所在/2
「頭痛薬でも探そうか〜?」
「いい!ほっといてくれ!」
酒を飲ませてしまったことがこんなに尾を引いて責められ続けるなんて。
だがおもしろいぞ禊!ドツボにハマっていく感じだ!
という気持ちに、努力して、精一杯黙ってもらった高橋は務めて冷静に謝罪をはじめた。
「これ、あまり冷えてない水です…美味しいと思います…」
キッチンまで行き、空になった禊のコップに新しく水を継ぎ足し、眼前に差し出す。
パニックになった人間には穏やかに接するのが一番だ。
重大なことを軽く引き受けてしまったこの友人は、平凡に過ごしつつもどこか世間と
サポートをしっかりせねば。
「…高橋、お前、」
「ん?なんでございましょう禊様」
高橋は手を後ろで組む。
見上げてくる禊の顔が鬼面のように見える気がするが、顔を逸らしているのでよく分からない。
禊は目線の高さを水平にするため立ち上がり、高橋の両肩をがっしりと両手で掴み
「お前知ってたな」
「はい?なんのことでございましょう禊様」
高橋の顔に張り付いた営業スマイルは見慣れている。
そして、気まずいことがあればこの好奇心旺盛なやつはずっと笑顔なのだ。
必然的に、こいつは怪しいと確信された高橋は、尚も笑顔を取り繕っている。
「この面倒事を引き受けたらどうなるか知ってたな!俺の平凡な毎日を返せー!」
これはいけない、殺される。
そう察した高橋は護身術よろしく両手で禊の肘を上に跳ね、押し上げつつ自身の身体を低く縮め、拘束から逃れた。
後は逃げる者と追いかける者が出来上がり、追いかけっこである。
テーブルとソファを数周。
距離は追えど、逃げど縮まらず伸びず、拮抗した。
両者どちらの息も激しく上がっている。
話すより肺が空気を取り込む方が先だ。
「…ッ、…」
「気が 済んだか み、禊!もういいだろ!仕事だ仕事!」
馬鹿馬鹿しいとばかりに手のひらを仰ぎ、高橋はキッチンに向かった。
禊は鈍った体力を思い知ったのか、深呼吸を繰り返す。
しばらく無言で水を飲み続けた。
◇◇◇◇
机の上に広げられた資料から気になった部分を各々選んだノートに書き込んでいく。
事件の内容もあり選んだワードは物騒なものばかりだ。
一般人が目にしていいものではない写真も詳細な事件現場描写もある。
秘密は墓場まで持っていかなければならないという。
が、これは夢に出てきそうだなと禊は思った。
なにせこれまで世間の裏の顔など知らず育った身だ。
知らないでいられるのは陰で働く方々の成果だ。
何故こちら側に足を踏み入れてしまったのか…。
後悔する気持ちが再び湧いた。
「亡くなった方々のためにもこの行動は意味はあるのだろう、あるといいな。高橋」
高橋はしばらく禊から目を離さなかった。
急な展開に一瞬混乱はしていたのに、今は心が凪いでいるのか、凄惨な資料内容もまっすぐ見つめられた。
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