序/4

「ん〜俺は〜、撃つかな!」


己の命と他人の命。殺される可能性だってある。


殺されるなら、いっそ…。


「そうですよね、私もこの状況になったら撃つと思います」


銃の形を作っていた手の人差し指を傾け、小さく、ばん、と言った。

指先は、こちらの心臓を焦点に定めていた。


「今回は亡くなってしまいましたが、警察官の方には頭を上げられません」


半分残っている麺を再び箸で掴み、勢いよく食べ始める。


が、腑に落ちないものがあったのか、顔をこちらへ向けた。


「辞めるんですか?」


やはり聴こえていたらしい。


「会社だと思うか?」

この状況じゃ、それ以外にないか。

疲労が顔に出でもしていたのかもしれない。


問いかけに反応せず、じっとこちらを見つめている。


心を見透かされるような、心の底が見えないような瞳。


現代っ子は何を考えているかわからない。

詰められると苦手だ。


「…なんだかきな臭いしな。いつまでもじっとしていたいんだ。面倒ごとに巻き込まれない内に、小心者は退散することにする」


可能な限り笑ってみせる。

僅かでも安心させたくて。

人を傷つけたくない。


「………………。残念です」


耳に届かない言葉があったが、別れを惜しんでくれているのだろう。

優しい後輩を持てて幸せだ。


幸い目の前のこの子は見目麗しく、賢く、性格も難無し。

一人でも生きていける経済力がある。

身近な人間が一人欠けたところでさして弊害もないだろう。


「いままでありがとう。なんでもない日々だったが、君と交流を持てて楽しかったよ。達者でな」


もう会うこともないだろうから、別れの挨拶を添えた。


人はその時々で関わるべき人と関わればいい。

新しく出会い、別れ、また出逢う。彼女にもまた新しい出会いがあるだろう。


「お元気で。またお会いしましょう」


連絡先も交換していないのに気遣ってくれる。


心からこの子はできた子だな。

そう感じた。


軽く手を振り合い、最後まで食べきれなかったおにぎりを掴み直し俺はその場をあとにした。



◇◇◇◇

女は、去ってゆく背が見えなくなるまで。


人の枠から外れてしまった目を向けていた。


優しい香りはもうしない。





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