第4話 それぞれの想い(1)

 ビルカタウンの標高は1000mぐらい。インガーシティから列車で18時間ぐらいだ。この町は自然と歴史が見事に溶け合い、中心駅のビルカ駅には歴史あふれる建物が多く点在する。200年前の空襲で跡形もなく崩れたが、それらは修復され、多くの観光客が見物に来る。


 そんなビルカタウンには、大地の祠があると聞く。かつて、大地の祠はペオンビレッジの山奥にあったらしい。だが、魔獣の英雄のリーダー、サラ・ロッシが女神竜サラになった時に大地の祠が女神竜サラを祀る祠となり、ここに新しい大地の祠ができたという。だが、それがどこにあるかはあまり知られていないという。


 朝、インガーシティからの列車がやって来た。2日かけてリプコットシティに向かう夜行急行だ。終点のリプコットシティまではまだ遠い。ここで降りる人もいれば、ここから乗ってリプコットシティに向かう人もいる。


 列車がホームに着くと、乗客が降りてきた。この町を散策する人もいれば、バスに乗り換えて山を目指す人もいる。彼らの行き先は様々で、彼らはみんな楽しそうな表情だ。


 その中に、1人の少年がいる。那須野豊だ。ここに大地の祠があって、翔がここでノームのオーブを渡されないようにしているという。ノームのオーブは神龍教の神、王神龍を封印するために必要なもので、王神龍を封印するという5人の英雄から守っているという。


 豊は列車の中で、翔の事を考えた。どうして彼らを殺そうとしたのか。こんな悪い宗教に入ってしまったのか。絶対に改心させて町に戻してやる。


 列車から降りると、豊は背伸びをした。インガー駅から夜行急行に乗ってここまで来た。夏休みのためか、車内は混雑していて、座る事も出来ずに、夜は荷物室で寝た。豊の他に、荷物室で寝る人もいた。そのためか、とても疲れている。


 列車はここで機関車を付け替える。ここから先は急勾配が続くために、アプト式になっている。ある人は立ち止まり、その付け替えの様子を見ている。だが、豊はそれに目もくれず、改札に向かう。


「ここがビルカタウンか」


 豊は空を見上げた。今頃、翔は何をしているんだろう。早くあいつを改心させないと。


 豊は改札を出た。多くの人が行き交っている。彼らの多くは観光客だ。大地の祠がどこにあるのか聞かないと。


「すいません、大地の祠ってどこにあるか知りませんか?」


 豊は通りすがりの観光客に聞いた。その男は観光客で、サングラスを付けている。


「いや、知らないな」


 その男は観光客で、この町の事はよく知らないようだ。豊は残念そうな表情になった。だが、まだまだ1人に聞いただけだ。次第にわかるだろう。


 豊はメインストリートにやって来た。朝からメインストリートにも多くの観光客が行き交っている。豊は彼らを見て疑問に思った。彼らは、世界の危機を知っているんだろうか? 神龍教が世界を作り直し、人間を滅ぼそうと思っているのを知っているんだろうか?


 今度は店の人に聞く事にした。昔からここにいる人なら知っているかもしれないと思ったからだ。


「すいません、大地の祠って知ってますか?」

「ああ」


 豊は少し笑みを浮かべた。知っている人がいた。どこにあるのか知っているんだろうか?


「本当ですか? どこにあるんですか?」

「いや、そこまではわからないな」


 豊は下を向いた。少し期待したが、場所が知らなければ意味がない。


 豊は途方に暮れていた。なかなか見つからない。このままでは見つからないまま、世界が作り変えられてしまうかもしれない。


「なかなか見つからないな」


 豊は昼ご飯を食べようと、近くの喫茶店に立ち寄った。喫茶店には多くの人がいる。彼らのほとんどは観光客だ。


 豊は中に入ろうとしたが、満席だと言う。名前を書いて、豊は店の前で待つ事にした。待っている人の多くは家族連れだ。とても楽しそうだ。豊はそれをうらやましそうに見ている。自分もこんな家族がいてくれたらいいのに。


 10分待って、ようやく喫茶店に入る事ができた。喫茶店にも多くの家族連れがいる。この喫茶店は家族連れに人気のようだ。


 豊は入る前にすでにメニューを決めている。指定された席に座ってじっとしていた。家族連れは楽しそうに話している。だが、自分には誰も話す人がいない。翔が目の前にいたらいいのに。そのためには自分が改心させないと。


