第3話 邪神の復活(6)

 洞窟を抜けると、そこは頂上付近だ。より一層風が強く吹いている。頂上付近には誰もいない。いつもだったら多くいるのに。何かが違う。


 2人は頂上付近にやって来た。そこには、1人の女性がいた。追いかけまわしていたあの女性だ。やはりあの女は神龍教で、サラマンダーのオーブが奪われないように見張っていたに違いない。


「ふんっ、やはり来たのね」


 その女、エリスは不敵な笑みを浮かべた。絶対に勝てると思っているようだ。


「お前、サラマンダーのオーブを返せ!」


 ジーダは拳を握り締めている。絶対にサラマンダーのオーブを手に入れる! 平和を守るために、サラマンダーのオーブは譲れない!


「そうはいかないわ! 偉大なる創造神王神龍様が世界を作り直すのを邪魔されたくないから」


 エリスは高笑いをした。絶対に渡すもんか! 偉大なる創造神王神龍様がこの世界を作り直すためにも。


「なぜそんな宗教に手を出した?」


 シンシアは拳を握り締めた。どうしてこんな悪い宗教に手を出したのか。悪いとわかっていながら手を出したんだろうか?


「誰も信用できなくなったからよ」


 エリスは誰も信用できなくなり、唯一信頼できるのは王神龍だと思うようになってしまった。




 エリスはエリッサシティの出身だ。エリスは1人娘で、両親と暮らしていた。比較的裕福な家庭で、特に問題はないように見えた。


 だが、エリスは小学校4年の頃からひどいいじめを受けていた。、先生に注意されてもなおいじめを受けていた。そして、何度先生に言っても同じじゃないのかと思い、言わなくなった。


 中学校の頃になると、そのいじめはエスカレートしていき、いじめグループのやった悪い事を全部エリスのせいにされてしまい、その度に両親は謝ったという。両親は嘘だという事に気付かず、エリスをただただ叱っていた。エリスはやってないと言うが、全く相手にしない。


 ある日、エリスは先生に呼び出された。もう何度目だろう。コンビニで万引きをしたそうだ。だが、本当はいじめグループがやった事で、エリスはやっていない。だが、それを知った先生がエリスに注意しようと思い、呼び出した。


「お前がやったんだろう」


 先生は厳しい口調だ。もうこれで何度目だろう。何度やったらもうやらないんだろう。


「やってない!」


 エリスも厳しい口調だ。自分は何もやっていない。罪をなすりつけられているだけだ。認めてくれ!


「みんなそう言ってるんだぞ!」


 先生は机を叩いた。エリスは少し驚いたが、すぐに気を取り戻した。見慣れた光景だ。


「嘘だ! みんな嘘ついてる!」


 エリスは泣きそうな表情だ。やってないのに、どうしてわかってくれないんだ。


「みんなお前が悪いって言ってるぞ!」

「みんなが私の敵だからそう言ってるのよ!」


 エリスはここ最近思っていた。この周りにいる人はみんな自分の敵だ。自分がこの世界から消えてほしいと思っているんだ。


 先生は驚いた。みんな敵というとは。どういう頭を持っているんだろう。


「そんなわけない!」


 エリスはついにキレて、先生を机で殴った。先生は壁を後頭部に強く打ち付け、しゃがみ込んだ。すぐに顔を上げたが、恐ろしい顔だ。


「何てことするんだ! 今すぐ帰れ!」

「わかった! もう誰も信じない!」


 エリスは足を強く鳴らしながら相談室を出て行き、そのまま家に帰っていった。エリスは泣いていた。自分はやっていない。なのに誰も信じてくれない。信じてくれる人がいればいいのに。どうしてこの世に生まれてしまったんだろう。もし生まれ変わったら、味方ばかりの世界に行きたいな。




 エリスは家に帰ってきたが、今度は両親からも怒られた。先生は両親に伝えていた。両親はあきれ顔だ。だが、エリスは鋭い眼光でにらみつける。やってないと言っているのがわからないのか。


 エリスは拳を握り締めた。わからないのなら、力ずくでわからせてやる。みんな敵だから暴力を与えても構わない。どんなけがをさせても構わない。


「お前、何やってんだ!」


 父はエリスにビンタをくらわした。エリスは痛がったが、すぐに持ち直した。やってない事を訴えたい。エリスは必死だ。


「だって私は何もやってないのよ!」

「聞け!」


 母も厳しい口調だ。だが、エリスは立ち上がり、座っていた椅子で両親を叩いた。両親はテーブルに顔を強く打ち付け、気を失った。


 それを見てエリスは家を飛び出した。山奥でひっそりと死のう。もうこんな人生嫌だ。やり直したい。母はその様子を悲しそうに見ていた。何とかして引き戻したい。そして、いい子になってほしい。


「お父さんもお母さんも、みんなみんな私の敵だ! もう私、山奥で死にたい!」


 エリスは自転車に乗り、夜のエリッサシティを走り出した。夜のエリッサシティは静かだ。人通りが少ない。もうみんな寝ているんだろうか?


