第11話:一方でソフィーは

―――「はぁ…はぁっ…」



 ソフィーは街中を必死に駆けていた。

火急の危機を告げる鐘の音と街中に響く叫び声に急かされて、街中をめちゃくちゃに走る。



(なんで、こんなことに)


 父親のビンベの"仮病"。『なにか自分が居ると不都合があるのかな?』と考えて、仮病に気がつきながらもビンベに言われるまま外へと出かけた。

それで形だけでも医者のところに薬を貰いに行ったところで、突如として異変を知らせる鐘が鳴り響いた。そして急いで自宅に帰ろうとしたが、自宅の方角から叫び声が上がったためにその場から自宅とは逆の方角へ逃げ出すハメになってしまったのだった。



 『何が起きているのか』

それは走りながら、後ろから聞こえたガラスの割れる音に混じって聞こえた"醜悪な声"で振り返って理解した。子供ほどの背丈の醜悪な生き物―――ゴブリンが街を歩く人や家々を襲っていたのだった。



「ひっ!?」



 ソフィーは恐怖で引き攣った悲鳴をあげる。

街中に居ようはずもない化け物が、平然と街を襲っていたのだ。ビンベから『ゴブリンを見かけても構わずに逃げろ、捕まったら"酷いこと"になる』と言い含めれていたソフィーは、恐怖のあまり足を絡ませて激しく転んでしまう。



(痛っ〜…。に、逃げなきゃ)



 そして再度駆けようと立ちあがろうとしたとき、右足に激痛が走った。痛みの衝撃でソフィーは地面へと倒れてしまう。



(歩け、ない…)



 ソフィーは立ち上がるのを諦めて、這うように移動する。そしてソフィーは這いつくばって近くの家の扉を力いっぱい叩いて叫ぶ。



「助けてくださいっ! 足がっ、怪我をしてしまってっ!」



 だが、中からは反応はない。

中に人が居る気配は確かにあるはずだが、ソフィーの助けに応じる様子はなかった。こうしてる間にもゴブリンたちは迫ってくる、余裕はない。ソフィーは助けを求めるのを諦めると、四つん這いでその場から逃げ出そうとする。しかし。



「ギッギッ」




 四つん這いのソフィーの背中が、何者かに掴まれる。そして、思い切り引っ張られて地面へと転がってしまう。



「痛っ…」



地面に転がされたソフィーは、自身を引っ張った相手がなんであるか知る。そこには醜悪な顔をしたゴブリンが、歪んだ笑顔で棍棒を片手に立っていた。



「っ! いやっ!」



 ソフィーは叫んで這いつくばってゴブリンから逃げようとする。しかし、その逃走はソフィーの背中に思い切りのしかかってきたゴブリンのせいですぐさま終わりを告げた。そしてゴブリンはソフィーの服のうなじの辺りを掴むと、強引に引き裂いた。ソフィーは恐怖の余り、叫ぶことすら出来ない。露わになった白いソフィーの背中、そこに鋭く尖ったゴブリンの爪が迫る。



「やめろぉ!!」



 ゴブリンの身体が横に勢いよく転がる。寝そべった体勢で後ろを振り返ったソフィーの目の前には、片手にレンガを持ち、空いた右手を差し伸べるクライブの姿があった。

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