第9話 はじめてのデート

 みんなが帰り2人になると先生は話し始めた。

「相川さん、個人レッスン受けてみない?」

「個人レッスンですか?本当はその方がいいですけど、お金高いので、このままで大丈夫です」確か3千円アップだったよね…学生には無理な金額だ。

「お金はそのままでいいから、個人レッスンしてあげるよ。相川さんなんか素質ありそうだから。」

「素質ですか?うれしいですけど、自分では全然なんですが…いいんですか?お金そのままで」

「いいよ。その代わり曜日と時間などは少し変えてもらうけど。」

「平日なら大丈夫です。なんかすいません。ありがとうございます!」

 家に帰ると先生からメールが来て水曜日に行くことになった。なんか嬉しいな。私、素質あるのかな。なんか特別扱いで嬉しい…ますますやる気がでてきた。さすがに個人レッスンは内容が濃かった…曲も今バンドでやっているものに変えてもらった。自分でも前より声が出ている気がする。来月あたりからまたバンドに参加させてもらおうかな。今、バンドは自分がいない状況でやっているらしい。

 早く歌いたい…少しはうまくなったって言ってもらえるかな。


『来月からまた練習に参加するね』河村さんにメールを入れた。

 全然会っていなかったので喜んでいた「よし!」気合を入れた。


 久しぶりに参加した練習で「歌い方変わった?なんかうまくなったね」と言われて嬉しかった。一応ライブに向けてやっているので練習にみんな気合が入る。ライブまであと1ヶ月!がんばろう。

 河村さんに帰り家に来ないかと誘われたが用事があるからと断ってしまった…嫌いなわけではないが、家に行くということはまたそういうことするんだろうなって思ったら行きたくなかった…結局避けてるみたいに思われているかもしれない…普通にどっか行くとかならいいのにな…自分の気持ちもハッキリしなくて嫌だ…今度こっちから誘ってみようか。


 このままウジウジシテいるのもいやだったから、デートに誘ってみると…メールでもわかるぐらい嬉しそうな感じで返事が帰って来た。

 最近できたばっかりの噂の巨大迷宮に行ってみたかったので、そこを待ち合わせ場所にした。お台場なので中間点ということで会うのには良い位置だろう。つい1ヶ月前ぐらいに出来たフードコートやゲームセンター、ボールング場などがあるアミューズメントパーク【スカイ】だ。チケット売り場に行くと河村さんは先に来ていた。

 相変わらず服がピンク色で目立つ。本音を言えばあんまりピンクは好きではなかった。河村さんは色白なのでピンク色は似合わなくはないけど私は好みではない…まあ個人の好き好きだからいいけど。クールなイメージだった河村さんが子供の様にはしゃぐ姿は意外で競争しようと言い出して入り口から一人で違う方向に歩き出した。普通はカップルで一緒にイチャイチャしながら回るよね。なんだろこの状況。まあイチャイチャしなくてもいいんだけど。


 河村さんが走って行く姿が見えた…おいおい。以外に簡単で私はあまり迷わず出れてしまった。迷ったらしく私から十分以上遅れて出てきて悔しそうだった。

 ごめんね…私こういうもの得意なんだよね。昔からゲームやボーリングなど器用にこなせる方だった。まあ悪く言えば可愛げがない。ゲームセンターなど回ったところでフードコートに入った。天井は吹き抜けになっていて気持ちがいい。


「とりあえず席取りに行ってくる。どこらへんがいい?」

「観覧車の見える窓際がいい。」

「わかった。柚は先に買いに行ってきな。」

「うん。ありがとう」この1階全部フードコートだ…いっぱい美味しそうな物がありすぎてどれにしたら良いか迷ってしまう。一通り見て回りラザニアを買った。海外から来たお店らしく、ボリュームたっぷりチーズがいっぱい♪タバスコいっぱいかけてたべよーっと。番号札をもらうと河村さんに声をかけた。


「買ったから行って来て」と座った。

「おう。」

 河村さんが席をたつと、先に手渡されたブラックコーヒーを一口飲み外を眺めた。気持ちがいいし、楽しいな…ときめきは…あまりない…友達と遊んでいる感覚だ。河村さんがラーメンを持って戻ってきた

「早いね。空いてたの?」

「うん。人全然いなかった。コーヒーをブラックで飲んでるんだ。」

「コーヒー好きだし。ブラックだと可愛げがないね。」

 その時ブザーが鳴ったので食事を取りに行った。席についてラザニアにタバスコを目一杯かけていると、

「タバスコ!なにそれ!かけすぎ!偏食だねー。」

「タバスコの酸っぱ辛いのがいいんだよね。おいしいよー。」

「俺無理!」

 食べ終わると河村さんが私を見て

「あのさ、いつになったら俺のこと名前で呼んでくれるの?」

「名前…。」

「俺的には弘人って呼んで欲しいんだけど。」

 河村さんはちょっとうつむき加減で照れた様子だ。

「あ…そうだよね。でもバンド内で内緒になってるから名前で呼ぶ癖をつけてしまうと間違って呼んじゃう可能性があるから、そのままの方がいいかと思うんだけど…。」

「そうか…そうだよな。じゃあそのままでいいよ。」

 ちょっと残念そうだったが、でもそうしないとふとした時に出てしまう可能性がある。

「じゃあライブ終わったらみんなに話さない?」

「そうだね。それならいいよね。」

 確かにずっと隠すのも変だし、それがいいかも。夜まで遊んでクタクタになった。 

 河村さんは車で来てたので送ってくれることになり横浜→お台場→埼玉→横浜、大変だからいいって言ったけど、大丈夫ということで家の近くまで送ってもらうことにした。帰りは車で練習で録音したCDをかけて聴きながら帰った。

「歌、伸ばすところとかうまくなってるよね。なに練習いっぱいやったの?一人カラオケ?」

「いっぱい練習はしたよ。カラオケは行ってないけどね。」

「いい感じに仕上がって来てるよな。楽しみだなライブ。俺久しぶりだからさ。」

「私は初めてだからドキドキだよ。」

「だろうな」河村さんは笑った。

「ここでいいよ。」

 家の近くのファミレスの駐車場に停めてもらった。あまり近くに行って母親に見られたくない。外に出ると11月の寒いけど気持ちのいい風が吹いている。河村さんが外に出て来て近くに寄って来た。

「じゃあまたな」頭をポンポンされた…なんか照れる。

「またね。」

 手を振って車を離れようとしたらいきなり手をひっぱられてホッペにキスされた。車にさっと乗るとそのまま走り去ってしまった。

「ふふ。なんか可愛いな。」

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