第十話 大洗からの帰還 ー春フェス乱入計画ー(出禁)


「ますたー、ブルショット」


「マスターじゃないですから」


 今、俺の部屋には飲んだくれた女教師が炬燵で暖を取りながらナッツ類と熟成チーズをつまみにお手製のカクテルを飲んでいる。

 二十一時を過ぎ、曇りがちだった天気のせいか月の明かりも星の瞬きもない今晩は黒く暗い様相を窓の外に伺わせている。春一番の風がビョウビョウと嫌な音を立てて安普請のアパートのアルミサッシの桟をガタガタと揺らす。 

 例の亜空間を貰ってから料理が徐々に趣味となり、下戸のくせにカクテル作りにまで興味を持ってから、スマホのレシピサイトを横目で見つつ、手に入りやすい酒をディスカウントショップで買い、弱めのカクテルを休日の前夜に一人で楽しんでいた。

 そのことをチウの担任であり、いつのまにか探求部の顧問に居座っていた、家事能力皆無で自炊はせずに外食派の独身女教師である霧生瑞樹に知られてから、ご相伴にあずかるという名目で毎週末に俺の部屋へ飲み屋の代わりに通い続けられている。どうやら、自宅から近いらしい。迷惑なこった。

 背は低め、眼鏡のせいで地味に見えるが可愛い顔だちで巨乳の霧生が独り身の男の部屋に来れば、獣の本能が呼び覚まされそうだが――はっきり言ってこいつは俺の好みではない。できれば、美人系のできる女性が好みだ。俺の代わりに仕事して養ってもらえれば最高だ。ヒモになりたい。

 初の担任を任されていた重圧が新学期の新学年から新たに続くことが知れた本日はいつもよりピッチが早めだ。

 四月一日。エイプリールフール。春休みの最中だが、チウはこの場にいない。居室で寝ていることとなっているが、実のところ夢世界へと戻っている。


 作り置きの牛バラと大根の煮込みの汁と一味とうがらしにウォッカをシェイカーに入れて、適当に振ってガラスコップに注ぎ、そっと出す。

 そもそも急に洒落たものを言ってきたので、あるもので作ってやった。ビーフブイヨンなんてありはしない。粒状牛だしの素をお湯で溶いてやってもよかったが、なんとなくそれすらもったいなく感じたので止めにした。酔っ払いには水を出しても判らないだろうが、それでもそれなりに答えたくなるのも心情だ。


「なんだかお袋の味みたいれす」


 牛バラの他にカツオ出汁と大根の味が染みているからだろうな。酔っ払いのたわごとへ内心で返答しつつ、どうしてこうなったのかと、三月三十一日に起きた出来事に思いをはせた。




 ――所と音流のどちらに記憶媒体が入ったのかは結局判らなかった。


 躍らせればすぐにわかるだろが、突然「踊ってみ」と言い出せば怪しまれるのが関の山だ。せっかく、アポをこじつけたのにご破算にはしたくはない。

 局長閣下に調べる術を打診してはみたが、作るとすると先日の円錐の椅子型生物イスの偉大なる種族になると知らされて諦めた。あいつらは信用できない。


「と、ともかくですね、学校側として部活動を正規なものと認めるには顧問が必要でして、郊外活動ともなると同伴する必要性もありまして……」


 徐々に語尾を弱くして言い訳がましいことを言っているのは、ダンスフェスを見に行く算段がついたころ、音流からそのことを知ったチウ達の担任でもある霧生先生である。何をそんなに食いついているのだろう。


「実は工藤ルイエールのファンでして」


 うわ、そばに敵がいた。あんなマウントパリピのクソ野郎のどこが良いかはわからない。ぼそぼそと「渋い感じのチョイ悪さ加減がかっこいい」とか聞こえてくる。所詮は見た目か。サングラスを外したさまを見せてやりたいが、多分、一瞬で失神して何があったかさえ記憶にも残らないだろう。


