二章『この辺からラブコメするから。いやマジで』2-3
【あ、あの……】
ん、何だよ。ホントのことだぞ?
【ああいえ、そうではなくて】
? じゃあ何だよ?
【その、一斗くんを轢いた女子高生って、多分なんですけど……、私、です……】
は…………? はぁあああああああああッ!?!?!?
お前なの? 俺を殺したのはお前なの?
ど、どういうことだ? だって、そもそもお前の“死体”は、研究室にあるはずじゃ……
【ええ!? もしかして私も死んだんですか!?】
まあ、お前がホントに俺を轢いた女子高生である前提の話だけど。
【たぶん、間違いないと思うんですけど…… 今朝、学校に遅刻しそうになって、急いでいたら道で男の人とぶつかった記憶はあります。その後の記憶は、さっきの鬼の仮面の人に殴られそうになった瞬間まで飛びます】
……なるほど。お前が犯人だったか。
【す、すみません、すみません! 私のせいで…… し、死んで詫びますっ!】
落ち着け。もう死んでるんだよ、お前は。
【あ、そうでしたね】
まあいい。死んじまったもんは仕方ないだろうよ。
結果的に蘇ったわけだし、多めに見てやるとするか。まあ、文句は言いたくなるが。
【……随分と達観してるんですね】
状況が状況だからな。もう、何が起こっても冷静な判断は出来ないだろうし。
でも、言われてみれば、一部こいつのせいで俺は死んだんだよな。(俺も道に飛び出してはいるが、法的には自転車の方が悪い)
なら、これをネタに身体を強請ることくらいしてやるか。無事に帰ったら、おっぱい揉ませてもらおう。ひっそりと、心の中で俺はそう思ったのだった。
【丸聞こえですよ! 心の声隠れてませんから!】
え、マジか。となると、地の文が全部、聞かれてるってこと? 盛大な独り言が全部聞かれてるとか、ちょっと恥ずかしいな。おっぱい揉ませろ。
【うわ、最低ですね。っていうか、一斗くんは死体のおっぱい揉みたいんですか?】
そういわれると…… うーん、やっぱいいや。
ゾンビのおっぱい揉んでも虚しくなるだけな気がするし。精神が異常でも、性癖は正常でありたいゾンビ心なのであった。
つーか、話が逸れまくってるな。お前も自己紹介しろよ。
【そうでしたね。名前は二ノ
意外とノリが良いやつだった。こいつに轢かれたとはいえ、悪人というわけではない様子。やはり今朝のは不幸な事故だったか。
【私だって、悪意があって人を殺したりしませんよ! でも、今朝のことはごめんなさいです】
ま、いいよ。もう気にすんな。
結果的には特に問題なく過ごせてるし、別に恨みはねぇよ。少なくとも今は。
と、俺の心のナイスガイを見せておくことにする。
たとえ相手がゾンビであろうと、Dカップであることに興味を示したからではない。
ひとえに一斗の人柄ゆえに成せる偉大なことであった。
【急に三人称っぽいの混ぜないでくださいよ! そんなので誤魔化せませんからね!?】
それはそれとして、なんだけどさ。
【軽く流されました!?】
どうして、加子は俺の中に居るんだ? さっきも言ったが、お前の身体は研究室で眠っているはずなんだけど……
【それは……、私にも分かりません。目覚めたら、ここに居ました。……あ、あれですかね。昔のドラマとかであった、事故で精神が入れ替わっちゃうやつ、みたいな】
まあでも、入れ替わってるわけじゃないしな……
加子の精神が、俺の中に入り込んでしまった。
これはきっと事実だろう。でも、そんなこと音黒せんせーは何も話して無かったし……
いや待てよ? ホントにあの人は何も話して無かったか?
思い出せ、俺。性格の悪い音黒せんせーのことだ。何か、それっぽいことを――
『まあ、ペンダントの方は“足りなかった”から、“こうなっちまった”わけだが……』
『もう一度言うが、これは一億円もする高額なペンダントだ。それも、“数が足りなくて”今はこれ“一つ”しかねぇ。だから、お前は“足りない分”を弁償しろ。いいな?』
あ、あの人! ペンダント足りねぇからって、俺と加子の魂を両方入れやがったな!?
思い返してみれば、一度も“自分の分のペンダント”とは言ってねぇし、“不足分”が一つだけとも言ってなかった気がする。
それに、加子が目覚めたら俺に説明を任せるとも言っていた。
く、こういう意味だったのか……
【えーっと、ペンダントって?】
まあ、その辺は説明しないとな。
――とりあえず、ペンダントが魂の器であること、それが一億円すること、その資金を稼ぐためにデスゲームへ参加していることを説明した。
【ふーん。私たちがゾンビになるまでに、色々とあったんですね】
まったくだ。
で、現状は理解してくれたのか?
【まあ、突拍子もない話ばっかりだから、言葉の上でだけの理解ですけどね】
今はそれで十分だ。
ところで、さっき鬼に殴られた時のことなんだけど、もしかして加子は俺の身体を動かせるのか?
【え? 私、そんなことしましたか?】
たぶん。もしかしたら強く念じれば出来たんじゃないか? 咄嗟に避けようとしていた動きだったし。
【うーん、そうですねぇ。やってみましょうか。むむむむ……】
過去が唸ると、俺の右腕が持ち上がった。
ほう、やりおる。このまま俺が下げようとしたら、どうなるんだろうな。と、思いやってみることに。
すると、俺の腕は割と簡単に下がったのだった。
【やっぱり、主導権は一斗くんにあるみたいですね】
そうみたいだな。やっぱ、俺の身体だし。視覚とか聴覚は共有してるのかな?
【はい、たぶん同じものかと】
なるほどな。
だいたい魂が二つ宿ったゾンビのシステムが分かったぜ。きっと人間じゃこうはならないんだろうな。知らんけど。
「きゃぁぁぁあああああああああああああああああッ!?!?!?」
なんだ? 今、悲鳴が……
【女の子の声、しましたよね】
きっと、他のプレイヤーの声だろう。鬼に捕まったか、それとも交戦中か。それは分からないが、部屋の外から女性の悲鳴が響いたのは確かだ。
ポッケからスマホを抜き取り、時間を確認。ゲーム終了まで、あと七〇分ほど。まだまだ終わりまでは長いな。
【助けに行かないんですか?】
どうせ他人だろ。俺が危険を冒してまで助けてやることは無い。
たとえ俺がアンデッドであろうとも、無益なことはしないのだ。
――ガチャ。
【……と言いつつ、部屋を出たのは何故なんですか?】
女の子の悲鳴だったからな。助ければフラグが立つかもしれんだろ。無益じゃないことならしてやってもいい。
【へー。一斗くん、意外と優しいんですね】
勘違いするな。もしブスだったら、見捨てて帰ってくるつもりだ。ブスに好かれても嬉しくないからな。
【あはは。では、そういうことにしておきますね。手遅れになる前に、早く行きましょう!】
それもそうだったな。よし、行くか。
と、走り出す俺。
それはそれとして、加子に『何でも知ってるんだからね』面されるのは俺としては面白くないな。どうにかならないものか。
そんなことを考えながら、俺は悲鳴の聞こえた方向へと急いだのだった。
◇
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