第二部二章『未練探し』2-3


 そして、翌日のこと。


 この日は加子の代わりに白華はっかが俺に同行してくれる話となっていた。え、何? 二人はシフト制なの? 出来れば、俺も変わってほしいんだけど…… しかし、悪霊に憑りつかれているのは俺なので、それは無理な模様。残念だ。


 んで、そんな俺たちが訪れた場所は……


「どうしてスポッ〇ャなんだよ」


 そう。ここはアミューズメント施設、要するにアレンドワンのアレッチャである。


 若い層で賑わっているこの場所は、多彩なスポーツやらリラクゼーションやらを体験できる施設で、周りはネットで覆われたプレイスペースがいくつもある。

 マルチコートや卓球、射撃や簡易ゴルフなんかもあって、軽く一日中遊べるくらいには充実したラインナップが揃っていた。


 誰だって一回くらいは行ったことあるだろうし、行ったこと無くてもイメージするのは容易いことだろう。もし分かんなければ、ホームページでも見てきてくれ。


 とにかく、身体を動かして遊べるアミューズメントパークだ。


「いやぁー、毎回バッティングセンターだと一斗も反対するし、味気ないかなって。偶にはこういう場所もいいんじゃない? いちおうバッティングも出来るしね」


 と、話す白華はスポーツウェアで準備運動を始める。遊ぶ気満々じゃねぇか。

 白華が動くたびに、揺れる大きな胸と引き締まった身体のラインが健康的なエロスで浮かび上がる。


【ねえ、一斗。この子、私の未練のこと完全に忘れてるわよね】


 だろうな。本人は普通に遊びに来ている感覚なのだろう。


「おい、白華。今日は遊びに来たんじゃねぇんだぞ? 美恋の心残りを探さないといけねぇんだから」

「わ、分かってるけどさー。まだ見当も付いてないなら、デートしながら探した方がお得じゃん?」

「お前ら、思考が一致し過ぎてんだよなぁ……」


 加子も同じこと言ってたし。いったい誰の悪影響なんだか……俺かなぁ。俺だな。


「ほーら、早く行こっ!」

「おおう」


 るんるん気分の白華に腕を引かれて、俺は施設内を進む。楽しそうで何よりです。

 まあいいか。タイムリミットがあるといえ、まだ余裕が無いわけでもない。

 ここまで来たら楽しんだもん勝ちか。気楽に行こう。


【考えが甘過ぎよ…… っていうか、この子にも手を出してたのね。このクズ】


 うるせぇな。成り行きでそうなっちゃったんだよ。俺だって想定外だ。


【で、どっちが本命なの? キープの方は直ぐに捨てなさい。その方が、その子の為よ】


 分かってるよ。でも、その辺の話はデリケートなんだ。まだ結論は出てねぇ。

 っていうか、部外者がいちいち口出してくるんじゃねぇっての。


【ま、それもそうね。二人の間で修羅場って、あんたが両方から振られた方が面白そうだし】


 納得のベクトルがおかしいだろ。

 ったく。その件は、俺の方で結論を出すから、お前は二度と口出すなよな。


【はいはい。そーするわ】


 と、ホントに分かったんだか、分かってないんだか、適当な反応で返してくる美恋。

 でも、確かにちょっとは意識しないとだよなぁ…… いつまでも先延ばしにし続けるわけにもいかないし。


「ねえねえ、一斗! とりあえず、バッティングしてもいい?」


 なんて、悪戯っぽい表情で聞く白華だった。


「なんだよ。結局、いつも通りじゃねぇかよ……」

「いいじゃん。やりたいものはやりたいの!」

「まあいいけどよ」

「やった!」


 純粋な笑顔を浮かべて俺の半身に密着する白華。もにゅんむにゅんと白華の大きく柔いものが密着するが、俺はクールなナイスガイなので平常心でクールにおっぱいおっぱい。


 ということで、施設の屋上へ向かうことになった。

 ネットの中のバッターボックスに立つ赤メッシュの不良ギャルには、金属バットが良く似合う。なんとなく雰囲気的にだが。いや、釘バットの方が似合うか。


 白華のスイングは綺麗且つ上手いもので、快音を鳴らしながらポンポンとボールを撃ち返していく。

 そんな姿を俺はネットの外側から眺めていた。主に躍動する胸部を中心に。


【このクズ。変態】


