第23話:根
「ふぅ、やっと降りれた」
ハコミはため息を吐きながら、今自身が降りて来た2階相当の高さの窓を見上げる。一方でその後ろをハコミと同じく石造りの壁をなんとか伝って降りて来たクライブは肩で息をしながら安堵のため息を吐く。そして先に落としていた松明を拾い上げる。
「は〜、まさか壁伝いにあそこから降りるなんて思わなかったよ」
「まあ、下に降りる道が近場にあるかわからないし。それに帰りのことも考えなきゃだし」
ハコミとクライブは辺りを窺いながら、その"光る木"を観察する。大木とは言えないながらも大の男1人では幹に抱きついて腕を回そうとしても届かない太さであり、葉は広葉樹のように1枚1枚が幅広のものであった。そして木から伸びた根の先には干からびて半ば白骨化し、王冠らしきものを被ったゴブリンらしきものが根に支えられてカカシのように立っていた。
「んー、クライブ。ここら辺の伝承とか言い伝えとかで何か聞いたことないかな? なんでもいいからさ」
「さぁー? こんな光る木が
クライブは何か気がつき、そして光る木が生えている根元に松明を近づける。ハコミもクライブの後ろから覗き込むようにしてそこに注目する。そこは石畳みが木の根によって盛り上がり、剥がれていた。さらによくよく見ると、その剥がれた石畳みは朽ちておらず、つい最近になって剥がされたものであるようにハコミの目には映った。
「ここの石畳を見るとこの木が生えたのはかなり最近だね。 あっ」
クライブはさらに根元を見ようとしたとき、うっかり松明の先を光る木の幹へと当ててしまう。その瞬間、木の根が動き出してムチのようにしなるとクライブの腹部へと叩きつける。同時に根はハコミへも風切り音を伴って迫る。次の瞬間には声を出す間もなく勢いよく転がっていくクライブ、一方でハコミは自身に迫る根がぶつかるタイミングに合わせて根を喰らい、蒸発させる。根は千切れ、壁に破裂音とともに砕け散る。
「うわっ!?」
根は一本だけではない。次々にハコミへと襲いかかる。右から上から左から、喰って蒸発させ、また喰って。僅かな時間、この攻防は続いたがそれもすぐに終わる。
「えっ!?」
新たに石畳を破り出てきた
「がっ…」
痛みが走るより前に胸の辺りから生木が折れた音が体内を巡る―――『ああ、肋骨が折れたんだ』、ハコミは他人事の様に考えながら宙を舞い、地面を転がっていく。すぐに立ち上がれないほどの衝撃と痛み。うつ伏せで倒れたハコミに、根はさらに追撃を掛ける。何本もの根がハコミに襲いかかる。だがハコミに向かって放たれた根はハコミではなく宙を切った。
「おおおっああおあっあっ!!!」
倒れたハコミを抱えあげ、根のムチから救い出したのはなんとか動けるまで回復したクライブであった。クライブは奇妙な叫び声を上げながら、その根から逃れるためにこの光る木のある広間から逃げ出したのであった。
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