が好きな瀬川は、身体検査における自分の能力を確認できるところは、とても楽しみな点ではあったが、それによっておこる災害を危惧していた。


「女子が苦手なんてな~~。

神様もこれだけの素材をそろえておいて、酷な事をする…………。

俺たちには羨ましい話だけどな~~」


「おい待て武志!

なんで、俺も入れてんだ??」


モテる事を羨ましがる組に、瀬川と同じように、そこまで異性に興味の無い穂高も含まれてる事に、穂高はすかさず反応し指摘したが、武志は聞く耳を持たなかった。


「モテて良い事なんてないぞ……。

トラブルは付き物だし、まだお前らとバカやってる方がマシだよ」


「いいね~~、俺も言ってみてぇ~~~

――――っていうか、マシってなんだよ……」


不服そうな武志の表情に、瀬川は笑う。


そんな、いつものように馬鹿話をしている時だった。


「ねぇねぇ、瀬川君!」


瀬川を呼ぶ声が三人の耳に届き、声のする方へと視線を向けた。


するとそこには、桜木高校四天王の菊池 梨沙(きくち りさ)と杉崎 春奈(すぎさき はるな)、そして穂高達の共通の友人、楠木 彰(くすのき あきら)の姿がそこにあった。


女子の登場に瀬川と穂高には、警戒し緊張が走り、武志は四天王の登場に驚きながらも、既に浮かれていた。


「ど、どうしたの?」


瀬川は作り笑いを浮かべながらも、笑顔は若干不格好で笑みが引きずっており、恐る恐るといった様子で要件を尋ねた。


「瀬川君さ! 保険委員だよね?

今週さ、身体測定があるから、男子の分の記録表をクラス全員に後で配って欲しいんだ!

女子は梨沙がやるからさ~~」


「あ、あぁ、うん。 問題ないよ」


「おっけ~~ッ! 当日も男子の管理は瀬川君になると思うから、よろしくねッ!!」


梨沙は瀬川が自分の言葉に頷くのを確認すると、要件はそれだけだったのかこの場から離れようとした。


瀬川はホッと息を付き、武志が何故か、今にも泣き出しそうな、悲し気な表情を浮かべていたその時だった。


「穂高~~! 今週末空いてる?」


「ん? 今週末? あぁ~~、今週末は無理だな……。

ちょっと忙しい……」


「マジか~~……、先週も忙しそうだったし、何か最近ノリ悪いな~~」


梨沙の用事のついでだったのか、彰は穂高にいつも話してるように、フレンドリーに自然的に予定を尋ね、穂高もいつも通りに、自然に返事を返した。


そんなどこからどう見ても、自然な、何の不思議も無いやり取りだったが、何故か、梨沙と春奈は目を点にし、驚いたような表情を浮かべ、彰と穂高を見つめた。


当事者である穂高も彰も、流石に、そんな二人の表情に気付き、彰と仲が良い事、なんなら自分の友人でもある彰とのやり取りに、同じく何の違和感も感じていなかった瀬川と武志も二人の表情に気付き、不思議に感じていた。


「ど、どうかした……?」


彰は目を点にする二人に恐る恐る尋ねた。


「え? いや……、彰君と天ケ瀬君って友達だったの……?」


「――え? あ、うん……、普通に親友だよ?

武志も瀬川も……」


「そ、そうなんだ……、知らなかった…………」


梨沙は未だに驚きを隠せない様子で答え、春奈も同様に彰の答えに驚いていた。


何がそんなに二人を驚かせているのか、彰を含め男性陣にはまるで理解できなかったが、梨沙と春奈は彰の自分たちへの接し方と、穂高達に対する接し方が違う事が一番の驚きだった。


「彰君の友達かぁ~~」


少しずつ状況が飲み込め落ち着いてきた梨沙は、小さく呟き、そして意を決したように顔を上げ、満面の笑みで明るく話し始めた。


「ねぇねぇッ! 彰君の友達ならさ! 今度私たちと一緒に遊ばないッ!?」


梨沙の急な提案に、瀬川と穂高はギョッとし、武志は今にも天に召されそうな幸せそうな表情を浮かべ、彰は何処か気まずそうな、難しい表情を浮かべていた。

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