 脳内で罵倒が聞こえるが気にしないでおく。クズで変態でも結構。それが俺だ。

 にしても、白華って運動神経はかなり良い方だよなぁ。


【ま、そうね。見たところ、あの運動神経なら戦闘タイプのデスゲームでも役に立つんじゃないかしら?】


 バカ言うなって。あいつはゾンビじゃねぇんだぞ。死んだらお終いだろうが。


【むしろ、私からしたらゾンビが異常なんだけどね……】


 まあ、それもそうなんだが、何にせよ白華が傷つくリスクは避けたいというものだ。

 無限に再生する俺だけが単騎で戦う。それが最善手だろ。いちおう加子も同じ条件だけど、男の俺の方が戦いには向いてるだろうし。


【俺の方が戦いには向いてる、ねぇ…… 鏡を見れば、喧嘩もしたこと無さそうな顔してるくせに】


 実際、死ぬ前はその通りだったんだけどなぁ……

 まさか、こんな人生のエピローグを送ることになろうとは思わなかったよ。


【でもまあ、あんた意外と強いのよね。もう一度、あの戦い方を見てみたい気も…… ふーん。……あはっ】


 ん? どうした?


【いえ、人が増えてきたと思ったのよ。それより、飲み物でも買ってきなさい。そろそろあの子もワンゲーム終わって出てくる頃だろうし、気を利かせなさいよね】


 あー、なるほどな。

 よし。汗を流した女の子に、そっとドリンクを差し入れるクールガイになるとするか。

 俺はその場を離れて、近くの自販機まで移動する。

 無難にスポーツドリンクでいいかな。


【いいえ、ここはキリっと強炭酸にするべきね。喉を通る刺激が爽快のはずよ】


 ただの嫌がらせじゃねぇか。水分補給したいのに、炭酸じゃ飲みにくいだろーが。


【じゃあヤク〇トとか】


 ちっせぇわ。運動後なんだから、もっと水分を飲ませろ。腸内環境を整えてる場合じゃねぇんだよ。


 などという無駄話を挟みつつ、自販機に小銭を投入してアク〇リアスを購入。

 そんなこんなで、白華の居る元の場所の付近まで戻ってきたのだが……、これはどういう状況だろうか?


「へいへい、そこの可愛いお姉さん、俺らと一緒に遊ばなーい?」

「あ、結構です」

「そう言わずにさっ。ここの料金、俺たちが奢っちゃうからさっ」

「ちっ」

「カラオケ行こうよ、カラオケ! 良い場所、知ってっから! ここの三階!」

「むぅー…… あーもう、一斗どこ行ったのー!」


 と、心底面倒そうに叫ぶ白華だった。

 その周りには、チャラい格好をしたガラの悪い男共が三人。ぱっと見は大学生くらいだろうか。


 な、なんか、ベタな絡まれ方してるなぁー…… これ、もしかしなくても俺が助けるパターンだよなぁ。


【当然でしょ。あ、本気でやりなさいよね。ボッコボコにしてやりなさい。あんたなら余裕でしょ。ふふん】


 おいこら、なんか楽しんでるだろ美恋。

 つーか、もしかしてお前……、こうなることが分かってて離れるように仕向けたんじゃないだろうな?


【フフ、今さら気づいたところで遅いわ。ガラの悪そうな連中が居て、一人ぼっちの美少女が居れば、当然こうなるでしょ? さ、思う存分、俺TUEEEしてくるといいわ!】


 はぁ……、さっきのはこういうことかよ……ったく。いい性格してるぜ、このクソ悪霊。


 まあとにかく、白華を助け出すことが最優先だな。最悪、多少荒事になっても、俺が負ける道理は無い。


 美恋の思い通りのというのが癪だが、白華に手を出す連中には制裁が必要だろう。

 と、俺は小走りで白華の元へ駆け寄った。


「うわー、ちょー可愛い。お姉さん、胸大きいね。いくつあるのー?」

「うざい…… 私、彼が居るので、これで」

「待ってよー! その彼氏くんよりも俺の方がカッコ良くない? ねえ?」

「っっっ……!」


 男が白華の肩に手を掛ける。嫌がる白華が、身震いして身体を捩った。

 ……ッ! あの野郎……!

 久しぶりに……キレちまったよ。屋上へ行こ……ここ屋上か。

 まあいい。このクソ野郎、俺のゾンビパンチでぶっ殺してやろう。そうしよう。


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