第二部一章『デスゲームはラブコメの予感』1-2


「うおらぁああああ!!!!」


 まず、奇襲攻撃により斧の鬼を思い切り殴りつける。仮面の一部が砕け散り、その場に倒れ込んだ。

 だが、その攻撃で無防備になった俺を、間髪入れずに刀の鬼が切り付けてくる。


『グオオオオオ!!!!』


 これは絶対に避けられない。無理だ。どう考えても間に合わねぇ。

 なので、そのまま受けることにする。

 しかし、これは太刀の斬撃。手足が丸ごと切断されれば、再生の手間がかかる。

 ゾンビな俺にも場合によっては、致命傷になり得る攻撃だが…… まあ、考えはある。


 あ、ちなみにだが、そもそも俺のパンチが重いのには、物理的な重さが加わっているという理由もあったりするわけで――つまりこういうことだ。


「ふっ――ッ!」

『――――ッ!?!?!?』


 刹那、俺の腕から赤く濡れた刀身が伸びる。それが鬼の振り下ろした刀を受け止めた。

 まあ、普通に考えて意味が分からないだろう。鬼氏も大混乱だ。


 ふっふっふ。これについては……、俺もマジで意味が分からん。

 何か知らんけど、目が覚めたら付いてた。


 ある日、研究室で朝起きたら何か腕が重いなーって思って、腕を振ったら刀が出るようになっていた。

 困惑する俺の隣で「ゾンビなんだから問題無いだろ」って、俺を見て音黒せんせーが爆笑してたんだ。……俺の身体で勝手に何してるんだよ。ゾンビの身体を改造すんな。


 この刀は普段、俺の前腕に収められ、良い感じに振ると手のひらを突き破って出てくるような仕掛けになっている。

 デスゲームではゲーム開始前に所持品を没収されるのだが、さすがに体内にあるものまでは取られないようで、便利な隠し武器と化していた。


 どうせならサイコガンとかチェーンソーとかにしてほしいと頼んだのだが、スペースコ〇ラとチェー〇ソーマンからデスゲームを挑まれたら勝ち目がないので却下された。


 しかし、「デス〇サロくらいなら許されるかもな。加子のゾンビと合体させてみようぜ」と音黒せんせーが提案し始めたので、それ以来、余計なことは口にしないようにしている。