 そして奴主催の春のダンスフェスに行くと知るやすぐさま探求部(仮)の顧問を名乗り出て、それにかこつけて同伴の旨を言い出したようだ。


「自分一人で気兼ねなく行けばいいじゃないですか」


「いやぁ、一人でああゆう場所に参加するのはちょっと勇気が……」


 下を向いてモジモジしながら、変な男達に絡まれるのも嫌だし、ノリノリの場所に地味系の自分が行くのは気が引けていてとボソボソと聞き取りづらい声で呟いている。確かに、この人はあの手の場には似合わなさそうだ。


「まあ、構いませんが。車は出してくださいね。俺の車に五人は乗れないこともないですが、ちょっときついんで」


「あの、先日家の車庫に入れ損ねて車が全損修理を……」


 人を乗せて運転させてはいけない人でした。




 結局、俺のSUVに全員で乗っていくことになる。もちろん運転手は俺。運賃も俺持ち。ガソリン代も俺持ち。


 ……夢世界の経費で落とさせてもらおう。


「それにしても、よくチケットが取れましたね。工藤ルイエール主催の参加型ダンスフェスは人気が高くてチケットが取りづらいことで有名なんですよ」


 朝から気分が高めの助手席に座る霧生が窓の外に流れる風景を見ながら、不思議そうに訪ねてきた。


「……まあ少し、コネがありまして」


 工藤本人主催者へ喧嘩を売った末に、参加してやるからチケットよこせと着信履歴から登録しておいた工藤宛にSMSを送ったら、関連企業からきちんとした文章で『お待ちしています』と人数分のチケットが送られてきた。あとから追加した霧生の分も快く送ってくれた。大企業は懐が深い。

 社員の方にお知り合いでもいるのですかと聞いてきたので、そんなものですねと適当に返しておいた。主催者本人ですよとは口が裂けても言えない。


 北関東道をひた走り、水戸大洗インターチェンジから降りて、ナビに従い大洗海浜公園へと向かう。近くなると徐々に混雑が始まるが、丁寧な誘導をしているせいかストレスもなく駐車場へと入ることができた。


「チケットを提示願います」


 遠くで潮騒が聞こえる会場前も列になってはいたが、滞りなく受付までたどり着くことができた。

 ややエラが張っているものの、にこやかに笑う女性スタッフにチケットを提示。


 女性スタッフはチケットを見て、後ろに控えているごつい男性スタッフ――まだ寒いさなかに緑色の半そで姿で筋骨隆々のいかつい腕によくわからない模様のタトゥーをびっしりと施したスキンヘッドのいかにもおっかなそうな男――に目配せをしている。


 こちらの正体はバレバレですね。そりゃそうだ。


「確認はとれました。本日はどうぞ、お楽しみください」


 女性スタッフは改めて向き直り、作られた微笑みを向け、俺達を会場へと誘ってくれた。


「工藤ルイエール主催のフェスは個性的な人達が集まるわりには、皆、礼儀正しく参加することでも有名なんですよ。もちろん、はしゃぐとこでは、はしゃぐみたいですけど」


 周囲にいる俺たち以外のフェスの見学者を眺めつつ先生が解説をしてくれる。たしかに、見た目ヤンチャしそうな若い連中も見える。それなりにはしゃいでいる連中もいるものの、他の人に肩がぶつかろうものなら、必ず謝り連れの人から注意を受けている様子も見える。


 原因は会場のいたるところに見えるスキンヘッドの連中だろう。あれ、会場の警備を兼ねているスタッフだそうだ。とても逆らえる雰囲気ではない。


「以前、他国で警備スタッフの方に食って掛かった集団もいたらしいのですが、瞬く間に制圧されたって有名なんですよ。実は動画もアップされています」


 先生の言葉を聞き、思わずスマホで検索を掛けてみると確かに『恐スタッ怖』と題された動画が存在していた。


 幾人というよりも数十人規模で三人程の警備スタッフに食って掛かる海外の半グレ見たいな集団。フェスの審査結果が気に食わなかったらしい連中が半ば恐喝まがいの抗議をしようと目論んだようだ。


