第8話 こんなつもりじゃ…

 早く家に帰ってゆっくり休みたかったが、この状態じゃ無理かもしれない。

「じゃあお願いします。家に頭痛薬あるかな?」

「わかった。いいよ休んでいきな。薬もあるから家までとりあえず寝転がってな。」

「うん。」

 シートを倒して目をつむった。


 家に着くと河村はとりあえず柚を空いている部屋に布団を敷き、頭痛薬を飲ませ寝かせた。額にひんやりシートをのせるとスゥっと寝たようだった。良かった…とりあえず寝てもらえれば治るだろう。可愛い寝顔だ。頬を撫でると柔らかくてツルツルしていた。柚を寝かすと河村も自分が眠い事に気がついて自分の部屋に行って寝る事にした。

 しばらくして河村は目を覚まし時計を見た。もう午後3時だ。柚はまだ寝ているのだろうか。柚の寝ている部屋をそっと開けるとまだ寝ていた…よく寝るな。でも、もうそろそろ起こさないと帰りが遅くなってしまう。河村は柚の肩を揺らした。

「柚、起きろ。もう3時だよ。」

「う〜ん。」

 柚が寝返りを打つと布団から綺麗な足が見える。焦って布団を被した。靴下を履いたままだった。靴下ぐらい脱がせば良かったか…可愛い寝顔だ。もっと見ていたい。しばらく顔をみつめると、河村は柚の顔に近づいた。可愛い唇がみえる。河村はそのまま柚にキスをした。まずいな…とめられない…。


 柚は河村に肩を揺すられ目を覚ましかけていた。

 段々目が覚めてきたが河村さんがまだ部屋にいる気配があったので目を閉じていた…なんとなく寝ているボケボケの状態を見られるのは恥ずかしかったからだ。

 音がしなくなり、あれ居ないのかなと目を開こうとした瞬間にキスをされた。

 どうしようと思ったところにさらに河村さんが覆いかぶさってきた。抵抗したが、男の人の力にはかなわなかった。

「嫌だ。やめて。」

「ごめん。無理だ。好きだよ柚。やさしくするから。」

 処女を無くす事にはそんなに抵抗はなかったが、どうせならすごく好きな人とって思っていたから少し悲しかった。こんな形で無くすことになるとは…もう少しムードが欲しかった。

 初めは物凄く痛いと聞いていたから怖くて力が入っていた。

「柚、力抜かないと痛いから、力抜いて。」

「無理だよ。」

 無理って言ったのに全然聞いてくれない…河村さんが中に入ってきた。

 あれ?えっ痛くない?なんで?だからと言って感じるなんてない。


 事が終わるのを待っている状態だった。なんか生々しくて気持ち悪かった…そして変な感覚だけ残った。世で言う1つになれて幸せ…そんなのなかった。

「抑えきれなかったごめん。順番が違うけど本気だから付き合ってくれ。」

 すごい落ち込みようだった。落ち込みたいのは私なんだけど。

 あまりにも必死で謝って来るので、ちょっと可哀そうになり、こんな始まり方もあるのかなと思うことにした。だんだんどうでもよくなり

「わかった。いいよ」と返事をしてしまった。初めてバンドをやって、初めてオールで演奏して、処女を失って、彼氏が出来てなんだか色々ありすぎて、嬉しい事半分、不安半分…彼氏ができるってもっとワクワクするものなんじゃないのかな。付き合うって言って失敗したかな。


 何日か経つと自分自身、落ち着いてきて、冷静に考えられるようになった。河村さんの件は仕方がないと思うことにした。あんなことあったけど嫌いにはなっていない…少しは好きなんだろうか…なるべくなら、あんなことはもうしたくないのが本音だ。

 今回色々あった中で一番ショックだったのは前回のボーカルの歌を聞いた時だ。河村さんに聞いたらこのボーカルはスクールに通っていたそうだ。スクールに通うと、もう少しうまくなれるだろうか…前回のボーカルよりうまくなりたい!スクールに私も通ってみよう。ネットで探すといっぱい出てくる。意外にボーカルスクールってあるんだな…ただ料金が結構みんな高い。学校もありすぎてどこにしたらいいのか…結局、近くて名の知れているスクールのグループレッスンに通うことにした。


 人数は6人で女の子だけだった。年齢は聞いていないけど、同い年ぐらいから少し上の人がいるらしい。先生は40歳ぐらいで、太っていてあんまりかっこいい方ではないがピアノはうまかった。課題曲は歌が上手いと評判の安西ノンの曲で「悲しみの向こう側」を全員で歌ったり、一人ずつワンフレーズ歌ったりして、先生に音程が外れているとなおされた。スクールは楽しかった…スクールに集中したいのと、河村さんに会うのが少し怖くて、学校が忙しいと言ってバンドは休ませてもらっていた。

 河村さんからは2日に1回ぐらいメールが来ていた。元気?とか何気ない会話で何も聞かれなかったので有り難かった。今はレッスンに集中したい。いつもの様にレッスンが終わり、帰る時に先生に残る様に言われた。

「あれっなんかあったっけ?」

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