第13話 失敗
苦しいことに気がついて目を覚ました。目の前に徳長の顔があった。キスされていることに気がついてびっくりして引き離そうと胸を押し、少し離せたがその瞬間強く抱きしめられてしまった。
「なんで?何もしないっていったじゃない。」
「ごめん。するつもりなかったんだけど、我慢できなくなった。」
「私、河村さんの彼女だよ。それに徳長さんも彼女いるじゃん。」
徳長は柚を離すと腕を掴んで
「柚、俺で試してみない。」
「試す?何を?」
「俺としてみれば弘人との事がわかるんじゃない。何も感じないかどうか試してみない。」
「出来ないよ。そんな事。」
「俺として感じれば不感症じゃないわけでしょ。この事は1回きり2人だけの秘密。明日になったら何も無かった事にする…悩みが取れるんじゃない。」
そんな事言われても…簡単に言わないでほしい。
「やっぱり無理だよ。ダメだよ。」
目を合わせられない。怖い…いつもの徳長さんと違う。
徳長は掴んでいた腕を自分に引き寄せてさっきよりも長いキスをした。徳長は震えている柚をできる限り優しく抱いた。
朝になると寝ている徳長さんを起こさないように素早く準備して、ホテルを1人で出た。まだ早朝なので人はあまり歩いていない。少し寝たがすぐ目が覚めてしまい朝になるまでずっとソファーに座っていた。早く家に帰ってお風呂に入って寝たい。
私、何をやってるんだろう…自分の甘さ腹が立った。信用しちゃいけなかったんだ…でも心の奥底で試してみたかった自分がいたのかもしれない。途中で抵抗しなくなったのは多分そのせいだ…結果的には少し痛かっただけ。やっぱり感じるも何もなかった。私はなんかダメなのかな。徳長さんが優しかったのはわかる…比べてはいけないけど河村さんよりはましだったかも。でも好きになるかと言われたらそれは無い。お互い忘れようと言っていたよね。私も何もなかった事にしよう。家に着くとドット疲れが出てしまい半日以上寝てしまった。体に少し痛みがある…河村さんの時は無かったのに…。頼りにしていた相談相手が減ってしまった。男女の友情って難しい…。バンドの中で恋愛はしない方がいい。ライブが終わったら残念だけどバンドから抜けよう。
学校へ行き教室に入ると窓際の席に座った。音響の専門学校なので男子が多い。クラス100人中女子は15人。どんな女子でもモテてしまう。自分は美人だと勘違いする人も多い。
「おはよー」友達の好美と春香が教室に入って来た。好美はバンドをやっているわけではないがショートカットに赤い髪をしている。性格はものすごく女の子だが見た目は男の子みたいで可愛い。春香はアイドル並みに可愛いが性格はさっぱりしていてこちらは男らしい。高校時代かっこいい先輩に好かれてしまい、嫉妬で知らない女の先輩に植木鉢を投げられた事もあるらしい。下手すりゃ殺人だよね。あとでしっかり仕返しはしたよと笑いながら話すところがちょっと怖い…でもそれを知らない男子たちは春香をアイドル的に見ていて、毎日のように告白されている。私も何人かに告白されて最初は嬉しかったけど段々面倒になって行った。そもそも性格も知らない私を好きになる方がおかしい。
「どうしたの柚?なんか元気がないじゃん」好美が心配そうに顔を覗き込んで来た。
「ちょっとね。色々あって。」
「えー何なに!学校終わったら話聞きたいからどっか行こうよ。」
「頭の中で整理ついたら話すよ。なんかグチャグチャだからさ。」
「グチャグチャのまま聞くから。そのまま話しなよ」春香が笑った。
結局帰り道のファミレスで包み隠さず全部話すとゲラゲラ2人に笑われた。
「なにやってんの」春香に怒られた。
「だってしょうがないじゃん。襲われたら逃げれないよ。」
「そもそもホテルに行くなんてダメでしょ。」
「そうだよ。最初も襲われて次も襲われて、まだナンパとかじゃ無いからいいけど、気をつけないと。」
「だよね。私なにやってんだろ。」
「柚〜そもそも河村さんの事もそんなに好きじゃ無いでしょ。別れたら?」
「春香、簡単に言わないでよ。ライブあるんだよ。終わらないと無理だよ。ライブ気まずくなって出来なくなっちゃうよ。」
「良くそんな状況でライブやろうと思うね。バンド内に彼氏と、浮気相手がいるんだよ。」
「だって河村さんには申し訳ない気持ちはあるけど、徳長さんには何も悪いと思わないし、一番申し訳ないのは理恵ちゃんと児島さんだし、あまり口をきかないようにするよ。あっちだって知られたら困るだろうし。」
「徳長さんとメールとかしたの?」
「1回だけね。あんなことになってごめんって謝ってた。」
「そんな感じなら、まあ大丈夫だね。柚、もうダメだよ。軽い気持ちで男の人に付いていっちゃ」好美の言い方は優しい。
「うん。わかってる。」
「で?どっちが良かった?」と笑った。
「ちょっと春香!」
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