 それもそのはず、このフェス優秀者には額は伏せられているが賞金や、素晴らしい副賞もでることになっている。それも、それなりにおいしい額らしい。

 工藤がフェスを開催している企業は名目上、日本企業になっているから、当初は海外の人間に舐められたのかもしれない。


 一人が警備スタッフの胸倉をつかんだ瞬間――両腕を伸ばした警備三人が集団を押し始めた。無理があるだろうwwwというコメントも流れる。

 だが、警備員に負けないくらい、いかつい数十人は見る間に押し負け、後ろに控えていた別のスタッフ達が追いやられた者から構わずに衣服をつかみ囲いの外へと放り出して行く。警備員へ殴り掛かる奴もいたが、気にもせずに殴らせ一向に怯む様子もなく、構わず押し進め、殴っていた方が恐怖に叫び始めている様子も伺えた。


(おい、こいつらも絶対に夢世界側の住人だろう)


(あのハゲ頭、全員クトゥルフの落とし子よ。絶対に逆らわないで!)


 小声でチウに聞いてみたが、青い顔して想像通りの答えを告げられた。


 虎穴に入らざれば虎子を得ずとはいうが、虎が多すぎやしないか?


 

 

 それなりの広さで造られた野外用のステージの上ではノリノリのミュージックにキレのあるダンス、息の合ったリズムで踊るダンサー。ステージの後方上部にはドデカイディスプレイにステージの様子が映し出されている。

 有名どころもちらほらと出てきているようだ。そんな時はステージを囲む観衆からどよめきと喝采が起こるから、興味がなく無知な俺でも何となくわかる。

 参加型を銘打っているだけあり、時折会場から無名の者が得意なダンスが始まるとステージに乗り込み挑む様子も伺える。調子に乗って上がっただけの下手な奴には、容赦なくブーイングが向けられ、喧嘩になりそうな様子も伺えたが、そんな時はスキンヘッドのスタッフが丁重に双方を引きずり出していた。


 騒々しくも順調にフェスのイベントは消化され、海岸線に陽が沈み、海辺を朱く染め始めるころ、最後のパフォーマンスタイムとなったようだ。


「さあ、いよいよクライマックス! 本フェスの主催者、工藤ルイエールの登場です! 飛び入り参加でルイエールとショーダウンダンス対決も大歓迎です!」


 アナウンスの声を聞き、ざわざわとした声も静まり、静寂が訪れたころを見計らい、ステージのライトに照らされて背中に蝙蝠の羽のタトゥーが彫られた引き締まった肉体に白いシャツを羽織り、白い中折れハットを浅くかぶったドレッドヘアのルイエールを先頭にスキンヘッドの集団が囲みつつゆっくりと乱れることなくステージの奥から歩いて出てくるば、息の合った振り付けで踊りだす。

 あ、サイドから有名どころが出てきた。ルイエールに指を向けて流れる曲に合わせて違うステップを踏み始める。逆サイドからも別の連中が現れる。それを見て、一斉に喝采を上げる観衆達。


 飛び入り参加と見せかけた脚本どおりの演出


 ――会場の客席側にいる有象無象が本当に飛び込み、肩を並べ、踊れる度胸はそうはない。ラストに呼ばれてステージに上がっているのは、一流の実力者ばかり。本来は、素人が出る幕ではない。では、この時を伺っていた俺達はどうするべきか――


 じつはあの記憶媒体には俺の注文で一つの細工がしてあった。が流れると、自然と体が動き出すようになっているそうだ。動きだした時から意識は途切れる手はずで、俺とチウでステージ上に引っ張り上げる計画だ。

 そして、曲が終われば自然と体の自由も元に戻り、二度と同じようには踊れなくなる。記憶もなくしてね。


 MJの代表曲にして世界で一番売れた曲「ホラー」

 そして、MJをリスペクトしているというルイエールがラストに必ず踊る曲。

 今まさに、曲が流れ始める。さあ、どちらが動く。


 ステージにいたすべての人がホラーの曲に合わせてダンスを始める。先頭にはルイエールが立ち、MJを彷彿とさせるステップを踏む。上手いと思う。


『フゥー。彼は身を委ねていないね』


 俺の隣で誰かがつぶやく。おかしな声のした方へ目を向ける。

 メガネの奥の目を細め、薄笑みを浮かべた所がいた。


 唖然とする俺から言い出す前に、熱狂する群衆の波の隙間をするするとすり抜けて、所が前へと向かう。おかしい。想定していた行動と違う。所の様子を見ていたチウと音流がポカンとした顔をしている。霧生先生は目の前のルイエールに夢中だ。