 エリスは山奥までやって来た。この道は忘れ去られた旧道で、全くと言っていいほど車が来ない。辺りには誰もいない。ここなら大丈夫だ。


 エリスは自転車を降りて、山奥までやって来た。辺りは無人の山林だ。とても真っ暗だ。死ぬならここがいいだろう。


 その時、目の前に男が現れた。その男は白い魔法服を着ていて、顔のほとんどを白い布で覆っている。男はとても優しい顔をしている。両親以上に優しそうだ。


「エリス、あなたは悪くありません。死ぬべきではありません」


 エリスは驚いた。誰だろう。また私の敵だろうか? だが、見た感じそうではなさそうだ。


「あ、あなたは?」

「私はあなたの味方です。あなたの思いはわかります」


 男は優しそうな口調だ。でも、誰だろう。だけど、この人について行けば、きっといいことがあるに違いない。


「私は全然悪くないのに、悪いように思われました。先生も、両親も、みんな悪いように思ってます」


 エリスは涙を流している。誰からも信用されない。みんな敵のように見える。もう誰も信用できない。


「ひどい事をされましたね。もう悩む必要はありません。ですが、私に従えば、必ず疑いを晴らす事ができます。そして、強くなれます」

「ほ、本当ですか?」


 エリスは笑みを浮かべた。この人は自分の味方だ。味方と呼べる人に出会うなんて、何年ぶりだろう。


「はい。私について行きますか?」

「はい。もちろんです」


 エリスはその男について行く事にした。だが、エリスはその時知らなかった。その男が王神龍だという事に。子どもの頃、昔話で知ったあの邪神だとは。


 それからしばらくすると、エリスの両親や、通っていた学校の同学年の生徒がみんないなくなったという。特に、生徒に関しては、修学旅行中に全員が失踪して、大ニュースになったという。だが、彼らが見つかる事はなかった。




 エリスは笑みを浮かべている。王神龍に従ってよかった。嘘を暴く事ができた上に、自分が敵だと思った奴らを殺す事ができた。これで邪魔者はみんないなくなった。これほど嬉しい事はない。


「私は偉大なる創造神王神龍様について行って、本当によかったと思えるわ! だって、私の真実を暴いてくれたのですもの!」


「だからといって、生徒も先生も、そして両親も殺すなんて、何事だ!」


 ジーダは拳を握り締めた。こんな事で彼らを殺すなんて、許せない。真実を暴いて、わかってもらえるだけでいいのに。


「それは仕方ない事! 私に罪をなすりつける奴ら、私の言っている事を信じない奴らはみんな私の敵。この世界からいなくなればいいのだ。私の敵はみんな王神龍の生贄に捧げた。そして、神龍教の素晴らしさを皆さんに伝える事ができる。こんなに素晴らしい事はない!」


「そんな事で人を殺すなんて、許せない!」


 シンシアも拳を握り締めた。ジーダ同様、許せないと思っている。


「私に歯向かうか? ならば、かかってこい!」


 その時、エリスは巨大な赤いトカゲとなった。エリスは元々人間だったが、神龍教に入信した時に魔族となり、魔獣の力を与えられた。エリスが襲い掛かってきた。


「星の力を!」


 シンシアは魔法で大量の隕石を落とした。だがエリスの表情は変わらない。


「グルルル・・・」


 ジーダは猛吹雪を吐いた。だがエリスは氷漬けにならない。


「諦めろ!」


 エリスはシンシアをわしづかみにして、地面に強く叩き付けた。シンシアは大きなダメージを受けたが、びくともしない。


「氷の力を!」


 シンシアは魔法でエリスを氷漬けにした。だがエリスは氷漬けにならない。


「グルルル・・・」


 ジーダは雷を吐いた。それでもエリスはびくともしない。


「無駄だ!」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。2人は大きなダメージを受け、シンシアは表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 シンシアは魔法で自分を回復させた。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。エリスの表情は変わらない。体力が高いようだ。


「グルルル・・・」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。2人は大きなダメージを受け、ジーダは表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 シンシアは魔法でジーダを回復させた。


「ガオー!」


 ジーダは雷を吐いた。エリスの体はしびれない。


「ギャオー!」


 エリスはシンシアに噛みついた。シンシアは表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 シンシアは魔法で自分を回復させた。


「ギャオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。エリスには全く効いていないようだ。


「グルルル・・・」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。2人は大きなダメージを受けたが、びくともしない。


「氷の力を!」


 シンシアは魔法でエリスを氷漬けにした。それでもエリスは氷漬けにならない。


「ギャオー!」


 ジーダは猛吹雪を吐いた。エリスの体は凍えない。


「終わりだ!」


 エリスはジーダに噛みついた。それでもジーダの表情は変わらない。


「星の力を!」


 シンシアは魔法で大量の隕石を落とした。エリスには全く効いていないように見える。


「グルルル・・・」


 ジーダは雷を吐いた。エリスの体はしびれない。


「ここで息絶えるがよい!」


 エリスはジーダをわしづかみにして、地面に強く叩き付けた。ジーダは表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 シンシアは魔法でジーダを回復させた。


