第1話 ミラクル種(6)

 2人は講堂のベンチに座り、これまでに起こった出来事を話す事にした。逃げた人々はベンチに座り、じっとしている。


「ジーダ、今さっき何かおかしなことが起きなかったか?」

「突然変な力が発動して、気が付いたらサイカシティにいたんだ」


 ジーダはようやく自分に起きた事をわかってきた。牢屋に閉じ込められている時、突然まばゆい光に包まれ、金色の巨大なドラゴンとなった。金色の巨大なドラゴンは牢屋の人々を背中に乗せて、サイカシティへと飛び立っていった。


「そうか。ジーダ、ミラクル種のドラゴンって知ってるか?」


 その時、ジーダは気が付いた。自分がミラクル種のドラゴンだと。かつてクラウドから教わった、世界が危機の時に生まれ、世界を平和に導くと言われている。


「知ってる。世界が危機に陥った時に世界を救うと言われているドラゴン。金色の体を持ち、不死鳥の炎であらゆる生き物を蘇らせるって言われてる」


 ジーダは自分に秘められた力がどんなものかよくわかった。自分は女神竜サラと同じ力を持つ、ミラクル種のドラゴンだ。だから、女神竜サラと話ができたんだ。


「その変な力は、ミラクル種の特徴なんだ」

「徐々にわかってきた。自分はミラクル種のドラゴンだと」


 ジーダは決意を固めていた。世界を救うために、王神龍を封印しなければ。


「女神竜サラ様から言われたんだけど、世界を救う5人の英雄のリーダーだって」

「そうか・・・。まさかジーダが世界を救う5人の英雄のリーダーだったとは」


 クラウドも驚いた。まさか、自分が保護して育ててきたドラゴンが、世界を救うミラクル種のドラゴンだったとは。


「俺も信じられない。でも、世界を救わないと。だってみんな消えちゃうんでしょ?」


 ジーダは拳を握り締めた。家族を殺し、村を焼き討ちにして、世界を作り直そうとしている司祭が許せない。必ず倒さなければ。そして何より、この世界を作り直そうとしている王神龍を再び封印せねば。


「うん」

「俺、この世界を守りたい!」


 ジーダは強い口調だ。必ず世界を救ってこのサイカシティに戻るんだ。


「わかった。でも、王神龍に会うためには、4つの精霊のオーブと7匹の最高神の力が必要になる。それをすべて集めなさい」

「わかりました」


 ジーダは考えた。200年前もサラはこうして世界を救ったんだと。今度は自分が世界を救わねば。


「まずはリプコットシティのはずれにあるアンリスだ。そこの火山には洞窟があり、その先には炎の精霊、サラマンダーがいるはずだ。絶対に見つけ出して、世界を救うと信じてるぞ!」

「はい!」


 ジーダはその火山の事を知っていた。この火山は通っている高校の校歌にも登場する。その位置はよく知っている。だが、登った事はない。まさか、ここにサラマンダーのオーブがあるとは。


「じゃあ、あの時、俺たちを救ってくれたのはジーダだったのか?」


 逃げてきた男の内の1人は驚いた。やはり、あの時に救ってくれたのはジーダだったのか。


「確かにそうだ。あの時、ミラクル種特有の力が目覚めたんだ」

「そんな! あの子がそんな力を持っていたとは」

「すごい人に出会った!」


 周りにいた人々は驚いた。まさか、あの牢屋にいた少年がこんな力を持っていたとは。


「私は知っていた。だが、それを言うとジーダが狙われると思ったので、言わなかった」


 実は、クラウドはその事を知っていた。それは、ジーダが10歳の頃だ。ある日、教会の前で男が凍死していた。だが、ジーダが不死鳥に変身して、不死鳥の炎を浴びせた。すると、男は何事もなかったかのように生き返ったという。だが、ジーダはその力が何なのか、全く理解できなかった。


「まさか自分がそんな力を持っていたとは」

「女神竜サラも人間だった頃からその力を持っていたそうだ。だから俺は女神竜サラが見えたんだ」


 クラウドは女神竜サラの持っているミラクル種の力の事を知っていた。ジーダがそれを持っていると知られたら、絶対に狙われるだろう。そして、連れ去られて、殺されるだろう。そうすれば、世界は作り直され、人間が滅んでしまう。


