第4話:笑顔の脅迫
「てっきり僕もあのゴブリンみたいに喉を食い破られて殺されるかと」
「いや、ならあの場に俺を置いてどっかに行くなよ…。もし、俺が人を襲う怪物だったらあの場にいた人どころか、他の街の人にも被害あっただろうし。というか縄を自力で解けるような化け物だったらそれこそ皆殺しになってたかもよ?」
ハコミは呆れてクライブに返答する。
もし己が凶暴な怪物だったなら、それを安易に持ち込んだクライブのみならずビンベや他の街の人間まで襲われるのは容易に想像できるはずであった。それをまったく想定せず、また後始末や警告すらしないのは想像力がなさ過ぎていた。そのことをハコミはクライブに懇々と説教をする。
「”不用心に持ち帰ったものが厄災をもたらした”なんて話はどこの国にも必ず伝承や民話の1つとしてあるもんだ。例えば”竜宮城から老人になる箱を持ち帰った浦島太郎”や”アフリカのバガンダ族の始祖キントゥが神からの警告に従わなかったばかりに死という概念を引き連れてしまった”とかいう話なんていくらでもあるし」
「えーと…?」
クライブは目をぱちくりさせながらハコミを見つめる。
『うらしま…? アフリカ…? え?』ワケの分からない単語がいくつもあったものの、何回も丁寧に説明されてようやくハコミの言いたいことを理解する。
「要は自分の力量で計れないことや対応出来ないことを安易に持ち運ぶなってこと。分かったか?」
「ああ…はい」
クライブは懇々と説教をされすぎて、自身よりも小さい少女の見た目をハコミについ敬語を使ってしまう。同時にクライブはハコミが人を無差別に襲うような木箱の怪物でないことをここでようやく再認識する。
「それはそうと。頼みがあるんだけど」
「え、頼み、ですか?」
「俺、文字の読み方がまったく分からないんだ。他に頼れそうな相手も居ないし、簡単で良いから読み方と書き方を教えてくれないかい?」
「え、えぇ…?」
「断ったら”君の叔父さんに泣きつく”けどな? さて協力してくれる、よね?」
ハコミは鋭い牙を覗かせながらにっこりと笑いかける。
クライブは名前も知らぬ目の前の少女に気をされて、かつ脅迫されてこの申し出をついつい了承してしまうのだった。
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