Ⅷ   決意

だからあの手紙を受け取った時は驚いた。

間違いなく院長の字で綴られた手紙。


〝修道院に戻ってきませんか〟


あれだけ私を疎んで、追い出したがっていたのに、どうして今更。

くしゃり、と何かが音をたてた。


 *   *   *


「それで、君はどうしたいの?」

カミサマは終始無言で、少女の話を聞いていたが、少女が口を閉じると、言葉を区切りながらゆっくりと問いかけた。

「……分からない」

戻ったところで、自分を押し殺して神に祈りをささげる日々が待っているだけ。

戻らなくたって、冬の森に殺されるだけ。

どちらを選んでも、生きていけない気がする。

そう告げると、カミサマはそう、とだけ返してうつむく。

「まあ、どっちを選んでも結果が同じなら、別にどっちでもいいよ。他に行きたい場所もしたいこともないんだから」

自嘲気味に笑って言い聞かせる。

「修道院で心をすり減らすくらいなら、いっそここで朽ちるのも……」

そこまで口をついて出たところで、ふと、昔聞いた話を思い出す。

確か、修道女に聞いた林檎の木守りの話だ。

『林檎の木守りは、収穫されずに木に残された実のことです。来年の豊作を願って残された彼らは、一本の木を守るために、静かに自分の全てを差し出しながら、黙って、朽ち果ててゆく。……私も、そんな風になりたいものです』

自分の全てを神様に差し出して、一生を終えたい。

彼女が言っていたのは、そういうこと。

私はそんなの、絶対に嫌だ。

「なら、変えてみなよ」

「……え?」

驚いてうつむいた顔を上げると、カミサマは意味ありげに微笑んでいた。

見てごらん、とカミサマの示した先に目をやると、ポケットの中で何かが仄かに光っていた。

中にあったものを出してみると、それはあの時、収穫祭で魔女に貰った麻袋だった。


『花畑を探す時はこれをもってお行き。お前の願いが強ければ、きっとこれが、お前を花畑に導いてくれるだろう』


頭の中で、魔女の声が響く。

袋を渡された時、魔女は少女にこう耳打ちした。

「願いの叶う花畑、なんでしょ?」

なら、君の生きていける道も、切り拓けるんじゃない?

 わんとすることは分かる。けれど。

「でも本当にあるの? そんな場所」

「君はないと思うの?」

「それは……っ」

神様なんていない。

救いなんてない。

でも、幼い頃の少女の中には、確かに存在していた。

そして、そこに行くことを夢見ていた。

許されるのなら、また、

「……信じたい。信じてみたい!」

今まで演じてきたものに押しつぶされそうになりながら、本音を口にすると、カミサマはふっと、満足げに頬を緩めた。

すると、麻袋の中の道しるべが、更に強く輝きだす。

少女は袋の口を握りしめると、葉を落として枝だけになった森の中へ飛び込んだ。

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