第3話:文字が読めない
(…読めねぇえええー)
ハコミは図書室というよりも薄暗くほこりっぽい資料室のような本をたくさん収納されている一角を占拠して、分厚い本を何冊も積み上げていた。ハコミは本を開くまではワクワクとドキドキに胸が高鳴っていたが、本を開いた瞬間に見たこともない文字列が飛び込んでくる。アルファベットを悪筆でぐちゃぐちゃにしたような、そんな文字列がびっしりと書き込まれていた。
(うぅん…これ、アルファベットじゃないし、ヘブライ語に形は似てるけどまったく違うな。 …こんな文字、見たことがない。言葉は通じるのにな、文字体系がまったく違うのかな)
ハコミは唸りながら本を閉じる。そして改めて自身が己の知る世界とは全くの異世界に来てしまったのだと思い知らされた。しみじみとそのことについて考えるが、不思議と元の世界に帰りたいという気持ちは湧かなかった。それよりも、目の前に積まれた己のまったく知らない文字列とその見知らぬ文字列に刻まれた歴史や民話伝承などを知りたいという”探究心”で頭がいっぱいであったのだった。
(でもこれ、どうやって勉強しよう? まったく読み方も意味も分からんぞ)
他の本も手に取ってぱらぱらと捲るが、どれも似たような文字列が並んでいた。
日本語などは当然一文字もなく、当然のことながら日本語とこれらの文字列を比較するための
(参ったな、これ。 …ん?)
ハコミが頭を抱えていると、部屋の思い木製扉の開く音が響く。ハコミは素早く本棚の影へと隠れてその扉を開けた主の様子を窺う。完全部外者の自分が資料室を漁っていたのだ、文句を言われて出入禁止になったら次にこういった本などを集めた場所に入れる機会があるのか分からない。そして息を殺して薄暗い部屋の中でその相手を観察すると、どうやら体つきから若い男のようであった。
「はぁ…」
大きなため息がハコミの耳へと入る。そしてそのため息交じりの声にぴくりとハコミは反応する。
ハコミはゆっくりと棚の隙間からその相手を窺うと、相手を極力驚かせないように声を掛ける。
「…あのー?」
「ひっ!?」
その相手は意気消沈していたクライブであった。
クライブはハコミの姿を視認すると短い悲鳴を上げながら飛び退いて、棚に脚を引っかけて体勢を崩して頭から転んでしまう。それを見てハコミは少しばかり悩んだが、そっと手を差し伸べる。
「えぇと、君。大丈夫?」
「…あ、ひっ」
震えるクライブをなだめすかして、なんとか会話できるまでハコミはしばし苦労するのであった。
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