第24話:良い考え

 クライブは小脇にハコミを、そして咄嗟に拾っていた松明を片手に"光る木"の根から辛くも逃げおおせていた。後ろから迫っていた根の気配がなくなったのを確認すると、ハコミを壁へと座り込ませる。



「ごほっ…」



折れた肋骨が肺を傷つけたのか。

ハコミは口端から血の泡を吐き出し、それが口内の熱で沸騰して蒸発していく。そんなハコミの様子を見てオロオロとするクライブ。



「ね、ねぇ、大丈夫…?」



「大丈夫に見える…?」



「い、いや」



「まあ、大丈夫じゃないよ。あ〜、痛ったい。 …というか、クライブ。なんか君、やけにお酒臭くない?」




 ハコミは胸を押さえながら、ふと鼻につく強いアルコール臭に気がつく。クライブはバレたか、と言った表情を浮かべると上着の胸の辺りから割れた数本の筒を取り出してハコミへと差し出す。




「…あとで飲んでみたいなーって。ちょっともらっちゃった」



 空になった筒を左右に振り、中身がないことをアピールしながらそれを地面へと投げ捨てる。クライブの上着は酒でびしゃびしゃに濡れており、"ちょっと"の量ではないことは明白だった。



「いや、どんだけ酒を盗んだのよ…」



「あっ! いや、お酒なんて飲んだことないけど、もし死ぬんなら最後にちょっとくらいはいいかなーって」



 ハコミはくすくすと小さく笑う。

そして何かを思いついたように、クライブの目をまっすぐ見やる。



「…いいことを思いついた」



「え、とりあえずここから逃げるんじゃ…?」




「いや…やるなら今だよ。 …あの根がどこまで伸びるかわからない以上、俺たちが無事に街に帰れる保証なんてないし」



 そう言うとハコミは胸を押さえて壁を伝って立ち上がると、クライブに向かって笑顔を向ける。



「とりあえず、クライブ。服を脱いで?」


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