「所を追うぞ!」


「へ? なに? どういうこと?」


 たくさんの疑問符を浮かべる音流を無視して、チウと共に群衆を掻き分け、ステージの前へと向かう。押すなと文句を言われても気にしている場合ではない。意識をなくすはずの所がなんであんなにスルスルと前へ進めるのだ。

 所はステージの前までたどり着くと、客席側で叫んでいた男がかぶっていた中折れ帽を無断で手に取り、壇上へと颯爽とあがる。


「お、おぉ! これはついに会場からの飛び入り参加か!? ルイエールに対して伝説のホラーでショーダウンダンス対決を挑む、無名の強者が現れました!」


 突然の飛び入り参加にアナウンスも入ると、会場はどよめく。そこかしこでブーイングも始まる。邪魔をするなと言いたいのだろう。ルイエールが片手をあげ、ブーイングと曲を止める。

 両手の掌を、中折れ帽を目深にかぶる学校指定のブレザーの制服姿の所に向けて、さあ見せてみろと余裕の様子を見せつけている。


「意識がなくなる手はずだろう? 意識があるにしても、所はこんな大観衆の中でステージに上がって踊れる度胸があるとでもいうのか」


 ステージへと上がった所を見て違和感を感じた矢先にスマホが鳴る。嫌な予感。着信の相手は――局長閣下か。


『もしもし、始まっちゃいました?』


「ああ、記憶媒体を飲んだのは所のほうだ。だが、なんだかおかしいぞ」


『実は、記憶媒体について椅子から報告があがりました。ダンス技術の記録のつもりが、MJ本人の記憶だったようです。曲が鳴ると、本人の意識がなくなる代わりに、MJの精神へ移り変るようです。ちなみに本人MJが納得するまで元に戻ることはないとのこと」


「結局、精神交換じゃあねえか!」


 しかも、質の悪い類だ! あの種族の作るものは今後、絶対信用せんぞ! じゃあ、今、所の精神は完全にMJ本人かよ!? 運動能力は普通より上って音流には聞いたが、まともに身体がおっつくのか?


 こちらの心配を知るはずもなく、再び始めから曲が流れ始める。

 ルイエールと取り巻き達が先ほどよりも力強くダンスを始める。

 所は両手を下に組み、身体を傾げてルイエールを眺めていたが――


 両腕を振り上げ、流れるような華麗なターンをし、淀むこともないダンスが始まる。所のダンスを見るやいなや、ルイエールに戸惑いが見える。


 会場のどよめきとブーイングが小さくなっていく。束の間に訪れる静寂。


『――♪♪!! ♬♬――』


 その隙を狙ったかのように、所から美しくも響く声が発せられた。MJを彷彿させるような歌声、下手をすれば声だけを聴けばそれ以上かも。


 そして、一斉に湧き上がる諸手を上げた大歓声。先ほどまでのブーイングを手のひらを返したような大喝采、会場は一気に最高のボルテージに達する。


「おい、ニャルラトテップ! 声まで変えるのか、あの記憶媒体!」


 まだ繋がっていたスマホの先の局長閣下へ思わず聞き返す。


『いえ、聞いてませんよ? どういことですか――』


 スマホの先にいる、イスの種族を問い詰め始めた局長閣下は最早あてにならない。ステージ上では、歌いながらもキレのあるダンスをする所の周りに有名どころが嬉々としてバックダンサーを演じている。こりゃあ、完全にMJの再臨だな。


 ステージの前に来ていた俺を、一人取り残され呆然としていたルイエールが見つける。偉い勢いでステージから降りてこちらへ向かってきた。


「おい、貴様! これはどういうことだ! あの小僧に一体何をした!」


「イスの種族が残していたMJのダンスの記憶を埋め込んだつもりが、MJ本人の記憶とすり替わったようです」


 怒っているのか、慌てているのかわからないほど動揺している様子のルイエールへ、正直に真相を告げた。


「おのれあの、クソ種族、そんな良いもの隠しておったか! 夢世界へ戻って、略奪してから、滅ぼしてくれる!」


 やめて、冗談に聞こえないから。アンタクトゥルフが言うと。

 ステージも会場も完全にMJ=所が掌握してしまった。流石はレジェンドオブポップ。身体は本人ではなくとも、カリスマ性が半端ない。


「これ、勝負あったってことで良いか」


「勝負とはなんのことだ?」


 何を言っている。俺はこいつに……そんな勝負申し出てもいないな。参加してやると吐いただけだ。そもそも、こいつに会えれば良かったはずだ。どうして、ここまで騒ぎが大きくなった。あれだな、あの時の売り言葉に買い言葉。あそこからおかしくなったな。


