第4話 突然の提案

 聖香は柚の歌を聞いてショックだった。確実に自分よりも声が出ているし、うまい。そして特徴的だ。でも自分がボーカルだ。自分だってそのうち上手くなるはず…。

 次は2週間後と約束をして河村たちと別れた。その日の帰り聖香は無言のままだった…っていうかそもそもなんで私がこんな目にあうんだ。勝手に歌わされて、なんかボーカル取ってしまったみたいになって、楽しくやるはずだったのになんでこんなことに…河村め!あいつのせいだ。

 何も話せないまま別れ、どこへも行く気も無くなり家にまっすぐ帰った。部屋に着くとメールがなった。河村さんからだ…無視をしようかと思ったがとりあえずメールを見た


『お疲れ。突然なんだけど、柚1人で会えないか?』

 はあ!何!なんで…なんか嫌な感じ。聖香に内緒で会ったらまたどんなことになるか『メールではだめですか?』と返信するとしばらくして『出来ればあって話がしたいんだけど』と来た。しばらく悩んでから『わかりました』とメールをした。あったら文句いってやろう…そう思って約束した。


 日曜日に渋谷で待ち合わせになった。着くとそこには児島さんと徳長さんも来ていた。ファミレスに入り、注文を終えると河村さんが話し出した。

「申し訳ないのだけど、ボーカルを柚に変えたいんだよね。どう考えても聖香が柚以上になるとは思えないし、悪いけどみんな同じ意見だから。」

「ちょっと待って!ボーカルは聖香でって言うことでバンド組んだのに変えたらおかしくない?そもそも私ボーカルやるつもりないし。」

「いや、柚はボーカルやったほうがいいよ」児島さんが言った。

「でも…聖香がボーカルとして始めたし。」

 どうしよう。どうしてもキーボードがやりたいわけではない。ボーカルでもいい。その辺のこだわりはあまりなかった。でも聖香はボーカルをやりたくてバンドを始めたのに…。

「聖香はピアノできるんでしょ。聖香がキーボードじゃだめかな」河村さんが言う。

「無理だよ。だってボーカルやりたいっていってたんだから…それこそ傷つくでしょ。すぐは返事できないから、しばらく考えさせてください。」

 そう言ってその日は憂鬱な気持ちで家に帰った。


 悩んでいるうちにまた練習日が来てしまった。

その日はキーボードのままボーカルはやらされなかった。少しホッとした。でも河村さんが帰りに聖香を呼び出した。「柚は帰っていて」と言われ一人で帰らされた。…大丈夫だろうか。聖香から夜遅くメールが来た。


『柚、河村さんたちとバンドやるのやめていい?また新しく探してやりたいんだけど…。』

 やっぱりあの話をしたのか…だよね…そうなるよね。仕方ない、結構彼らとの演奏は楽しかったけど諦めるしかない。

『いいよ。わかった。そうしよう。』

『また応募してみる♪楽しみにまってて。』とメールが来てホッとしたようながっかりしたような気持ちになった…これで良かったんだよね。


 数日後に河村さんからメールが来て

『聖香と話をしたら、キレられて辞めるって言われたよ。でも柚だけでも一緒にやらないか。俺たちも忙しい時間の中で練習したりするから、なるべく無駄なことはしたくないんだよね。アマチュアだけどライブもやりたいし、やっぱり可能性があるボーカルとやりたい』

 おいおい何を言ってるの。

『私だけなんてできるわけないじゃん』

『俺、今度バイトでそっちに行く用があるから寄るから話そう。』

『いいよもう。新しくバンドメンバー探してるし。』

『とりあえず行くから、顔もみたいし。』

 ん…えっと…顔が見たい?状況がわからないままとりあえず会うことになってしまった。

 河村さんはイベント会社でバイトをしているらしい。近くの会場で仕事をした後にこちらに車で寄ると話していた。家の近くに河村さんがいると言うのですぐそばのファミレスに来てもらった。

「よお。」

「こんばんは」夜ご飯がまだだったので食事を頼んだ。

「顔をみて話さないといけない話ってなんですか?」

「なんか冷たいね。まあそんな急がなくても、とりあえずご飯食べながら話すよ。」

 河村さんの注文したものが机に並んだところで話し出した。

「聖香からどこまで聞いた?」

「ただ河村さんたちとバンドやるのやめようって言われただけ。」

「あ、そうなんだ。話さなかったんだね。」

「何を話したの?」

「ボーカルは柚がいいんじゃないかって言った。全体的な華も柚の方があるし、演奏してて柚の歌の方がしっくりくる。華がある話は聖香には言ってないけどね。そしたら怒っちゃってさ後は何も話聞いてくれなかった」

 それはそうでしょ。プライドどれだけ傷ついたか…がっかりしただろうな。

「俺的にもう一つ。」

「何?」

 河村さんが色素の薄い茶色の目で真っ直ぐこちらをみて「柚のこと好きみたいなんだけど。」

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