第二部一章『デスゲームはラブコメの予感』1-3


 ……まあ、とりあえず、自己紹介でもするか?

 と、落ち着きを取り戻した俺は、悪霊さんに話を切り出してみた。


 ひしゃげたアタッシュケースに腰掛け、何もない空間を見て心の中で問いかける俺。

 当然、悪霊さんの姿は見えない。


 だから、どこに居るのかも分からな…… いや、たぶん分かる。何故なら、過去にも似たような感覚に覚えがあったからだ。

 きっと、そういうことなのだろう。


【あのねぇ。まずは、あんたから名乗りなさいよ。っていうか、独り言多すぎてうるさい】


 なんだと、生意気な悪霊め。仕方ねぇだろ。俺の一人称でやってるんだから。……じゃなかった。自己紹介だったな。まあいい。俺からしてやろう。

 俺は犬丸一斗。ちょっと前に死んで、ゾンビになった。大学生をしながら、今はデスゲームで金を稼いで生活している。よろしくな。


【いやいやゾンビって…… ホントに実在したのね。まあ、地縛霊の私が言うのも何なのだけれど。その辺、もっと詳しく教えなさいよ】


 えー、めんどくせぇな。第一部読んで来いよ。


【はぁ?】


 いや何でもない。俺が死んだのは数ヶ月前のことだが――――



 ――と、俺が死んでから今日までのことを掻い摘んで説明したのだった。


【ふーん。なるほどねぇ。あんたも色々と大変だったのね】


 おお、分かってくれるか?


【あっははは! やっぱり他人の不幸話は面白いわね!】


 クソがぁっ!

 このクソ地縛霊、中々いい性格してやがるぜ。悪霊なだけはある。


【ま、次は私の番ね。……といっても、私は自分の記憶なんて殆ど無いのだけど】


 記憶がない?


【そ。まず知っていること。名前は四居美恋よついみれん。あれは数週間前かしらね。ここで行われたデスゲームで死んだみたい。で、名前の通り現世に未練が残って、地縛霊になったの。それ以外の記憶は殆ど無いわ】


 デスゲームで死んだ地縛霊ねぇ。

 ってことは、お前。もしかして、この廃ビル出られないのか?


【ええ、そういうこと。私は気づいたらここに居た。そして、ずっとこの廃ビルから出られないまま、いくつかのデスゲームを傍観してきたわ。……会話が出来たのは、あんたが初めてね。相手がゾンビだからかしら?】


 ああ、それなんだけど……

 たぶん、お前の魂が俺の中に入ったからだと思うぞ? だから、俺の身体を使って、ここから出ることも可能だ。


【? どういうこと?】


 まあ、そのまんまの意味だよ。

 俺をゾンビにした音黒せんせーって人が以前に言ってたんだけど、魂は肉体とは別に存在しているらしい。

 んで、その魂の器になり得る物質が、この世界には存在すると。


【じゃあ何? 私にも魂の器があって、地縛霊になっていたってこと?】


 おそらくだけどな。所謂、依り代みたいなものが、この近くにあったんじゃないか? だから、本質的にはゾンビの俺と同じだ。

 俺はペンダントという器を通して、自分の肉体の中に居る。


 お前は何かの依り代があって、魂だけが廃ビルにあった。ただ、俺と違って動くための肉体が無かっただけだ。

 動ける肉体があるのか無いのか。それが、ゾンビと地縛霊の違いなんだと思う。


【そう…… いちおう、言葉の上では理解したわ。実感は無いけど…… で、ここから出られるっていうのは、どういう意味なのよ?】


 突然だが、お前は今日から地縛霊ではない。ゾンビだ。


【は? 何よ急に……?】


 お前は俺という肉体を手に入れたゾンビなのだ!

 この感覚、間違いない。

 以前、加子が俺の中に居た時とまったく同じものだ。


 よく分からないが、あの爆発の際、きっとお前の依り代は砕け散ったのだと想像できる。

 器を失ったお前の魂は、別の器を無意識に必要としていた。

 そう。つまり、俺の体内に存在するペンダントのことだ。


【え。ってことは、もしかして……】


 俺とお前は同じ身体を共有するソウルメイトになったということだな。


【ええええッ!? ちょっと、そんなこと急に言われても困るわよ!?】


 俺だって同じ気持ちだわ。

 やーっと魂の一人暮らしだと思った矢先に、またシェアハウスとか、もううんざりなんだが? しかも、同居人は悪霊とか!

 あの頃は魂まで可愛い加子が同居人だったから良かったものの、お前みたいな性格のやつと四六時中一緒とか勘弁してほしいわ。まったく。


【それはこっちのセリフなんですけど!? なにが悲しくて、あんたなんかとずっと一緒に居なきゃならないのよ!?】


 はぁ…… このまま文句を言い合っていても仕方ねぇんだけどな。

 だが、こうなってしまった以上、マジでどうしようもないんだ。

 既に俺がどうこう出来る領域の話じゃなくなったんだ。残念なことにな。


【じゃあ、ずっとこのままで居ろって言うの?】


 そうは言っていないだろ。

 とりあえず、俺を生み出したマッドサイエンティストこと音黒せんせーに相談だな。

 あの人なら、きっと何とかしてくれるはずだ。


【そう。なら、さっさと会いに行くわよ! 急ぎなさい!】


 まあ待て。

 急いては事を仕損じると言うだろう。せんせーに会う前にやることがある。


【何よ、こんなときに?】


 俺、今日のデスゲームで一円も稼いでねぇんだ……

 だから、音黒せんせーのご機嫌取りの為に、貢物を買いに行かないといけないんだよな。

 でないと、俺がゾンビなのをいいことに勝手な身体の改造をされるんだ。俺はミニ四駆かっての。


【……あんた、ちょっと同情したわ。この私が珍しく】


 悪霊に同情されるくらい、音黒せんせーは酷いマッドサイエンティストなんだなぁ。

 真の悪魔は音黒せんせーなのかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺はボロボロの服装で街に繰り出したのだった。


   ◇



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