 しばらくすると、注文したスパゲッティミートソースが出来上がり、テーブルに置かれた。朝食がパンだけだった豊はお腹がとてもすいていた。


 豊はミートソースを食べながら、喫茶店にいる人々の話に耳を傾けていた。ひょっとしたら、その中に大地の祠にまつわる重要な事を知っている人がいるかもしれない。


 その頃、豊の座っている席の近くで2人の女性が会話をしている。彼らはいたって普通の服装をしている。どうやら地元の人のようだ。


「知ってる? 最近、変な宗教が近くの洞窟を見張ってるんだって」


 豊はその言葉に反応した。ひょっとして、神龍教じゃないかな? だとすると、そこが大地の祠かもしれない。行ってみよう。


「本当? 不気味ね」


 ミートソースを食べ終えた豊は、彼らに話しかけた。きっと大地の祠の位置を知る手掛かりになるに違いない。


「すいません、それ、どこにあるの?」

「ど、どうしたんですか?」


 2人の女性は驚いた。まさか話しかけられるとは。


「いや、知りたくて」

「ここよ」


 女性の1人は豊の持っている地図に印をつけた。ここが問題の洞窟のようだ。きっとここが大地の祠だろう。よくわからないけど、行ってみよう。行って損はない。


 食べ終えた豊は喫茶店を後にして、そこに向かった。早く翔を改心させないと。




 1時間ほど歩くと、市街地を離れて獣道に入った。この辺りはなぜか開発が進んでいないようだ。何か理由でもあるんだろうか? ひょっとして、ここを開発したら神の怒りに触れるからだろうか?


 豊は獣道を進み始めた。だが、すぐに敵が襲い掛かってきた。茶色いドラゴンだ。


「食らえ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。だが、茶色いドラゴンはびくともしない。


「ガオー!」


 茶色いドラゴンは豊に噛みついた。だが、豊はびくともしない。


「覚悟しろ!」


 豊は姿を消して、茶色いドラゴンを何度も斬りつけた。茶色いドラゴンは少しひるんだが、すぐに持ち直した。


「グルルル・・・」


 茶色いドラゴンは炎を吐いた。それでも豊はびくともしない。


「それっ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。茶色いドラゴンは表情が苦しくなった。


「ガオー!」


 茶色いドラゴンは炎を吐いた。豊の表情は変わらない。


「とどめだ!」


 豊は雷を帯びた剣で何度も斬りつけた。茶色いドラゴンは倒れた。


 豊は息を切らした。ここにも敵がいるとは。油断できないな。


「ここに敵がいるなんて」


 豊は前を見た。だが、洞窟はまだ見えない。どこまで歩けばたどり着けるんだろう。


 豊は再び進み出した。だが、すぐに敵が襲い掛かってきた。巨大なムカデだ。


「覚悟しろ!」


 豊は姿を消して、巨大なムカデを何度も斬りつけた。だが、巨大なムカデはびくともしない。


「ギャオー!」


 巨大なムカデは豊に噛みついた。豊はびくともしない。


「食らえ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。巨大なムカデは暑がったが、すぐに気を取り戻した。


「グルルル・・・」


 巨大なムカデは毒の牙で噛みついた。豊は毒に侵されない。


「覚悟しろ!」


 豊は雷を帯びた剣で斬りつけた。巨大なムカデは表情が苦しくなった。


「ガオー!」


 巨大なムカデは豊に噛みついた。それでも豊はびくともしない。


「とどめだ!」


 豊は姿を消して、炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。巨大なムカデは倒れた。


 豊は拳を握り締めた。どれもこれも翔が仕掛けているんだろうか? 今に見てろ。俺が改心させてやる!


「くそっ、あいつらが見張らせているのかな?」


 豊は再び進み出した。すると、洞窟が見えてきた。その洞窟の入口は立派な造りだ。やはりここが大地の祠だろうか?


「ここが大地の祠かな?」


 豊は洞窟に向かって進み出した。だが、あと少しの所で、敵が襲い掛かってきた。モグラの魔法使いだ。


「食らえ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。モグラの魔法使いの体に火が点いた。


「天の怒りを!」


 モグラの魔法使いは魔法で雷を落とした。だが、豊の体はしびれない。


「覚悟しろ!」


 豊は姿を消し、モグラの魔法使いを何度も斬りつけた。モグラの魔法使いの表情は変わらない。


「炎の力を!」


 モグラの魔法使いは魔法で火柱を起こした。それでも豊の表情は変わらない。


「食らえ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。モグラの魔法使いは表情が苦しくなった。


「ギャオー!」


 モグラの魔法使いは持っていた杖で豊を叩いた。だが、豊はびくともしない。


「とどめだ!」


 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。モグラの魔法使いは倒れた。


 豊は洞窟の前にやって来た。洞窟の前には1人の見張りがいる。その見張りは龍のペンダントを付けている。どうやら神龍教の信者のようだ。


「あいつらが見張ってるのか」


 豊は思った。1人でこの洞窟に入ったら、多くの敵が襲い掛かってくるだろう。こうなったら死んでしまう。だったら、自分が敵に化けて奥に進もう。そして、その奥で翔を見つけて、改心させよう。


