第12話 姉の代わりにVTuber 12


 ◇ ◇ ◇ ◇


『チューンコネクトプロダクション』本社。


『チューンコネクトプロダクション』社内は今、あるタレントの配信で緊張感がピークへ達していた。


リムの復帰配信は大いに盛り上がりを見せてはいたが、未だ不安な状況にあった。


元々、注目度の高い『チューンコネクト』はある特定のタレントが強いというわけではなく、総してファンを獲得しており、最近デビューした六期生、更にはその中でも勢いのあった堕血宮 リムという事もあり、視聴者が集まるのは必然的だった。


リムの配信は開始から30分を過ぎ、様々な雑談やリスナーとの絡みを行った。


そして、配信時間も半分を過ぎた頃だった、コメント欄にちらほらと異常が見え始める。


う~~ん、ずっと思ってたんだけ、ちょっと声が変わった??

声、いつもより低い?

体調崩した影響か、声が少し違うような……


流れるコメントを見たのか、『チューンコネクトプロダクション』の社員はざわつき、ガタりと椅子の音を立てる社員も見受けれた。


「穂高君……、今こそ冷静にだぞ~~」

「テスト配信を経てもなお、本番に踏み切ったんだ!

自信持て、弟君!!」


たったの二日だが、穂高と特訓をした社員である、鈴木(すずき)と篠崎(しのざき)はスポーツ観戦をするファンの様に、配信画面に向かってエールを送っていた。


そして、北川(きたがわ)も、鈴木たちの様に声は出さないにしろ、画面を真剣な面持ちでじっと見つめていた。


佐伯(さえき)は、そんな先輩社員達を一瞥した後、自分も目の前のモニターで配信を行っているリムへと視線を戻した。


(穂高君! 大丈夫ッ!

落ち着いて! 自信を持ってッ!)


佐伯は祈るように指を交差し、心の中で強く念を送った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


(来たか…………)


穂高(ほだか)は、コメントをもちろん確認しながら配信しており、数こそ少なかったがちらほらと、声に違和感を持ったコメントが流れている事を知った。


当初からリムとして配信するのであれば、いずれ指摘されるであろうと思っており、そしてそれが起こるのであれば、復帰一発目の今日が一番可能性があった。


(に、逃げるなよ……、俺ッ!

あくまで堂々と! 声なんて配信している内にどんどんと良くなっていく!

今、この場で一番まずいのは動揺する事…………。

もちろんこの配信は動画として残る……、違和感を残さない為にも、ここはッ!!)


「――コメント欄に声違うって書かれてるよ~~!

声違うかな~~? あんまり変わってないと思うけど……」


穂高は悪手かとも思ったが、わざとそのコメントを拾う様に、話題を自身の声の話題へと変えた。


リムの話に、コメント欄は意見が7対3の割合で意見が分かれ、7割の視聴者はリムの声に対して、そこまで大きな違和感を感じていない様子だった。


「う~~ん、実は言うとね? まだ、体の方が本調子じゃなくってさ!

声に違和感を感じるのも、そのせいなのかもしれないね。

自分じゃあんまりよく分からないんだけどさ……」


ホントに!? 大丈夫??

無理だけはするなよ

もう、二週間休めッ! 本調子になって戻ってこい


「いやいや、流石にもう休めんでしょうよ!

社会人なら有給もうない……、ってゆうか半年もまだ活動してないから有給貰えてないよ」


リムは心配させるような事を言った為、コメント欄が気遣うようなコメントで溢れてしまい、そんなコメント欄に焦るように取繕って、冗談っぽく答えた。


「第一、もう体は大丈夫だから復帰したわけで、すぐに本調子に戻るよ~!

声だけは違和感ある人もいるかもしれないけど、我慢してね? 絶対に数日でまた元に戻るから!

――――それに、3期生のシノブ先輩の寝起き声よりマシでしょ?

先輩だけど、あ~れ~は、酷かったからねぇ~~」


リムはクスクスと笑い声を挟みながら、付け加えて話し、元気な姿、いつも通りな姿を見せる事で、追い打ちをかける様に、視聴者へ配慮した。


お、おい! リムさん!? せ、先輩ですよ!?

シノブ、よく他のメンバーの配信見てるし、これも見られるんじゃ…………

リムさん? 後で裏こよっか??(^▽^)/

案の定、本人居て草


不穏な空気からコメント欄は再び明るくなり、声を心配するコメントは一気に減っていった。


「シノブ先輩! コメントありがと~~!!

可愛い後輩、復帰したよ~~! また頑張るから応援してねぇ~~!」


まったく気にしてないしwww

シノブも大変だなぁ~~、こんな後輩を持ってしまうなんて

シノブ、・・・で草


他の『チューンコネクト』のメンバーとのやり取りも終え、リムの配信は遂に終盤に差し掛かる。


「あぁ、もうかれこれ50分近く配信してたんだね~。

じゃあ、最後にちょっとだけ、傀儡のみんなに伝えたい事があるんだけど……。

実はね? 今後、ちょっと今までの活動と変わってくる部分があってね??

