第3話 歌うの?

「じゃあまず【Love is…】やるよ。ドラムがカウントとるからワンツースリーで入るよ。」

 河村さんが指揮をとる。

「それじゃ行くよ。ワン・ツー・スリー。」

 ドラムのスティックがなり演奏が始まった。前奏はとりあえずついて行けている。でもついて行くのがやっとだ…やっぱり家で音楽を流しながら合わせるのとは違う。緊張して頭の中から曲が消えそう。歌に入った。聖香の声がマイクから響く。でも…声が聞こえない。そうかアンプの音が大きいからだ。声が負けてしまってる。上手いのかどうなのかもわからない。でも可愛らしい声に聞こえる。


「とめて。」

 突然聖香が演奏を止めた。

「どうした?」河村が言った。

「声が聞こえないのでからもう少しほかの音を小さくして欲しいんだけど。」

「ボーカルに合わせてたら演奏小さくなりすぎるよ。このまま頑張って声出して」

「えー。最初だから多少合わせてくれてもいいのに。」

 聖香は不満そうだった。

「じゃあ最初から行くよ。」

 演奏が始まる。聖香が必死に歌っているけど周りが大きすぎる。とりあえずそのまま1曲目が終わった。私はキーボードの音をどうにか変えてとりあえずついて行っただけだった。 

 ベースの児島さんが口を開く。

「ボーカル頑張れ。とりあえず今は腹から声を出すことに専念して。」

「はあい」ふくれっ面のまま聖香は返事をした。

「じゃあ2曲目行こうか。」

河村さんが言った。

 2曲目の【本気になるまで】が始まった。この曲は途中で緩やかな部分があるのでその部分は聖香の声が聞こえた。可愛い声だが声量がない。それはしょうがないか…始めたばっかりだしね。この歌はコーラスが入る曲なので、とりあえず私はコーラスの部分を歌った。何度も同じ曲をやってみたが満足できる出来ではなかった…もっと練習しないといけない。練習が終わりさらに課題曲が一つ追加され、また2週間後に会うことになった。


 帰りの電車で聖香が愚痴をもらした。

「私もまだ練習不足だけどみんなの演奏大きすぎるよね。柚もそう思わない?」

「まあ確かにね。演奏は大き過ぎかもしれないけど、大きな声を出す練習になるんじゃない?」

「まあそうだけど…ボーカルをたてるもんじゃないの。次はもっと大きな声だしてやる!」

 聖香はやる気が出たみたいだ。逆によかったかも。


 柚と聖香と別れた後、3人はファミレスに入り話をしている。

「どうだった?印象的に」徳長がコーヒーを飲みながら2人を見た。

「みんな同じ意見じゃねーか」河村が2人をみる。

「まあな。印象的だったね声が」児島が2人をみる。

「だよな。コーラスやった時の柚の声だろ。ボーカルあっちだろ」河村が言った。


 家に着くと河村からメールが入っていたことに気がついた。

「なんだろ?」

「今日はお疲れ様。ところで今日追加した課題曲あるだろ「ガールフレンド」それ柚も歌を練習してきて。じゃ来週」

私が歌?なんで??ハモるのかな?とりあえず『わかりました』とメールをした。聖香に『河村さんから何かメール来た?』と聞いてみたら『何も来てないけど』と言われた。なんでと聞かれたのでメールの内容を送信したら何も返信がなかった。なんか嫌だな…その後メールが返せなかった。


 あっという間に次の練習日が来てしまった。気まずいなと思いながらも、聖香と待ち合わせをしてスタジオへ向かった。

「そういえばこの前は河村さんにメールしたの?」

「したよ。」

「なんだって?」

「言いたくない。」

 そのまま黙ってしまった。気まずい雰囲気が流れる。

「練習して来たの?」

「して来たよ。結構はやく弾かなきゃいけないところがあるから難しかった。」

「そうじゃないよ!歌の方!」

 言い方がキツイ。

「一応は…でもあんまりやってない弾く方をいっぱいやったから」

「そうなんだ」聖香は少しホッとしたように見えた。


 スタジオに着くとみんなもうチューニングを始めていたので挨拶をしてキーボードのセッティングをした。聖香も発声練習をしている。

「じゃあ始めるよ。まず前にやった曲からね。2曲つづけていくよ。まず【Love is…】の方からね。」

ドラムのカウントがなり演奏が始まった。苦しそうだけど聖香の声が聞こえた。練習したんだな。私もこの前よりは上手く弾けてる気がする。

「じゃあ今回の課題曲行こうか。」

 とりあえず全部を何回も通しでやって、あと練習時間残り十分になったところで「柚、歌ってみようか。【ガールフレンド】」河村さんが言った。

 えっわたし!「でもキーボードが…。」

「とりあえずなくていいよ」河村さんはそう言うが…聖香の顔をみるとふてくされた顔をしている。歌いづらいな…。演奏が始まってしまった。マイクを渡され仕方なく歌い出した。

「柚、本気で歌え!」遠慮がちに歌っていたら、河村さんに怒鳴られた。わかったよ…なんで名前呼び捨て!と心で叫び本気で声を出した。でもちょっと気持ちよかった。生演奏で音と競争してるみたいだった。

 河村、児島、徳長は顔を見合わせニヤっと笑った。思った通りだ…柚の声の方がボーカル向いている。河村は思った。

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