第二部一章『デスゲームはラブコメの予感』1-4
「戻りましたー」
音黒せんせーへの手土産を買ってから、俺は大学にある地下研究室へと足を踏み入れていた。
実験器具の散乱する椅子やテーブルを避けて、奥の方まで進んでいく。
すると、二人の女の子が俺を笑顔で出迎えてくれた。
「あ、一斗くん! って、うわっ」
「ねえ、一斗。どうしたの、その服……?」
二人が汚物でも見るように俺をジト目で睨んでくる。
実際、俺のボロボロに破れた服はパンキッシュを通り越して現代アートのような見た目をしていた。これが芸術ってやつか。
「今日のデスゲームで失敗しちまってな。まさか爆発するとは思わなくて……」
「もう、仕方ないですねー。ほら、脱いで! ジャージならありますから」
なんて、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる優しい方が二ノ
セミロングの赤毛に低めの身長。かと思えば、胸部は豊かに育った自称Dカップ。
元気で明るい俺を殺した女子高生ゾンビだ。……ちょっと変な属性が盛られ過ぎな気がする。ぜんぶ事実だけど。
「うーん。ここまでボロボロだと、さすがに修復は無理ですね。捨てちゃっていいですか?」
「おう。そのままゴミ箱に突っ込んどいてくれ」
「はーい」
んで、俺の研究室に置きっぱなしのジャージはどこだったかな……っと。
音黒せんせーに言われて寝泊まりするから、部屋着とかは一式置いてあるのだった。
「これでしょー? ほらっ」
「おう、サンキュー」
と、俺は差し出されたジャージを受け取る。
「どうせボロボロになるんだから、始めからジャージで行けば良かったのに」
「今日は大丈夫そうな気がしたんだよ。それに、ジャージでデスゲームって、イカのやつ意識してるみたいでダセェだろ」
「えー。別にいいじゃん。流行りに乗って行けば?」
「俺はそんなにミーハーじゃねぇんだよ」
「あはは、どーだかねー」
などと軽口を叩いて悪戯っぽく笑うのは
ギャルっぽい見た目で、茶髪ポニテの前髪には赤メッシュという特徴的な形相。
きりっとしたツリ目に短い丈のスカートという要素も相まって、不良っぽい印象の女の子だが、その実とても良い子である。あと巨乳。なんと加子よりもデカい。
ああ、ちなみに白華は普通の人間だ。
とまあ、ヒロイン二人の人物紹介としてはこんなところか。どうだ、分かったか?
【……あ、それもしかして私に説明してたの?】
それ以外に誰が居るんだよ? 読者か?
【えっと、そうね。なんか釈然としないけど、私意外に説明する相手は居ないわね……】
やれやれ。今どきメタ発言なんて流行らねぇんだから察してもらわないと。
【なんか、こいつ腹立つわね……! って、違うでしょ! 私は音黒とかいうやつに会いに来たのよ! その二人じゃないわ!】
っと、そうだったな。
音黒せんせーに頼んで、この現状をどうにかしてもらう為に、わざわざ手土産まで買ったんだった。
えーっと、せんせーは……
「ん、あれ? 音黒せんせーはどこ行ったんだ?」
俺が問うと、加子が指をさしながら答えた。
「あっちの研究室で何かしていましたよ? とっても忙しそうでした」
「そうか。タイミングが悪ぃな……」
忙しいところを邪魔して、機嫌を損ねないといいが。
【話をしないって選択肢は無いでしょ。さっさと行きなさいよ】
わーってるよ。話はするから。
「音黒先生に何か用事なの?」
白華が首を傾げて問うてくる。
「おう、大変に重大な用件だ。どうせだから二人も付いて来てくれ。どうせ説明することになるだろうから」
「? まあ、付いていくけど」
「じゃあ、私も行きますね」
というわけで、三人(+一人の魂)揃って音黒せんせーの居る別の研究室へ移動することに。
ちょうど休憩中とかだったらいいなぁと、細やかな期待を込めて扉をノックする俺。
「音黒せんせー、ちょっと話が……」
返事も聞かずに扉を開けるが、その先には誰も居なかった。って、当然か。そういえば二重扉だったな、ここ。もう一つ先の扉を開ければ、そこが研究室だ。律儀にもバイオハザード対策らしい。
「あのー、音黒せんせー」
二つ目の扉を開けて、俺は中に入って行く。
すると、
「あ゛? んだよ、駄犬丸か。今、忙しいんだよ。後にしろ、後に」
めっちゃ不機嫌そうな音黒せんせーが俺を一瞥した。
うへー、マジで忙しい時のやつじゃん……
ボサボサのクソ長い髪、眠たげな瞳、ちっこい背丈、年齢不詳な童顔。ダウナーっぽい性格で、口が悪い。そして、ぶかぶかの大きめな白衣を身に纏っている。
この人こそが音黒せんせーだ。