「氷の力を!」


 シンシアは魔法でエリスを氷漬けにした。だが、エリスは氷漬けにならない。


「グルルル・・・」


 ジーダは猛吹雪を吐いた。エリスの表情は変わらない。


「ガオー!」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。2人は大きなダメージを受けたが、びくともしない。


「天の怒りを!」


 シンシアは魔法で強烈な雷を落とした。それでもエリスの体はしびれない。


「グルルル・・・」


 ジーダは氷の息を吐いた。エリスは不敵な笑みを浮かべている。


「諦めろ!」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。2人は大きなダメージを受け、表情が苦しくなった。


「氷の力を!」


 シンシアは魔法でエリスを氷漬けにした。エリスには全く効いていないようだ。


「ガオー!」


 ジーダは猛吹雪を吐いた。ジーダは少し表情が苦しくなったが、すぐに持ち直した。


「死ね!」


 エリスはジーダに噛みついた。だが、ジーダはびくともしない。


「星の力を!」


 シンシアは魔法で大量の隕石を落とした。エリスの表情は変わらない。


「グルルル・・・」


 ジーダは雷を吐いた。だがエリスはびくともしない。


「ここで終わりだ!」


 エリスは両手でジーダをつかむと、地面に強く叩き付けた。ジーダは倒れた。


「次はお前だ! 覚悟しろ!」


 エリスは標的をシンシアに変えた。もし倒せば、王神龍に褒めてもらえるに違いない。


 だが、攻撃しようとしたその時、ジーダが起き上がった。だが、表情が違う。どこかゾンビのようで、恐ろしい。


「な、何だ?」


 エリスは驚いた。倒したはずなのに。何だろう。


「ゆるさん・・・、殺してやる・・・」


 ジーダは息絶え絶えだが、意識はしっかりしている。どうやらゾンビとなって起き上がったようだ。


「くそっ、しつこい奴め!」


 エリスはジーダに噛みついた。だが、ジーダには全く効かない。


「そんなの通用せぬわ」


 ジーダは黒い炎を吐いた。エリスは非常に大きなダメージを受けた。あっという間にエリスは表情が苦しくなった。


「食らいやがれ!」


 エリスは灼熱の炎を吐いた。それでもジーダの表情は変わらない。


「ここで死ね!」


 ジーダは再び黒い炎を吐いた。エリスは非常に大きなダメージを受け、倒れた。


 エリスは前かがみになった。意識がもうろうとしている。あまりにも強い。これが王神龍を再び封印すると言われている奴らの力なのか。


「くそっ、こいつ、強すぎる・・・」


 エリスは倒れた。王神龍の力になれなくて申し訳ない。戦闘が終わると、ジーダは元のジーダに戻った。


 2人は倒れたエリスの手を見た。エリスは赤く輝くオーブを持っている。


「これが、サラマンダーのオーブ・・・」


 2人は息を飲んだ。これが世界を救うために必要なオーブの1つなのか。200年前、世界を救ったサラもこれを手にして世界を救った。今度は自分たちが世界を救う番だ。ジーダが手にしようとすると、オーブの中から声が聞こえた。サラマンダーの声だろうか?


「よくぞ解放してくれた。心から礼を言う。私は火の精霊サラマンダー。この世界は今、危機に瀕している。200年前に封印した王神龍がついに蘇った。王神龍は世界を作り直し、世界を支配しようとしている。王神龍は神であるがゆえに、倒す事ができない。200年前、この世界に現れた王神龍を封印したのは、サラ・ロッシ、マルコス・レオンパルド、サムソン・マクワルド・アダムス、レミー・霞・玉藻、バズ・ライ・クライド。そして今、再び歴史は繰り返そうとしている。その歴史を作るのが、そなた、ジーダ・デルガドとシンシア・アイソープ。そしてあと3人、藪原太一、那須野豊、ダミアン・クレイマーだ。頼んだぞ、新たな魔獣の英雄よ!」


 200年前のサラもこんな事を言われたんだろうか? シンシアは200年前に思いをはせた。あの時と同じように世界の危機が訪れているとは。だったら、あの時のように戦争が起きて、人々が絶望と苦しみに包まれるんだろうか? 彼らはそれを知っているんだろうか?


 外はもう陽が昇りきって、正午近い。今の生活の中で、人々はあと何日それを見る事ができるんだろうか? そして、100年先も見る事ができるんだろうか? そのためには、自分たちが頑張らねば。


 その決意を胸に、2人はナツメビレッジに向かった。そこにはシルフのオーブがあると言われている。何としても見つけて、王神龍を封印して、世界を救わねば。

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