「ジーダ、そんなのが見えるんだ!」


 逃げ出した人々は驚いた。まさか、女神竜サラが見えるとは。やはり、この男はただものじゃない。


「うん」

「俺、リプコットシティで女神竜サラの銅像を見たんだが、まさか本物を見れた人がいるとは」


 男は、遠足で女神竜の銅像に登り、展望台からリプコットシティを見下ろした事がある。あの時の感動は忘れていない。だが、本当にいたとは信じられなかった。


「自分もびっくりだよ。でも、きっとそれは俺が特別な力を持っていたからなんだなって気づいた」

「ジーダって、すごいね」


 ジーダは左を向いた。そこにはベニーがいる。ベニーは聖衣と聖帽を着て女神竜の銅像を見ている。


「ありがとう」


 ジーダはベニーは頭を撫でた。ベニーは笑顔を見せた。


「保護した人々はここで保護する。このまま故郷に帰っては神龍教に捕まえられるだろうから」


 逃げてきた人々は、この世界が救われるまでこの強化で保護する事にした。彼らはすでに神龍教に狙われている。このまま外に出たら神龍教に捕まって、王神龍の生贄に捧げられるだろう。彼らが殺されないための配慮だ。


「ありがとうございます。もうあいつらに捕まえられて生贄に捧げられるなんてごめんだ」

「この教会で過ごす事によって、悔いを改めなさい」

「はい」


 彼らはここに残り、今までしてきた罪を償うつもりだ。何も苦しまず、その罪を受け止め、清く生きよう。


 ジーダは寝室から外を見ていた。出発は明日にしよう。まずはリプコットシティに行き、アンリス火山に行こう。


「ジーダ」


 誰かが入ってきたの気付き、ジーダは左を向いた。アレックスだ。クラウドの話していたジーダの持つ力を聞き耳していた。


「アレックスさん」

「行っちゃうの?」


 アレックスは女神竜サラの銅像を見つめている。生前はどんな姿をしていたんだろう。そして、どれだけの人が世界の平和を願ったんだろう。


「はい、行ってきます」


 ジーダの意志は固い。世界を救うのがミラクル種の使命だ。今度は自分が世界を救わねば。


「そうか。俺、ジーダが必ず世界を救ってくれると信じてる! だって、ジーダは強い。あんなすごい力を持っているんだから」

「ありがとう」


 アレックスとジーダは握手をした。ジーダは強い。だって、金色の巨大なドラゴンになって、誰にも負けない力で立ち向かう。


「もし、世界を救ったら、この教会で会おう」

「うん!」


 2人は抱き合った。もし、世界を救ったら、この教会で抱きしめ合い、平和が戻った喜びを共に分かち合おう。




 一方、その頃にサイカシティに着いたシンシアは教会に向かっていた。教会にはジーダがいるはずだ。外は雪がちらついている。とても寒い。


 シンシアは教会にやって来た。教会には多くの人がいる。彼らはボロボロの服を着ている。寒い日にどうしてこんな服を着ているんだろう。


 その中に、黒いドラゴンがいる。ドラゴンは女神竜の像をじっと見ている。ひょっとして、ジーダだろうか? ジーダは黒いドラゴンだと聞いた。


「あのー、ジーダ・デルガドさんですか?」

「そ、そうですけど」


 ジーダは戸惑った。突然、誰だろう。誰かが訪ねてくると思っていなかった。


「私、シンシア・アイソープ」


 ジーダは驚いた。まさか、ここで世界を救う仲間の1人のシンシアに会うなんて。


「まさか、世界を救う英雄の1人」


 ジーダは驚いた。世界を救うと言われている英雄の1人だ。まさか、ここで会えるとは。共に戦う仲間に会おうと思って、ここにやって来たと思われる。


「あなたに会うために、ここに来たの。一緒に世界を救いましょ?」


 シンシアは笑顔を見せた。やっと仲間に会う事ができた。これから共に戦い、王神龍を封印して、世界を救おう。


「うん。一緒に戦おう!」


 ジーダとシンシアは握手した。厳しい冒険はまだ始まったばかりだ。必ず世界を救わなければ。救出した人々のために。教会に住むクラウドや子供のために。そして何より、この世界の全ての人々のために。

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