第6話 練習の後
横浜駅に着くと河村さんが迎えに来ていた。
「よお。」
「どーも。」
告白されて、その後は河村さんから何もアピール的なものはない。
あの告白はなんだった?まあそのおかげで変に意識しなくて良いんだけど…メールをしている回数が多いから、河村さんのことはわかって来た。一人暮らし、音楽関係のバイト、服が好きとか。前よりかは身近に感じるようにはなっていた。好きかと言われるとたぶん違うと思う…だってドキドキしない。
「今日の服、いいね。」
「あっ、ありがと」急に褒められるとびっくりする。時々なんかこういうこと言うんだよね。勘弁して…褒められることに慣れてないのでくすぐったい…。
駅から歩いて5分ぐらいのところにスタジオはあった。もうみんな集まっていた。理恵ちゃんが楽しそうに児島さん、徳長さんと話をしていた…可愛いな。いいな、あんな素直な感じ。感情表現が苦手だから羨ましい。
「あ、柚ちゃん来た。」理恵ちゃんが寄って来て腕を絡ませる。
女の子だー…なんか女の子だー。年下の女の子とはあまり話す機会がないから新鮮だ。
演奏はさらにいい感じになっている。今回は1人カラオケで練習して来た。前よりかは多少ましになっているはずだ。歌い終わると徳長さんが「いいじゃん」と褒めてくれた。やった!嬉しかった。
練習が終わり河村さんの家にしゃぶしゃぶの食材を買ってみんなでお邪魔した。河村さんの家は2LDKでリビングがとっても広くてオシャレだった。こんないい所に住めるなんてお金持ち??バイトだよね。
理恵ちゃんと私で食材を切る。他の人はテーブルにコンロなどのセッティングした。テーブルにはお酒もあった。そうか河村さんたちは20歳超えてるんだよね。私たちにはジュースとお茶が用意されていた。
「おつかれさまー」とお酒とジュースで乾杯した。しゃぶしゃぶのお肉が柔らかくて美味しい。隣にいる理恵ちゃんは食べかたが綺麗だ。
「ところで理恵ちゃんはどうやってバンドに入る事になったの?」
「理恵、弘人といとこなの。無理やり誘われたんだよね。前にやってたバンド辞めたばっかりだったからいいかなーって。女の子ボーカルもいいなって思ったから。」
「前は男の人だったのボーカル?」
「そう、だからなんか可愛らしさがないからつまんなくて。ライブでもなんかかっこいい服にしろとか言われてさ。フリフリとか来たかったんだよね。」
フリフリ…私は着ないと思うけどね。
「で、ライブいつにする?」児島さんが言った。
「えっ!ライブするの?もう?」
「柚、目標あった方がいいんだよ。そのほうがやる気も入るし。」河村さんが言う。
「そうだね。ライブ楽しいよ。やろうよ。」徳長さんも頷いた。
「理恵、フリフリ着る!」
「おい服の話かよ。」河村さんが苦笑いした。
「オリジナルもやろうぜ。柚、作詞しろよ。俺、何曲か持ってるから。」河村さんが言った。
「作詞!本当に!」
「ボーカルだろ。やってみなよ。」児島さんが笑う。
いきなり色々な事が起こって頭がついていかない…でも忙しいのは楽しい「わかった。書いてみるよ。」
「お!いいねぇ」河村さんが笑った。お酒も入り、お腹も一杯になり、みんな楽しそうだ。みんなお酒が強く、飲んでも何も変わらない。酒癖の悪い人は嫌いだったんだよね…よかった。腕時計を見るともう午後10時近い。埼玉の浦和までは電車で結構かかる。今から帰れば12時前にはつくかな。
「そろ…」そろそろ帰ると言いかけた時に隣にいた河村さんに手を握られた。河村さんの方を驚いて見るとパッと手を離された。…恋愛初心者にはこういうシチュエーションはどうしたらいいかわからない。
「そろそろ私帰るね。」もうとりあえずパニックだから帰りたかった。
「えー柚ちゃん帰るの?一緒にここに泊まって行こうよ。」
「泊まる!」
「お泊まり会みたいで楽しいじゃん。明日休みだし。理恵なんども泊まったことあるし。理恵の家、横須賀だから帰るの面倒臭い。」
「私、明日朝から用事あるし、ごめん帰るね」別に用事はないが流石に泊まるのはまずいと思った。
「えー。残念。わかった今度は絶対ね。」
「うん。今度ね。」
「俺、駅まで送ってくよ。」河村が言った。
「大丈夫。わかるから。」
「遅いから行くよ。」
「そうだな。そのほうがいいよ。柚、気をつけてな」
「うん。バイバイ。またね」結局駅まで送ってもらうことになってしまった。
「手を繋いだのびっくりした?」
「うん。」
「少しは意識してもらおうと思ってさ。」
「私、河村さんのこと、まだよくわからないんだ。」
「別にいいよ。ゆっくりで。あせってないし。まあこれから俺のこと知っていってよ。」
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