序/3

「ふぃふぉぎさんは、ぎびゃくしふぎえしゅ」

ラーメンが想定外の熱さだったのか、解読できない台詞が横から聞こえてくる。


「ごめんなさい、解読できませんでした」


勧誘団体は去り、社食はすっかり静寂を取り戻していた。

やれやれ。


「禊さんは、自虐しすぎです。そんなに年齢も離れていないのに、どうして年長者ぶるんですか。私は現代っ子という名前ではありません。ズズーッ」


「六年くらいは違うと、十分おじさんなの。水、しっかり飲めよ現代っ子」

ようやく欠片と言い表してもいい大きさになった白い塊を眺めつつ、隣の後輩が喉を火傷しないよう注意する。


隣からよく「あつい…」と、声が聴こえていたのを思い出す。


その後に氷水を飲むのがお決まりだ。


味噌汁でも火傷してしまう猫舌なのだから、ラーメンでも危なさそうだ。

現代っ子とはよく隣同士になっていたが、部署が違うので社食で出くわすことも珍しく、話す機会はあまりない。


胃に食べ物を詰め込むのを優先させていたから、話す暇もなかったとも言える。


「…はい。気をつけます。ところで、時間をずらせば拡声器越しの声を聞かずに済むのに、毎回聞いてますね。私は耳が痛くなっちゃうので、この日は遅らせて社食に来てます。現代のように合理的でしょう?」


ふふんっと胸を張り、誇らしそうにしている。


できることならそうしたい。

休憩時間が決まった時間に始まったことがない身では、望めない未来だ。


「彼らにも彼らなりの正義がある。俺だけでも聞いてやらねば」


相容れない正義だが。


「目の端に涙を浮かべながらですか?」


食事が嬉しいのか美味しそうに食べている。

人気者の彼女は、いたって普通に見える。

こうしてなんでもない話をできるのも、彼女の取り繕わない態度のおかげだ。


「言わないでくれ」


久しぶりの他愛もない会話を楽しんでいたら、社食モニターから事件の一報が流れ始める。


アナウンサーが流暢に読みあげていく。

警察官に刃物を持った男が襲いかかり、拳銃を構えていた警察官は至近距離で胸を刺され死亡、銃弾を胸に受けた犯人も死亡する事件が発生しました。

現場は閑静な住宅街で事件当時は人通りもまばらでしたが、住民の通報により発覚。別の警察官が駆け付けたところ、既に二人は意識不明の重体だったということです。


目撃者に事情を聞き、事件の詳しい経緯など調べが進んでいます……。


「禊さんならこういう時どうします?銃、撃ちますか?撃ちませんか?」


現代っ子は指先をこちらへと向け、真意の分からない瞳で問い掛ける。





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