「貴様、あとで楽屋へ来い。詳しい話を聞かせよ」


 言葉遣いが変わっていたルイエールはそう言い残してステージへと舞い戻る。熱唱しながらダンスを続ける所を称えるような素振りを見せながらバックダンサーに混じりダンスを踊り始める。

 そして、まるで尊敬する師匠を見続ける弟子のように曲が終わりダンスが止まるまで、MJが降臨した所を見続けていた。



『音楽に身を委ねていないね』


 楽屋に招かれ、対談をするかのように向かい合うルイエールの質問に対して、MJが降臨している所が答える。


「俺の声音は醜い。アンタのような歌声で歌うことはできない」


『そんなことは関係ない。キミが決めることではない。音楽が決めることだ』


 MJの一言一句を聞き逃すまいと、真剣に耳を傾けるルイエール。


 フェスが終わり、片付けているさなか用意されていた楽屋兼用のマイクロバスへと招かれた俺たちは、周囲を落とし子達に取り囲まれつつMJ=所とルイエールの会談を馬鹿面を下げて聞き続けていた。


『フゥ、久しぶりに話をした。そろそろ、この子に時を戻してあげないと』


 質問に一区切りがついた段階でMJから対談の終わりが告げられる。


「あ、すみませんが一つだけ。踊りがうまくなったのはMJさんの技術によるものだと思いますが、声に関しても貴方とその子の精神交換がされたせいですか?」


 精神を所に戻そうとするMJに対して、俺から疑問を投げかける。


『フゥ! ノン、違う。これは彼の生来の声質だ。素晴らしいものだ! まるで神のごときものだね。この子ならきっと――』


 最後まで答えることをせずに微笑み、目を閉じるMJ。そして、次に目が開くと


「あ、あれ、ここはどこですか――」


 俺の目にはサングラスを外し、金色の瞳を輝かせるルイエールの姿が映る。

 俺と落とし子以外の者は崩れるように、その場で気絶する。

 肘を膝につき、椅子に浅く腰掛け前かがみで邪悪な笑みを浮かべるルイエール。


「久しぶりに有意義な語らいをした。イスの連中め。我にこのような技術を隠しているとはな。ニャルラトテップの思惑にはまるのは癪だが、一度、ドリームランドに戻るとするか」


 ここに至る経過はともあれ、こちらの望み通りクトゥルフ工藤 ルイエールはドリームランドへ帰還する旨を告げてくれた。もう、賞金とかどうでもいい。早く、帰って寝たい。


「我の主催するフェスで飛び入り参加で最優秀賞をもぎ取ったのは、こやつが初めてだが、流石に褒められた方法ではないのでな。次回からの参加はお断りさせてもらうよ。お主達全員」


 まあ、俺は一向に出禁でも構わないが、とばっちりを食らった霧生先生は後で涙目だな。ルイエール本人と一目会いたいと駄々をこねていたが、警備の都合上だと丁重にお断りをして音流と共に車で待機をする代わりに、サインを強請られているから、それで誤魔化そう。


 いつの間にか人の姿から、緑色をしたヌメヌメとした肌に変わった周囲を取り囲む落とし子達が俺を怪訝な様子で眺めているように伺えた。

 クトゥルフもドレッドヘアーや髭が触手に、肌はうろこ状の深く黒に近い緑へと変わっている。目が半月状になり、悪意に満ちたような笑みを感じる。


 ――やっぱり本性は気持ちが悪いなあと考えていた俺に向かい


「で、ヒトの存在で我の本質を見て、狂いもしない己は何者だ?」


 ただの人間だと思いますが、なにか?

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