所在/3
エアコンの風が冷たく感じるまで気温が下がった。
窓の外は黒色に染まり、電柱やマンションの灯りが闇を照らしている。
二人は軽食を適当に作り、粛々と作業を進めていた。
二件の事件の概要は聞いたが、他に三件。
合わせて五件もの事件内容ファイルと、聞き込みなど現状進んでいる最新のデータが詰まった捜査資料がテーブルに並ぶ。
机上に乗り切らなかった紙は床に散乱している。
殺人事件は親族や面識のある者との間で多くは発生している。
怨恨の線で洗っている。
一件目、男性が自宅マンションの一室で変死体となって発見される。
血液がすべて抜き取られ、冷蔵庫内のペットボトル三本の血液とDNAが一致。
二件目、惨殺死体。局部なし。首、腕、足、胴体がそれぞれ別の場所で発見される。六つの発見場所別記。胴体に複数の打撲痕。首、四肢、死後切断。
三件目、放火。木造一軒家の中に三名の焼死体。それぞれのものとみられる三つの切断された腕には切り傷があり、玄関に並べられていた。身元不明者の歯型と一致。
四件目、一家心中。犯人とみられる四十代夫婦は首を斬り合い死亡。典型的な核家族。娘、息子、四名が椅子に座ったまま発見。四脚ある椅子の内、三脚に多量の血痕。
五件目、水死体。胃に砂が詰まった状態で発見。自ら砂を飲んだ形跡あり。砂を飲む?正気じゃない。
ノートに己がわかりやすいように再構築していく途中で、禊は気になることを聞いてみた。
「高橋、この『被害者は直前まで意識があった』ということは、殺害時には眠っていたか意識がないということで合ってるよな?」
二件目のファイルを共に覗き込む。
禊はまっすぐ見つめすぎたのか、はじめは胃の中の物をすべて出してしまった。
薄く瞼を閉じつつ赤黒い写真を認識すると多少は胃が安静にしてくれるので半目になっている。
五件の事件には共通点があった。
遺体の一部が焼けているのだ。三件目の三つの腕は例外だが、赤黒いマークは似ている。
捜査資料によると、同一の形だと結論づけられている。
唯一の共通点だ、捜査でも重要な情報とされているらしかった。
己で写真を比べてみても同じ…米、星…?の形で焼け焦げている。
これらは生きた状態でつけられたものだという記述もある。
…禊はそれ以上想像するのを控えることにした。
社長が示した、共通点が見つからないということは被害者達の周辺に共通の知人や利用していた施設、集団、場などが似通っておらず、被害者同士にも交流の臭いがしないということなのだと連絡して確認した。
聞いていた件数よりもどうしてかおかしな次元になっていますと苦情を言ってみたはいいものの、
ごめんねぇ!勘違いしちゃってた!年かなぁ、頼りにしてるよ、よろしくね、妻が呼んでいる!じゃあね!
と言って電話は無機質な音を繰り返した。
「…二件目の被害者の記録か」
顔を上げる高橋の動作は緩慢で、いつもの悪戯っぽさは鳴りを潜めている。
「ああ。俺たちは怨恨だと仮定している。意識がないなら苦しめられないよな?防御創は襲われた時につく。ここでもう痛いが、生まれてきたことを後悔させるならもっと意識を保たせるよな?他にもおかしいことがある、防犯カメラは至る所にある。同一人物が周辺を下見に来ていればすぐ特定できそうだよな?」
禊は弱くため息をついた。
「休憩するか。それか明日にしよう、…なっ、いいだろ禊。俺も疲れた〜!パソコンも用意されてない!アナログな方法、ノート!目がかすむ〜!中年を虐めるなんて許せない!成敗してやる!グロいのばっか見てられっか!」
そう言うなり高橋は大の字に寝転がった。
天井のライトが眩しいのか紙が入り込む隙間もないほど糸目になっている。
まじまじ観察するとうっすら目の下にクマができている。
禊は頼りになるはずだった相棒が早々に白旗を大振りしているのでこの先やっていけるのだろうかと胸に
とはいえ疲れているのはこちらも同じ。
共に白旗を振ることにした。
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