Ⅴ カボチャ探し
鐘が鳴ると、一斉に子供たちが、その後を追うように大人たちも、散っていった。
「さて、僕たちも探しに行こうか」
「そうだね」
二人が今いる広場には、噴水と時計塔、そして、高々と掲げられたカボチャの旗がある。その東西に大通りが伸びていて、それ以外は居住地域になるため、カボチャがあるのはこの二カ所だろう。
とりあえず、二人は広場から大通りへ行くことにした。
大通りには至る所に子供がいて、各々カボチャを探していた。
中には早くも探し出したのか、「見つけた!」と大喜びする姿も見える。
二人も、子供たちに混じって大通りを探した。
飾りの裏や、屋根の上。路地の奥まで探したが、カボチャは一つも見つからなかった。
「全然見つからないね」
広場で昼食をとりながら、少女は肩を落とす。
食べているのは、露店で買ったサンドウィッチだ。教会で食べているような硬いパンと違い、ふわふわした柔らかいパンの中に、野菜と玉子が挟まれている。一口食べるたびに、玉子の風味と野菜のシャキシャキとした食感が広がる。
午前中はほとんどカボチャを探し回っていたおかげで、更においしく感じられた。
「あの辺りはもう探しつくされちゃったのかも。午後は別のところを探そうか」
「他の人が探していないところがいいよね。でも、そんなところ……」
あるのかな、と言いかけたところで、少女はひらめく。
「ねえ、ゲームの最初に出てきたのって、魔女だよね」
「? うん。そうだけど」
「あの人、本物なのかな」
「うーん……多分そうかもしれないけど、魔女がどうしたの?」
「あの魔女が本物なら、普通は絶対ありえない場所に隠れてるかも、って思ったんだけど、——ってちょっと⁉」
カミサマは何も答えない。ただ、いつもは伏せている目を大きく見開いて、少女の目を見ている。
「な、何」
「えっ、あ、ごめん。君がそんなこと、言うと思わなかったから」
ふふっ、と吹き出すカミサマ。指摘されてから、自分らしくないことに気づいて、一瞬で顔が熱くなる。
「わ、悪かったわね、変で」
「そんなことないよ」
「本当?」
「まあまあ、あんまり怒らないで」
昼食を終えると、二人はまた町を散策し始めた。
最初に回りきれていなかった露店を見つつ、カボチャを探す。
——と。
「よーこーせーよ! それは俺のだ」
「やだあ‼」
目の前で、二人の子供が言い争っている。
否、二人だけではない。たくさんの子供たちがわらわらと群がって、何かを我先にと取ろうとしている。
群れの真ん中を覗くと、水の入った木のたらいがあって、そこに赤い果実に混じってカボチャが幾つか浮かんでいる。
どうやら子供たちの遊び場にあったカボチャを取り合っているようだ。
もっとも、彼らが欲しいのはカボチャ自体ではなく、中に入っているお菓子の方のようだが。
子供たちの様子を眺めていると、少女の足元に一つ、カボチャが転がってくる。
拾い上げると、中身はカラのようだ。
「これ、何も入ってない」
「お菓子だけ取って捨てられちゃったのかな」
他のものと比べると少し小さいが、にっこりと笑った顔が描かれていて、自ずと愛着がわく。
少女はそのカボチャを大切そうに外套のポケットにしまった。
午後三時の鐘が町中に響き渡る。
結局、いくら探しても他のカボチャを見つけることはできなかった。
人々はたくさん見つけたと喜びながら、あるいは、全然上手くいかなかったと落胆しながら広場へ集合する。
町にいるほとんどの人が広場に来た時、ゲームの始めと同じように魔女が現れた。
「皆集まったね。それじゃあ、どれだけできたか見せてもらおうか」
魔女が杖を振り上げる。すると、人々の持っていたカボチャが空へ上がった。それぞれ違う色や顔をしたカボチャが空中でくるくると回る。
「一、二、三、」
魔女は一つ一つカボチャを数えていった。その数はあっという間に半数を超え、九十個に到達する。
「九十五、九十六、九十七、九十八、……」
九十八まで数えたところで、空中のカボチャは全て数え終わってしまう。
「ええと、九十九個目のカボチャは……」
ゆっくりと一周して、魔女は九十九個目のカボチャを探す。
そして、
「ああ、ここにあったのか」
と言って、また杖を振り上げた。
——少女に視線を向けて。
「え?」
外套のポケットにあったカボチャが持ち上がる。
そういえばまだ持ったままだったか。
「これで、九十九個目だ」
にんまりと、満足げに顔を歪ませる魔女。
人々の視線が一気に少女に集まり、わあ、と声があがった。
魔女がこちらに向かって歩いてくる。彼女と少女の間にいた人々は自然と左右へ退いて、道を作る。
「よく見つけられたね、お嬢さん」
何が起こったのか分からなくなって戸惑う少女の背を、カミサマがそっと押した。
「で、でもあのカボチャ、中には何も、」
「それで正解だよ。九十九個目のカボチャに入っていたのは〝空〟なのだから」
それに気づける人間がいるのか試したかったんだ、と魔女。
「さて、あれを見つけたお前には、約束通り、褒美をやらなくてはいけないね」
「褒美?」
「手を出してごらん」
少女はおずおずと手を出す。
魔女は少女の手を包み込みながら、〝褒美〟とやらを手のひらの上に置いた。
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