今は忙しそうに、大きなテーブルの上でシートに包まれた巨大な何かを弄繰り回している様子だった。
【こいつが音黒せんせー…… 確かに、マッドサイエンティストっぽい見た目してるわ】
だろ? あと、奥にもう一人居るのが、怪物太郎だ。
『…………』
【……はぁっ!?】
音黒せんせーに付き添って助手のようなことをしている大柄な化け物。
身長が二メートルを越え、覇気のない血色の悪い顔がチャーミングな大男だ。
俺も詳しいことは何も知らない。が、音黒せんせーに従順で、意外と優しい性格の可愛いやつである。主とは真逆の性格だな。
「おーい、怪物太郎や。どうして音黒せんせーは不機嫌なんだ?」
『……?』
「やっぱ、会話は出来ねぇか」
簡単な意思疎通くらいなら出来るんだけどな。
【いやいや。何でこんなのが実在するのよ……】
仕方ねぇだろ。実在しちゃったんだから。ああでも、あんまり意識しなくていいからな。こいつが居ると世界観がブレるから。
【ゾンビや地縛霊が存在する時点で、世界観も何も無いでしょ】
まあ、それもそうか。……って、そんなことはどうでもいいんだ。
さっさと相談して、音黒せんせーにこの現状をどうにかしてもらわないとな。
「一斗くん。やっぱり、音黒先生忙しそうですよ? お願いごとなら後にした方がいいんじゃないですか?」
「そーそ-。機嫌悪いときに言うより、暇で怪物太郎としりとりしてる時の方がいいって」
後ろから付いてきた二人がそんなことを言った。
つーか、怪物太郎としりとりとか暇にも程があるだろ。……え? あいつしゃべれるの?
【思考がブレてるわよ! さっさと話しなさい】
分かってるっての。今からやろうと思ってたんだよ。
と、宿題をしろとママに言われた時の一斗くんのような言い訳をしてから、俺は音黒せんせーの元へ近づいた。
「あのー、お忙しいところアレなんですけど、緊急の要件がありまして。あ、これお土産の甘味です」
「おう。それだけ置いて失せやがれ」
「……」
ダメだ。諦めるか。
【諦めんな! もっと粘りなさいよ!】
ちっ、しゃーない。玉砕覚悟で会話を続けるか。
「それ、何作ってるんですか?」
「ガンプラ」
「秒で分かる嘘吐くのやめてくださいよ……!?」
見るからに肉々しい生物的な何かじゃねぇか。マッドサイエンティストが真剣な表情でガンプラ作っていいわけねぇだろうが。
「あーもう、うるせぇな。新しいゾンビだよ、ゾンビ」
「ゾンビ? また誰か殺っちゃったんですか?」
「人を殺し屋みたいに言うんじぇねぇ。依頼されたんだよ。『迷宮』からな」
「『迷宮』から……?」
日本の大企業『迷宮』グループ。国内の経済を支えるとても大きな企業だ。しかし、その裏では違法な過激闇カジノ――つまり、デスゲームなんかを運営しているとんでもない連中のことだ。
当然、さっきのデスゲームも『迷宮』が運営しているもので、音黒せんせーのコネを使って俺が参加したものだった。……分かったか?
【だいたい知ってるわよ。私だって、『迷宮』のデスゲームで死んだんだし】
ああ、確かに。そうだったな。
まあいい。話を戻そう。
「音黒せんせー、地縛霊って信じますか?」
「宗教の類ならお断りだ。つーか、邪魔すんじゃねぇ。ぶっ殺すぞ」
神すら殺しそうな目で睨まれた。
が、ここで引くわけにもいかないので何とか粘ることにした。生憎、こっちは殺されても死なないもんで。
「実は、野良の魂が俺の中に入っちゃったんですよね。ペンダントに。何でも、デスゲームで死んで現世に留まってる地縛霊らしくて……」
「はあ?」
「う、嘘じゃないですからね。たぶん、俺のペンダントみたいな物質があって、それを器にして漂ってたんだと思うんですけど」
「おい、駄犬」
「いやいや、疑う気持ちも分かりますけど、ホントなんですよ!」
やべぇ。音黒せんせーの目がマジだ。
でも、嘘はついてねぇしなぁ。……いや、音黒せんせーの場合は嘘か本当かなんてどうでもいいのか。ゾンビを作ってワクワクしているのを俺が邪魔しているという事実が不味いんだろうな。
「面白れぇ。ちょっと興味が湧いた。話してみろ」
「…………え、マジっすか」
ちょっと想定外の反応で、呆けた返答をしてしまった。
まさか、音黒せんせーがこんなオカルトまがいの話に興味を示すなんて。
「ええ!? 一斗の中に、また別の魂が入ったの!?」
「それって……、以前の私みたいにですか?」
白華と加子も驚きの表情を浮かべて俺を見やる。まあ、それもそうだよな。
さて、順を追って説明するか。
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