第5話 心とはうらはらに
一瞬何を言われたかよくわからなくてパニックになった。
「はっ。なんで。まだ何回かしかあってないじゃない。」
河村さんはニコッと笑いながら「なんとなく。」
「なんとなくって何!」
「だから俺は柚とバンドやりたいから、俺の事とバンドの事、考えておいて。キーボードはこちらで探すから。」
「ちょっとまって私パニックで…」
「じゃ俺帰るから、また連絡する。お金は払っとくね。」
「ま…」あっという間に出てってしまった。
結局私は1人でご飯を食べることになってしまった…突然の出来事に味が全然わからなかった。
車に戻ると河村は大きくふぅっと息を吐いた。柚の前ではさらっと軽く言ったけど本音はドキドキものだった。ボーカルが柚がいいのも確かだったが、本当は初めて会った時にもうすでに柚のことは気になっていた…丸顔で笑顔がなんとも言えず可愛かった。聖香の件でバンドが無くなるのはなんとなく感じていたが柚と会えなくなるのは嫌だった。
「ぜったいこちらに引き込もう。そして俺を好きになってもらう」そう呟くと河村は車を発進させた。
食事を終え、家に帰り部屋に入るとやっと落ち着いて来た。
えっと河村さんが私のことを好きなの…まだ会ったばっかりで好きになるも何もない。意識もしていなかった。生まれて初めて告白された…でもなんかさらっとだったよね…慣れてる?
ボーカルをもし引き受けたら告白も受けたことになる?まだ河村さんに対してそんな気持ちはないし…付き合ったことないからわかんないよ。バンドの話は深く考えられなくなってしまった…本当にどうしよう。
しばらくしてキーボードが決まったと河村さんからメールが来た。
返信しないでいると毎日のようにお誘いメールがきて、
『ボーカルの件はいいからとりあえず会おう』といわれて根負けして渋々会う事にした。
面と向かって好きって言われたこと自体が初めてでどうしたら良いかよくわからないし、どこから聖香に漏れるかわからないから友達にも相談できない…困った。
待ち合わせ場所に行くといつもの3人と大人っぽい女の子が1人座っていた。はっきりとした顔立ちのエキゾチックな感じの子だ。少し年上かな?
「じゃあ揃ったね。」河村さんが言った。何もなかったかのような顔してる。
「こちらキーボード担当の理恵ちゃん」
「こんにちはー小林理恵です。十八歳です。」えっ年下!大人っぽく見える。でも喋りかたは確かに年下…甘えた感じの話し方だ。
「じゃあスタジオ行こうか。」
「え!スタジオ!聞いてないけど。」
「あれ河村言ってないの?」児島さんがこちらを見る。
「言ったよ。」ちょっとニヤッとして河村さんが言った。
「私、すごい練習して来たんだ。楽しみ♪」理恵ちゃんが嬉しそうに話す。
はめられた!河村さんに…。この雰囲気じゃ言えないじゃん!
徳長さんが寄って来て笑いながら小さな声で「弘人にはめられた?あいつ相当柚ちゃん気に入ってたからね。俺も一緒にやりたいからやろうよ。」
なんとなく徳長さんに言われると、もうしょうがないかなって思ってしまった。でも後で文句言ってやる!…聖香にはなんて言ったら…いや言えるわけない…隠し事は嫌なのに。
スタジオに入るとみんなセッテイングを始めた。理恵ちゃんはマイキーボードだ。すぐにセッションが始まった。理恵ちゃんも自然に入っている…うまい!私のキーボードの演奏なんて恥ずかしくて聴かせられない。ちょっと〜どうするのよ。レベルが高くなっちゃったじゃない…ボーカル私でいいのか?
ドラムのカウントが入り演奏が始まった。すごい揃っている…声は出るが練習してないうる覚えの歌詞の所もあってちょっと残念だけど、やっぱり歌は楽しい…。
河村は柚の歌を聴きながら、よしこれで行けると確信をもった。まあ騙すような形になってしまったけど、柚も楽しそうに見える…今日の練習はすごく楽しかった。
柚は今までにないワクワクする感覚になった。
帰りに河村さんに次の練習は横浜だよって言われた。横浜って遠いじゃん。
でも騙された形だったけど、ボーカルは楽しい。そもそも小さな頃から歌うのは好きだった。でもなぜボーカルをやらなかったかと言うと、単純にハードルが高かっただけだった。私がボーカルなんてって考えていたから。でも今はやれたら嬉しいかも…聖香ごめん。聖香はメンバー募集をつづけている。応募は来てるけど、これと言った人が来て居ないらしい。バンド2つ掛け持ち出来るだろうか…でもやるしかない。
河村さんから次の練習のメールが来た『バンドの練習の後に俺の家でみんなで食事するから』
横浜だよね。練習が午後5時に終わってから夕飯?まあ帰れるか。
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