六章『Re:決着』6-3


 なんてことがあって、今に至るわけだった。

 ちなみに、白華はっかの母親も無事に手術が終わったらしい。


 そして、新しいペンダントの宝石も作ってもらい、俺と加子かこの魂は別々の器へと入った。

 そのペンダントはもう手元には無い。

 直接、俺たちの身体に埋め込まれることになった。もともとは、そういう設計だったらしい。


「では、行きましょうか、一斗いちとくん」


 言って、ぴとっと身を寄せてくる加子。


「ああ、そうだな…… つーか、加子もサボりか? まだ授業が終わるには早いだろ」

「私は白華ちゃんみたいに不良ではありませんよ。学校行事の関係で偶々です」


 それもそうか。加子はそういう性格じゃないしな。

 この二週間、ずっとあれやこれやの後処理に追われていたせいで、こうして時間に余裕があるのは久しぶりだった。

 まあ、時間が無くても遊びに行ったりはしたけどね。疲れ知らずのゾンビだから。


「えー、またバッティングセンターが良かったなぁー」

「また今度な」

「ま、仕方ないかぁ。絶対だからね」


 と言って、加子と逆サイドから身体を抱き寄せてくる白華。むにゅんと柔らかい感触が左腕を包むのだった。


「むぅー、ずるいですよぅ」

「あはは……」


 右からは不機嫌顔の加子が覗き込んでいた。い、いやー、モテる男はつらいね。


「私も白華ちゃんのおっぱい堪能したいです」


 あ、ずるいって俺に対してね。そっちだったか。思い上がっていた自分が恥ずかしい。

 現実を知った俺は、改めて現実を直視してみる。


 右には加子。左には白華。真ん中に……まさかの俺。美少女サンドイッチである。

 あれ? やっぱ、俺の認識って間違って無いよね?


 ちなみにだが、俺がデスゲームで告白した後の進展は無い。有耶無耶のままだ。

 何故かって? そりゃ当然だろ。

 このハーレム状態を維持する為だ!(クズ)


 とはいえマジなところ、片方選べと言われても、結論は直ぐに出ないだろ。

 あの時の告白に嘘は無い。俺は加子が好きだ。

 しかし、白華のことだって嫌いじゃないし……、ぶっちゃけ好意はあるよね。


 どちらかなんて選べない。

 だったら、ハーレムエンドでもいいじゃないか!(やはりクズ)

 だが、クズで結構! 俺はゾンビなんだ。人間の価値観なんぞに縛られてたまるか。


「ふふふ、両手に花だな」

「なーにが両手に花だ。ぶっ殺すぞ、駄犬」


 だから、俺はもう既に死んでるんだよ…… って、この乱暴な物言いは、まさか!?

 そう思って振り返る。

 そこには小柄な体躯のマッドサイエンティストが佇んでいた。


「あ、音黒ねくろ先生!」

「こんにちは、せんせー!」

「おう。悪いが、ちょっとそこのバカゾンビ借りるぞ」


 と言って、俺の首根っこを引っ張る音黒せんせー。

 二人に話を聞かれない距離を取って、正面から顔を見据えてきた。


「大学に居ねぇと思ったら、こんなところでデートとか、良い御身分だな」

「いやー、それ程でも」

「褒めてねぇんだよ、アホゾンビ」


 心底呆れたようなジト目で俺を睨みつける音黒せんせー。不思議と背筋のあたりに冷気を感じた。

 そして、呆れた口調のまま言葉を続ける。


「ったく。余計なお世話かもしれねぇが、あいつらのメンタルならもう大丈夫だ。ここ最近、色々と物事があり過ぎたからな。駄犬もバカなりに配慮してたんだろうけど、あいつらはてめぇが思ってる程、弱い女どもじゃねぇからな」

「……何のことですか? 俺は俺の為に、この状況を維持してるだけですけど」

「そうかよ。ま、てめぇのタイミングでいいさ。しっかり、結論は出せよな?」


 言われなくても分かってますよ、そんなこと。

 ただ、今はその時期じゃないってだけだ。いつか、そのタイミングは来るだろ。たぶん。


「よーし、じゃあ本題に入るか。二ノ宮、三國、こっち来い!」

「? はーい」

「ん、本題って何ですか?」


 音黒せんせーの呼びかけに応じて、首を傾げながらも二人が歩いてくる。

 そんな彼女らと俺を視界に収めると、音黒せんせーは言った。


「本題つったら、決まってんだろ。次のデスゲームについてだ。今夜また参加するから準備しておけ」

「はぁっ!? ちょっと待ってくださいよ? だってもう、俺たちがデスゲームに挑む意味なんて無いじゃないですか!?」

「大ありだろーが。私が死んだ時用のペンダント代が不足したままだ」


 あー、そういえばそうだったな。

 俺も加子も白華も、個人の問題が解決したもんだからすっかり忘れてたけど。

 あのペンダントは、もともと音黒せんせーが自分の為に用意したものだと言っていた気がする。


「でも、音黒先生が死んだ場合って、誰がゾンビ化の手術をするんですか? 先生程のマッドサイエンティストなんて、そうそう居ないと思いますけど……?」

「何言ってんだ。怪物太郎が居るだろ」

「あの怪物さん、そんなオーバーテクノロジーも使えたんですね……」


 ま、マジか。

 あのペットに自分の手術させようとしてるのか、このマッドサイエンティストは。

 いくらなんでも自分の技術力への信頼が厚すぎる……


「でも、それって私は関係ないですよね?」

「三國の母親を救ってやったのは誰だと思ってんだ。お前も手伝うんだよ」

「うへー、マジですかぁー」


 ぐでーっと項垂れる白華だった。

 音黒せんせーに貸しを作ったが最後、文字通り命懸けで返さないといけない運命にあるらしい。

 懸ける命が無い場合くらいは踏み倒させてほしかったなぁ。


「つーわけだ。今から地下研究室でミーティングするから、デートの予定はキャンセルしとけ」

「ええー……」

「そ、そんなぁー」


 がっくり肩を落とす加子と白華。

 どうやら俺たちがゆっくり出来るのは、まだ当分先の事になりそうだった。


「車は出してある。行くぞ、お前ら」


 先頭を切って音黒せんせーが歩き出す。

 白衣をはためかせて歩く後姿が、妙にクールな印象だった。


「はぁ……、しゃーないか。音黒せんせーがああ言ってるわけだし」

「それもそうですね。とても不本意ですが」

「あーあ、遊びに行きたかったのになー」


 三者三様に文句を口にしながらも、歯向かおうという者は誰も居ないわけで。

 まあ、それなりにお世話になってるわけだしな。色々と。


 加子と白華が、音黒せんせーの後姿を追って先に歩き出す。

 そして、同時に振り返って言った。


「行きましょうよ、一斗くん!」

「ほら、一緒に行こっ、一斗!」


 二人の手が差し伸べられる。

 どっちの手を取るべきか。それを考えるのは今じゃない。

 だから、俺は両手を差し出して言った。


「ああ、行こう」


                                    Fin

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