 もしかしたら、ロケットパンチくらいなら、そのうちこっそり搭載されているかもしれないという恐怖よな。


 しかしまあ、それはそれとして。今はこっちだな。


「っ! 喰らえぇっ!!!!」

『グァッ――――!』


 鬼の持つ刀を押し返し、その勢いのまま空いた左手で殴りつける。

 その間、別の鬼にバールで殴られるが、それくらいなら直ぐに再生するので無視。

 大きいサイズの刃物にだけ注意しながら、次々と鬼の猛攻を捌いていく。

 斬撃を躱し、跳躍する流れで鬼を殴る。打撃、銃撃は喰らってやる。


「ふはははははははっ! どうだ、見たか! 俺TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


 と、思わず叫んでしまうくらいのチート無双状態。

 ほぼノーガード戦法で鬼と対峙し、重い打撃を加えるだけの簡単な作業だ。

 それに長期戦になれば、それだけゾンビの俺の方が有利だった。


「はははっ! 全然効かねぇなぁ、この筋肉ダルマ共ぉ!」

『ク……!?』


 異常な戦闘スタイルの俺に、鬼たちは化け物と対峙しているかのような反応を見せる。

 まあ、何も間違っちゃいないけどな。俺、ゾンビだし。


『グゥ……!?』

『……、……』

『――――ッ!』

【――――】


 やがて、鬼たちは俺に勝つことが不可能だと判断したのか、気絶した仲間を抱えて撤退していった。っし、終わったかぁ。

 わざわざ追うようなことは俺もしない。こっちは金だけ手に入れば万事おーけーだしな。


 戦闘を終えて一息つく。

 突き出した刀身を床に当てて、腕の中へと押し戻す。ボールペンのペン先を戻すような要領で刀を収納。


 手のひらから流れる血液も、やがて体内に吸い込まれて傷口と共に元通り。

 ホント、何でもありだよなぁ、この身体。

 さてと、ここに鬼が集まっていたということは、どこかにブツがあるんだろうけど……


「お、あれか……?」


 おもむろに扉の破損した一室を覗くと、部屋の中心にぽつんと置かれたアタッシュケースが。

 これを持って脱出すれば、ゲームクリアなのだろう。

 ここまではそれなりに大変だったが、帰りは楽だ。アタッシュケースと一緒にビルの外へダイブするだけだからな。もう死なないってのは便利なもんだ。マジで。


【――――】


 とりあえず、ケースの中身だけは確認しておこう。

 持ち帰ったはいいが中身が空でした、なんてことにでもなれば、音黒せんせーにどんな嫌がらせをされるか分からねぇからな。

 飲み物に混ぜられた睡眠薬で眠らされ、起きたら片腕が孫の手になっていたことも一度や二度じゃねぇし……


 俺はアタッシュケースに手をかけ、ロックを外して――


【――――】


 ……なんか、さっきから耳鳴り(?)がするような気がするな。

 アタッシュケースから目を離して辺りを見渡すが、やはり廃墟の一室でしかない。

 唯一この部屋で異質なのは、手元にあるアタッシュケースの存在だけだ。


 まあ、気のせいか。もしくは、幽霊でも出たのか。

 ここにゾンビが居るくらいだ。幽霊の一人や二人くらい出ても不思議じゃねぇだろ。

 邪魔して悪かったな。これだけ持って退散するよ。


 居るのかも分からない幽霊相手に、俺は心の中で呟いてからアタッシュケースを開けた。

 刹那、閃光が走る。……は?



 ――ドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!!!!



「うおぉぉぉおおおああああああああああっっっ!?!?!?」

【――――】


 轟音と衝撃波が周囲を駆け抜けた。

 視界が一瞬で白から黒に染まり、弾けるように身体が焼ける熱を感じた。

 立ち上がろうにも、全身の感覚が無い。

 びっくりし過ぎて驚きのあまり心臓も止まった。……いや、これは元からだったな。


 とまあ、そうだな。端的に説明すると……爆発したんだ。このアタッシュケース……

 俺は直ぐにそんなことを理解したのだった。


「目がぁ…… 目がぁ……! 見え……た!」


 某大佐ごっこをしていると、思ったよりも早く視力が回復。俺は咄嗟に周囲を確認するが、砂埃が舞い散るせいで状況が掴めなかった。

 いちおう身体の方は……、大丈夫だな。もう大体の再生が済んでいる。大惨事なのは着ていた服と室内と視界の隅で燃える何かの紙片だけだ。


 砂埃がやむと、徐々に周りの惨状が明らかになってくる。

 部屋は焦げたように黒く染まり、ひらひらと紙片が舞い落ちる。物がほとんどなく、コンクリート製だったのが幸いしたのか、火事になるようなことは無かった。


 まあ、燃えた紙片がお札の一部だと察してしまったのが不幸中の大不幸だ。……おいおい、結局骨折り損じゃねぇかよ……! ここに来て、報酬は無しなのか……?

 すると、


「うがっ!?」


 爆発の影響か、頭上に石(?)が降ってきた。くすんだ赤色の石ころだった。足元に転がるそれを蹴り飛ばし、俺は涙を拭いた。男の子だもん。


「はぁ……、やっちまったな…… 音黒せんせーにどう言い訳すっかなぁ……」


 一人呟く俺。

 まさか、こんなトラップが仕掛けられていたなんてなぁ。分かるわけねぇだろーが。


 こうなったら、高めのスイーツとかでご機嫌を取るしかないか。ここに来る前、「俺一人で大丈夫っすよ! ガハハ!」とか加子たちの前でカッコつけた手前、あまりにも情けねぇけどな。


【あっははは! それ、ホントに情けないわね! あはは、ウケるわ!】


 勝手にウケてんじぇねぇよ。こっちは本気なんだぞ?


【だとしても……、いえ、だからこそ他人の不幸は蜜の味なのよね】


 は、何だこいつ。性格わるっ。


【悪霊だもの、当然よね。あんたこそ、さっきのでよく死ななかったわね?】


 そらそうだろ。ゾンビなんだから。


【……え?】

 ……ん?



【えええええええええええええええええええええええええええええええええええぇっ!?】

 んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!?



 ――この日、俺(ゾンビ)はデスゲームで死んだ地縛霊と出会った。


   ◇

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