 豊は洞窟の入口にいる茶色いドラゴンに襲い掛かった。


「食らえ!」


 豊は氷を帯びた剣で何度も斬りつけた。だが、茶色いドラゴンの表情は変わらない。


「ガオー!」


 茶色いドラゴンは豊に噛みついた。だが、豊はびくともしない。


「それっ!」


 豊は姿を消して何度も斬りつけた。それでも茶色いドラゴンの表情は変わらない。


「グルルル・・・」


 茶色いドラゴンは炎を吐いた。豊の体に火が点かない。


「覚悟しろ!」

 豊は炎を帯びた剣で何度も斬りつけた。茶色いドラゴンは表情が苦しくなった。


「グルルル・・・」


 茶色いドラゴンは炎を吐いた。それでも豊はびくともしない。


「とどめだ!」


 豊は姿を消して何度も斬りつけた。茶色いドラゴンは倒れた。


 豊は倒した茶色いドラゴンに化けた。どう見ても神龍教の信者の茶色いドラゴンにしか見えない姿だ。


 豊は洞窟に入った。洞窟の中には敵がいる。茶色いドラゴン、巨大なミミズ、巨大なムカデ、モグラの魔法使い。だが、見た目は茶色いドラゴンだ。敵が入ってきた事に気付いていない。普通に見ているだけだ。


「おっ、見回りご苦労」


 突然、別の茶色いドラゴンが声をかけた。どうやら神龍教の信者だと思っているようだ。


「ありがとうございます。実は私、今日からここに配属された人でして、道に迷いまして」


 豊は少し怯えながら答えた。その表情はまるで気の弱い新人のようだ。


「わかった。どこに行きたいんだね」


 茶色いドラゴンは優しそうな声だ。あれだけ悪い事にしているのに。全く別人のようだ。


「ノームのオーブを守っている場所です」

「そ、そうか。それを知ってどうしたんだ?」


 茶色いドラゴンは驚いた。来たばかりなのに、どうして行こうと思っているんだろう。何か深い理由があるんだろうか?


「ただ単に知りたいだけ」


 豊は戸惑っている。どう答えればいいんだろう。ひょっとしたら、不審に思って、襲い掛かってきそうだ。


「そうか。緊張するなよ。怖い人じゃないんだから」


 茶色いドラゴンは豊の肩を叩いた。豊の顔は少しほころんだ。そんなに怖い人じゃなさそうだ。


「あ、ありがとうございます」


 2人は大地の祠の中を歩いていく。その中はまるで迷路のようで複雑だ。その中には多くの敵がいたものの、敵に化けている豊に襲い掛かる敵は1匹もいない。


「どうしたんだい?」

「い、いや。緊張してるので」


 豊は照れくさそうだ。その様子を茶色いドラゴンは微笑ましい表情で見ている。きっと緊張しているんだろう。


 しばらく歩くと、祠の奥に着いた。その奥には緑の龍がいる。それを見て、豊は驚いた。翔だ。豊は、龍の姿の翔を見た事がある。背中に乗せてもらった事がある。翔はノームのオーブを握って、英雄が来るのを待ち構えているようだ。


「この人がノームのオーブを守っている翔様だよ」


 翔は怖い目つきだ。いつもの翔とは明らかに違う。神龍教の信者になり、すっかり変わってしまったんだろうか? だが、必ず改心して、故郷に戻してみせる。


「これがノームのオーブか」


 豊は翔が握っているオーブをじっと見つめた。そのオーブは茶色い光を放っている。その中にオーブの力があるんだろうか?


「ああ、以前はペオンビレッジの祠にあったらしいが、あそこが女神竜の祠になったために、ここに移されたんだ」

「そうなんだ」


 豊は昔話に耳を傾けた。絵本ではかなり大まかな話しかない。こんなに詳しい話を聞くことができるなんて。本当に感激だ。


「それじゃあ、あっちを見張りしてくるね」

「わかった」


 豊は部屋を後にした。茶色いドラゴンはその様子をじっと見ていた。これからこの仕事に慣れて、いい信者になってほしいな。茶色いドラゴンは期待しているようだ。

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