――まず、配信に関して。

今まで、長時間の配信とかやってたんだけど、今回の事もあってさ、少しだけ配信を減らそうと思ってるんだ。

勿論、毎日配信する事は止めないよ?? ただ、一日に配信三本とか、一日に18時間配信したりだとか、そういうことは控えようと思ってる」


まぁ、当然だろうな

また休止になったら心配しちゃうしね

逆に今までが異常だった


リムの言葉に賛同する声が多く、これからのリムの方針に反対する者は誰もいなかった。


「そうだね~、もう流石に休めないし、心配もかけられないからねぇ~。

あ、後ね? 今後の配信の内容に関してなんだけど、メンバーとのコラボや他の企業VTuberとのコラボが多かったと思うんだけど、これもしばらくは控えようと思う。

私は、もちろんVTuberが好きで、VTuberになったんだけど、デビューしたのがよほど嬉しかったのかな? ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたいな節もあるからさ!

あッ、体調崩した話ね?

だからこのコラボとかも控えて、これまで以上に傀儡のみんなとの時間を大切にしようかなって……」


――リム……、泣ける…………

えッ!? リムちゃんッ!? あたしとのコラボは!?!?

シリアスな話をしてるのに、サクラは空気を読まずwww


「あ、サクラちゃん?

ごめんね~~、あのコラボは私の体調不良が原因でなくなっちゃったからその埋め合わせはするよ。

ただ、今後ソロでの配信は増えると思う。

まぁ、そういった事情もあるからさッ! みんなは心配しないでね?

コラボ相手と仲悪くなったとかじゃないから」


杞憂民へのサポートか

分かったぞ、リム! 視聴者コラボ楽しみにしてる

元々リムのソロの配信は好きだから全然問題無しッ!!


「――みんな……、ありがとね!」


リムはこうして伝えるべきことを、自分のファンへ全て伝え、大きな問題も無く、復帰配信を無事に終えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「穂高君ッ! 完璧だったわよッ!!」


穂高はリムの復帰配信を無事に終え、佐伯との約束通り、ジスコードを繋ぎ、今日の反省会を行っていた。


佐伯は通話に入ってくるなり、興奮した様子で穂高を称賛した。


「そう……でしたかね…………?

正直、自分じゃ上手くいってるのか、あれで正解だったのかよく分からないです」


穂高は配信後も自分のリムの配信に自信が持てず、何か大きな問題があったかと言われれば、見当たる物は無かったが、それでも姉のように、配信ができたかと言われれば、疑問だった。


「大丈夫よッ!! メンバーの誰にも気づかれてはいないし、社員もみんなホッと一息ついていた!

ヒヤリとする部分も確かにあったけど、上手くこなせてたじゃないッ!!

たった一週間で準備した事も考慮すれば、100点よ!」


「そうですか……、それは良かったです」


穂高はあまりの緊張とプレッシャーに、大きく疲労しており、返事には覇気がなかった。


ただ、元気はあまりない状況でも、佐伯のその言葉は、穂高を少し安心させた。


「――――でも、配信して改めて思いました。

姉貴は凄いですね、やっぱり……。

デビューしてからあそこまでリスナーに慕われていて…………。

リムっていう存在が、いかに大事にされているのかが、凄く伝わりました」


「そうね……。

美絆(みき)は今までの新人の中でも、やっぱり頭一つ抜けてるような節はあったから……。

チャンネル登録者の伸びもピカイチだし……。

だからこそ、こうして代役を立ててでも、活動を長く休止したくは無かったんだと思う。

会社としてもね?」


穂高は忙しい中で、そこまで深く考えられてはいなかったが、佐伯に言われ納得した。


常識的に考えれば、代役を立てるなんてことはあり得ないし、代役の人がいくら上手かろうが、その本人には成れない。


穂高は確かに実力で社員達を認めさせた部分も有りはしたが、この復帰配信が実現したのは、リムだからというところが、大きい要因でもあった。


(姉貴じゃないなら、実現してなかった可能性もあるのかもな…………)


疲れ切った穂高は不意にそんな事を考えた。


「まだまだ、気は緩められない状況にあるとは思うけど、これからも頑張ってッ!

それに、明日からは学校に行きながらの活動になるかと思う。

ちゃんと学校に行ってね!?」


「大丈夫ですよ! まぁ、配信はまだ一回しかやってないですけど、忙しさで比べたら先週の方が忙しいです。

姉貴の代わりとして、精一杯やらせてもらいます!」


穂高の元気の良い返事を聞いてか、佐伯は満足げに頷き、通話を切った。


ジスコードが切れると、穂高は椅子から立ち上がり、ふらふらと歩きだした。


そして、操り人形の糸が切れる様に、ベットに倒れこんだ。


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