第25話:光る木の討伐
ハコミとクライブは先程、光る木のあった広場へと足音を殺して戻る。とは言っても、ハコミは血の泡を吐くほどの重症を負っていたため、ハコミに抱えられていたのだが。そうしてその広間に近寄るに連れて、松明が要らぬほど辺りは明るくなっていく。上半身裸となったクライブは手に持った松明を壁にもたれ掛けさせ、脇に抱えたクライブの服を体に巻いたハコミに小さく囁く。
「…本当にさっき言ってた"良い考え"がうまく行くって思う? 今からでも地上に逃げるっていうのは?」
「うまく行かなきゃ、ここで死ぬだけだよ。誰にもこの状況を伝えられないままね」
ハコミはクライブにそう言い放つ。少しばかり尻込みしていたが、クライブは腹を決める。ハコミを力強く脇に抱え込む。
「よし、いくよ」
「…こんなときだけど、ほんとに自分の身体がちっちゃくてよかったと思うよ」
ハコミは自嘲するように小さく笑う。そして次の瞬間にはハコミを抱えたクライブが光る木のある広場へと突入する。それに反応して蛇のように動いていた根がクライブたちへと襲いかかる。
「おおおおおっ!」
クライブは雄叫びを上げて駆け抜ける。ムチのようにしなる幾つもの根が、クライブの頬を、腕を、背を、皮一枚のところで空振りしていく。だが、皮一枚で避けてるとは言え、空圧でクライブの皮膚は裂けて血塗れとなっていく。だが、それでもクライブは足を止めることはない。
幾つもの根がクライブを、そして脇に抱えられたハコミを襲いかかっていた。ムチというよりも壁のような本数の根が迫って来ていていたが、クライブがめちゃくちゃに逃げたおかげで、ほんの少しであるが"光る木の幹"へ真っ直ぐな隙間が出来た。それをハコミは見逃さずに、叫ぶ。
「今だっ! 投げろ!」
クライブは走りながらハコミを光る木へとぶん投げる。根はすぐさま標的をクライブではなく、投げ飛ばされたハコミへと向ける。その攻撃目標をわずかに変えた、その刹那。ハコミは口から高熱を帯びた自身の吐息を"身体に巻いたクライブの酒浸しの服"へと吹きかける。その瞬間、一気に強いアルコールに火がついてハコミの体ごと燃え盛った。
「お前、火が怖いんだろっ! だからクライブに火を近づけられたときに反応したんだろっ!?」
勝ち誇った表情でハコミは叫ぶ。そして怯んだ根が自身へと到達するよりか先に"光る木"の幹へと到達する。
「俺の肋骨を折った仕返しだ!」
ハコミは大きく口を開く。ハコミの大きく開いた口内は溶岩に満たされた火口のように爛々としており、その口から漏れる吐息だけで光る木の皮を焦がした。そして次の瞬間には木の幹の目前へと迫った"それ"は、木の幹の半分を食いちぎる―――正確に言えば"蒸発"させた。
オーン…オーン…。
鳴き声なのか、断末魔の叫び声なのか。光る木はどこからか怪音を出していた。だが、幹の半分がハコミによってえぐられても倒れることはない。そして木の根がハコミを引き剥がそうと動き出した次の瞬間には、残る半分もハコミによって喰い千切られていた。
そして。
光る木は怪音と轟音を立てながら、石畳みの上へと崩れていくのだった。
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