第12話 帰れない!

 徳長さんは色々な悩みまで相談にのってくれた。本当にいい人だ。ずっとモヤモヤしていたから徳長さんに相談してよかった。

「ごめん。遅くなっちゃったね。色々聞いてくれてありがとう。帰ろう」時間は午後11時を過ぎていた。

 駅に着くと人が駅前に大勢いる。電光掲示板を見ると上下線とも電車がが止まっていた。人身事故だ。復旧の見込みはまだないらしい。徳長さんは川崎なのでどうにか違う線を使えば遠回りで帰れそうだが、私は無理かも…とりあえず母親に連絡を入れ電車が止まっていて帰れないことだけは伝えた。そんな時間までいるからでしょと嫌味を言われたが渋々帰れない事を承諾した。帰れないんだから怒られてもどうにもならないけど…。

「徳長さん帰っていいよ。どうにかするから。」

「時間も時間だし、女の子1人じゃ危ないから付き合うよ。」

「いいの!ありがとう。」

 よかった。大丈夫とは思いながらもちょっと1人じゃ心細かった。

「じゃあとりあえず店に入るか。」

「そうだね」寝ないと具合悪くなるからカラオケ店でも入って寝た方が良かったかな。でも待ってるうちに動くかもしれないし。無理か…ここの電車が動いたとしても家までの電車は終わってしまうだろう。こうなったらここで夜を明かすしかない。


「こんなことならゆっくり弘人の話できたね」と徳長さんは笑った。

「本当だね。でももう私はいいよ。徳長さんの彼女の話教えてよ。」

「俺!いいよ。話すことなんて無いし。」

「いいじゃん。聞かせてよ。高校生から付き合ってたんでしょ。」

「そうだよ。」

「どっちから告白したの?」

「俺から。」

「ねえ、会話止まっちゃうんだけど。」

「じゃあ、少しだけな。告白したら両思いだった。とりあえず彼女はヤキモチ焼きで俺が他の女と話す事を嫌がるよ。」

「わっ!今日、私と喋ってるのマズイね。内緒にしておいてね。」

「言わないよ!言ったら面倒くさい。」

「徳長さんのことすっごく好きなんだね。なんか羨ましいね。そんなに好きになれたら。」

「柚だって弘人の事好きなんだろ。」

「う…ん。多分。今だによくわからない。」

「おい。大丈夫か…。」

 その時お店の中に音楽が流れた。

「え!終わりなの?」

「マジか。深夜12時までって書いてある。」

「カラオケに行こうよ。私少し寝たい。」

「わかった。そうしよう。」

 お店を出るとカラオケ屋に向かった。カウンターに行くと満室ですと言われてしまった。他のお店もみんな満室だった。電車が止まっているのでみんな考えることは同じだ…だったら先にこちらに来れば良かった。

「失敗したな。空いて無いね。」

「どうしよう。寝れないとキツイな。」

「じゃあ…ホテル行く?」

「えっ!」

「別に何にもしないよ。お風呂に入って寝るだけ。さっき通ったところのホテルまだ空室になっていたから。もうどこも空いてないかもしれないし。」

「確かに寝たいけど。」

 でも、河村さんとも入った事ないのに…。徳長さんを信用していいだろうか。まあ彼女いるし…大丈夫だよね。とりあえず寝たいし。

「わかった。いいよ。本当になんにもしないでよ。信用してるからね。」

「わかってるよ。柚を女にみたことないし、大丈夫。」

「それはそれで失礼だよね」と笑った。

 今、来た道を戻りホテルの前に着いた。初めて一緒に入る人が彼氏じゃないなんて自分でもビックリだ!なんか遊び人みたい。入るのも恥ずかしいが、徳長さんがスッと入り口から入ってしまったので急いで付いて行った。中に入ると暗い照明が付いていた。受付があったが人の顔は見えなかった…そうなってるんだ。受付の横に部屋の写真とスイッチがあって明かりが点いている所が一箇所あった。この部屋だけ空いているらしい。徳長さんはその部屋のボタンを押し私の肩をポンとたたいてエレベーターに向かった。部屋に入ると真ん中に大きなベッドがあり、なんか想像していたよりもとてもポップで綺麗だった。これで外が見れたら普通のホテルより快適かもしれない。お風呂を覗いたらジャグジーがあって家のお風呂より全然大きかった。これ1人で泊まっても良かったかも。1人では泊めてくれないのかな?キョロキョロ色々な所をみていると

「興味津々なのはわかるけど、疲れてんでしょ。お風呂入れば。俺あとでいいから。」

「あ、うん、そうだね。ありがと…先入る。」

 お風呂大きくてゆっくり入りたいけど、待たせたら悪いからシャワーでいいや。

「ごゆっくり」と言うと徳長さんは布団に寝っ転がった。


 なんか落ち着かない。やっぱり入らなければよかったかな。でも寝るだけだし…この話は絶対河村さんには出来ない…何も疑われる事はないとはいえ私だけでなく徳長さんと河村さんがギクシャクするとも限らないし。

 心配はよそにシャワーは気持ちがいい!


 お風呂場からシャワーの音が聞こえる。何もしないとは言ったものの自信がなくなって来た。柚を可愛いと思っていたのは確かだし、こんなチャンスは滅多にない。彼女の裕美とは最近あまりうまくいってない。でも河村の彼女に手を出したら友達関係も終わってしまう。ダメだ…何お考えてるんだ俺…とりあえずシャワー入って落ち着こう。

 シャワーから出ると、徳長さんがすぐに入って行った。とりあえず同じ下着を着るの嫌だけどしょうがない。つけないわけにもいかないし。ベットに横たわると自然に眠気が襲ってくる…そのまま寝てしまった。


 徳長はシャワーから出ると備え付けのバスローブに着替えて部屋に入った。ベッドの上を見ると柚が寝息を立てている。

「本気で信用されてるな俺。寝るかよ普通。」柚の隣で寝転がると枕元にあるスイッチで室内を薄暗くした。小さく寝息をたてている柚の顔を覗き込んだ。

「寝顔…可愛いな。」今の彼女が嫌な訳ではない、将来的に結婚も考えている。ただ自分は一人しか女を知らない。少し遊びたい気持ちがあった。柚の顔を見ているうちによくわからない感情が…柚を触りたい衝動が湧き上がる…徳長は静かにキスをした。

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