発端/3

「すみませんでした。まさか背後に気をつけろを読んで背後を気にしたら、まさかいるなんて。まさか思いもしなくて。禊がせっかく残してくれたおもしろ…大切な情報だから共有しないと!という使命感で…ごめん!」


友人は再び胸の前で手を合わせたが、なんて虚しい謝罪だろう。

おもしろいのは嬉しいが、そんな目的で残したんじゃない。

どうしてだ高橋、何故なんだ。


「信じているよ、禊君」

「「わっ!!」」


食えない友人を揉んでいるといつの間にか社長も窓際まで移動し、背後を取られていた。

二人同時に驚いてしまった。


「お願いだからね、お給料もはずむよ。終わったら辞めていいから。最後の頼みだと思って、引き受けて欲しい、どうしても君じゃなきゃダメなんだ!」


別の状況で聞きたかったともう一人の己が冷静に判断した声を受け止めつつ、そっと嫌だという気持ちに蓋をした。


人生諦めが肝心なのだ。


「わかりました…細かなことは、明日…高橋、…来い」



◇◇◇◇



刻は夕暮れ。


窓から差し込む鋭い角度の日光に目を細めつつ、大企業の社長は携帯電話を取り出した。電子機器は苦手だと嘘をつき、ガラケーを使用している。


入ってくる情報は自分で選択するのだ。


「私だ。引き受けてくれた。ああ、抜かりない。感謝しているよ。あの泳がせている勧誘団体も、もう必要なさそうだから、明日から本格的に…うん、警察の方でも上手く処理してくれよ。まだ全貌は掴めないが、問題が起こった場合は起こった集団内で解決されるべきだ。そう、それだよ。君も私も守るものがあるからね。ああ、転がってくれるといいな。それじゃまた」


見開かれた目が閉じられていく。


守るものとは、なんだろうか。

浮かんだすべての人達だ。

その中に裏切り者がいるのなら、容赦はしない。


決意を新たにし、社長は会議室から出ていった。


差し込んだ日差しは陰り、会議室は闇に包まれた。





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