第22話:地下遺跡の中の光る木

 ハコミとクライブは真っ暗な石畳のアグナの角遺跡中をしばらく歩いていた。松明が尽きる前に、幾度か徘徊するゴブリンに遭遇してはゴブリンが持つ松明を奪って突き進んでいた。



「なあ、クライブ」



 ハコミは何かに気がついて立ち止まる。しかし、ハコミのすぐ後ろを歩いていたクライブは完全に立ち止まれずにハコミを後ろから押し倒すような形でつんのめる。そしてハコミの小さな体では勢いを止められずに、そのままハコミごと地面へと倒れる。



「痛いし、重いし…早くどいて」



「あっ、ごめん」



 クライブは慌ててハコミから立ち上がる。そして立ち上がった拍子にふと、松明から出る焼ける臭いに混じって甘い、それも果物のような香りがすることに気がついた。『なぜ、こんな日差しどころか風すら届かない場所で、果物の甘い香りが?』クライブの困惑した表情を見ながらハコミはウエディングドレスの裾の埃を叩いて落とす。



「そんな顔してるってことは、前に君が来た時はこんな匂いはしていなかったんだね? それにほら、あそこ。わかる? なんか松明の明かりじゃない感じでほんの少しだけ明るくなってる」

 


 ハコミが指差す先は松明のオレンジ色の松明とは違い、どちらかと言えば黄色の―――かなり白に近い灯りが漏れていた。ゆっくりとハコミとクライブがその灯りへと近づいて行く。近寄るとそこは窓のような作りの場所であり、窓はハコミの身長よりも高かったためクライブに抱き抱えて貰いながら中を覗き込んだ。



「なんだ、あれ」



「…こんなところに木が? しかも光ってる?」



 ちょうど2人は大きな石畳みの広間―――ハコミは『体育館ぐらい広いな』と感じたが、そこを2階から覗き混んでいる形であった。そして目についたのはその中央に石畳みを破壊しながら生えている光り輝く一本の木であった。その木は幹だけではなく、枝葉に至るまで眩しくない程度に輝いていた。



「光る木、なんて聞いたことないな。というか、あれ。あそこの伸びた根っこの先に繋がった死体、なんか冠みたいなのを被ってるな」



 ハコミは目を細めてその死体をよく観察する。死体は人間の子供程度の大きさで半ば白骨化し、顔の左半分は完全に骨が露出していた。顔の右半分と言えばミイラ化のようになっており、カサついた皮膚が頭蓋にこびりついていた。そして目を引くのは光る根が頭部で冠のような型でまとわりついており、まるで"権力"を指し示す王冠のように見えた。



「あれ、ゴブリンの死体、だよな。何かの儀式とか? クライブ、君はなにか伝承とか言い伝えとかでこんなことがあるか知ってる?」



「さあ…こんなの聞いたことがない」



「じゃあ直接見に行かないとダメだな。なんとか降りれないかな」



 ハコミはそんなことを言いながら、広場に降りるための手段を探し始める。そして2人して降りる手段がないかゴブリンの死体から目を離したそのとき。



「カカッ」



 半開きとなったゴブリンの口から、くぐもった声が僅かに漏れるのだった。

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