第10話:ハコミの逆襲

「アッ…ギッ…」



ハコミを組み敷いていたゴブリンの鼻から上を削り取られ、顔面にぽっかりと空いた大穴から白煙が上がる。そしてゴブリンの口からは形容し難い呻き声とも唸り声とも取れる声が漏れていた。



「ギッギッ!」



 変な声を上げたゴブリンに対して、その後ろに居たゴブリンが声を掛ける。まるで『後ろがつかえてるから、早くどけ』と言わんばかりの仕草で、その骸と化したゴブリンの肩を乱暴に揺さぶった。



「この、くそゴブリンっ!」



 その瞬間、ハコミは力なく生き絶えたゴブリンを思い切り突き飛ばす。仲間の骸を抱き抱える形で肩を揺さぶったゴブリンは後ろへと転がっていく。同時に跳ねるように起き上がったハコミは、今度は状況が飲み込めずに立ち尽くしているゴブリンへと飛びかかると、その鋭い牙を見せつけるように大きく口を開ける。



 そして。

ハコミの大きく開いた口内は溶岩に満たされた火口のように爛々としており、その口から漏れる吐息だけでゴブリンの突き出た鼻先を焦がした。次の瞬間にはゴブリンの目前へと迫った"それ"は、ゴブリンの喉元を食いちぎる―――正確に言えば"蒸発"させた。



 1噛み目で致命傷を負ったゴブリンは、傷口から白煙を上げながら床へと転がる。その骸を乱雑に蹴飛ばしながら、まだ生きてる残りのゴブリンたちへと、燃えるような赤い目を向ける。そして、あまりの事態に固まっていたゴブリンたちへと一歩、足を進める。



「…」



「…ギッ…ギッ」



そして、数分後。

室内に侵入したゴブリンたちは物言わぬ骸と化していた。あるゴブリンは肩から先が無くなり、あるゴブリンは首から上が綺麗になくなっていた。共通するのはそれらの傷口は焼き焦げて炭化し、僅かに白煙をあげていることだけであった。そしてひときしり殺戮を終えたハコミは、肌けた血塗れの上半身を隠すためにビンベが食卓の椅子に掛けて行ったエプロンを着込む。



(ソフィーさんや、ビンベさん、クライブのことが心配だ…俺も行かなきゃ)




 ハコミは床に転がったゴブリンを避けつつ、外へと飛び出していった。

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