第5話 遠い思い出(2)

 しばらく進むと、街道に入った。ここは100年ぐらい前から栄えた街道だ。この峠を行き来する旅人の体を癒してきた。


 街道に入ると、2人はスピードを落とした。いつだれかが飛び出してくるかもしれない。スピードを落として慎重に進まねば。


「美しい街並みだね」

「うん」


 2人は街道の美しさに見とれながら、ゆっくり進んだ。進むにつれて徐々に人通りが多くなってきた。周りには飲食店が多い。進むにつれていい香りが漂ってくる。


 しばらく進むと、旅館が見えてきた。2人はこの旅館に泊まる予定を立てていた。その旅館は100年以上前に建てられているが、つい最近リニューアルしたばかりだ。当時の内外装を残しつつ、清潔感のある内装にした。


「今日はここで一泊しよう」

「うん」


 2人は旅館に入った。入口の右には受付があり、カウンターには女将がいる。女将は美しい。


「すいません、ツインルームでお願いします」

「かしこまりました」


 2人は案内された部屋に向かった。2階の4畳半の部屋で、眼下に広がる田園風景を見下ろすことができるという。


 ダミアンは引き戸を開け、案内された部屋に入った。この部屋は靴を脱いで入る。2人は靴を脱いで部屋の中に入った。


 ダミアンは窓を開けた。底にはのどかな田園風景が広がっている。その向こうには山々が広がっている。


「いい眺めだなー」

「本当?」


 ベリーはダミアンの方を向いた。いい眺めなら、見なければ。


「こっち来てみろよ」

「どれどれ?」


 ベリーは窓の外を見た。すると、のどかな風景が広がっていた。


「本当だ! いい眺めー」

「学校の疲れが吹っ飛ぶよ」


 2人は笑顔を浮かべ、外の景色を見ていた。とてもいい風景だ。


「それはよかった」


 ベリーはダミアンの方を見て、笑みを浮かべた。すっかり昔の事から立ち直ってくれて、とても嬉しかった。


「中学校の頃は荒れてたけど、けっこう真面目になってきたよな」

「うん」


 ダミアンは中学校の頃の自分を思い出した。とても荒れていて、先生に迷惑ばかりかけてしまった。あの時、どうしてこんなことしてしまったんだろう。高校受験を機に、真剣に勉強するようになり、高校で急激に成績が上がり、大学に進むことができた。


「聞きたいんだけど、ダミーって、小学校まではどんなんだったの?」


 それを聞くと、ダミアンは下を向いてしまった。どうしてもその事を話したくない。悲しい思い出だ。両親を失った。それまでは順調な人生だったのに。自分はあれ以来、人生をもう一度やり直し、それを忘れるためにぐれてしまった。どうしてぐれなければならなかったんだろう。今となってはそれが最大の疑問だ。


「それはあんまり話したくないんだよ。今思い出すと涙が出そうなんだ」


 ダミアンは泣きそうになった。今思い出しても涙が出てくる。忘れようとしても忘れられない。


「相当嫌な思い出だったんだね」

「うん」


 ダミアンは窓を閉じ、部屋に戻った。そして、ある写真を取り出した。それは両親の写真だ。両親はサイカシティに住んでいた。12歳までサイカシティで過ごしていたのに、ある日誰かに両親を殺され、家を放火された。それ以来、孤児院で暮らすようになった。


「両親か?」


 ダミアンは横を向いた。ベリーがいる。ベリーはその写真を見ていた。両親は笑顔を見せている。父はまだ赤ん坊の頃のダミアンを抱いている。


「うん。ある日、放火殺人で死んじゃったんだ」


 ダミアンは下を向いた。どうしても忘れることができない。


「そうなんだ」

「優しい両親だった。でも、こんな事に遭うなんて」


 今思い出しても、腹が立つ。放火殺人をした奴が目の前にいたら、ぶん殴りたい。


「信じられないよな。その気持ち、わかる」


 ベリーはダミアンの肩を叩いた。悲しい出来事だけど、立ち直ってほしい。


「こんな事起こっていなければ、どんな今になっていたんだろう」


 ダミアンは思い浮かべた。両親と同じく優秀な魔法使いになっていただろう。だが、もう魔法使いになる夢は捨てた。そのために両親を殺された。魔法使いだったら、命を奪われるかもしれない。だから、魔法使いになる夢を捨てた。


「そんなに気にするなよ。じゃなければ、ダミーと会うことができなかったんだ」


 ベリーは励ました。あんなことがなければ、ダミアンとは巡り合えなかった。悲しい事だけど、それがあったからこそ巡り合えた。そして、乗り越えることができた。


「そうだけど・・・」


 ついにダミアンは泣いてしまった。今でも忘れることができない。平和な日々だったのに。こんな事で奪われるなんて。信じられない。


「わかるわかる。でも、今を見つめないと。今を生きないと」

「うーん。それじゃあ、頑張るよ」


 結局、またもやベリーに引きとめられた。何度こんな事があったんだろう。


「ありがとう」


 ベリーは笑顔を見せた。ダミアンが気を取り戻してくれる。それが何よりもうれしい。


「夜までのんびりしようぜ」

「うん」


 ダミアンは畳の上に仰向けになった。それにつられるようにベリーも横になった。朝からバイクで走って疲れた。ここで少し一服しよう。まだまだ旅は長い。少し体を休めよう。




 その夜、ダミアンは目が覚めた。だが、ベリーはいない。だが、ダミアンは不思議に思わなかった。おそらくトイレに行っているんだろう。直に戻ってくるだろう。


 ダミアンは外を見た。星空がよく見える。とても静かだ。インガーシティとは全く違う。こんな景色を見るの、何か月ぶりだろう。ダミアンはしばらく見とれた。


「キャー!」


 突然、静寂を引き裂くように叫び声が聞こえた。下から聞こえる。ダミアンは下を見て驚いた。ベリーだ。何者かに襲われている。


「ダミー、助けて・・・、助けて・・・」


 ダミアンを見たベリーは助けを求めた。ダミアンは強い。絶対に助けてくれる。ベリーは信じていた。


「ベリー!」


 ダミアンは悪魔に変身し、翼をはためかせて地上に降り立った。ダミアンは怒っていた。ベリーを離せ。離さなければお前を倒す。


「ベリーを離せ!」

「そうはいかないな」


 目の前には青いドラゴンがいる。そのドラゴンは強そうだ。だが、おののいてはならない。ベリーを助けなければ。


「殺してやる!」


 ダミアンはドラゴンに襲い掛かった。


「食らえ!」


 ダミアンは持っていた三叉槍でドラゴンを突いた。だが、ドラゴンはびくともしない。


「つまらん!」


 ドラゴンは炎を吐いた。だが、ダミアンはびくともしない。


「ベリーを返せ!」


 ダミアンは炎を帯びた三叉槍でドラゴンを突いた。それでもドラゴンはびくともしない。


「そうはさせないぜ!」


 ドラゴンはダミアンに噛みついた。それでもダミアンはびくともしない。


「覚悟しろ!」


 ダミアンは炎を帯びた三叉槍でドラゴンを突いた。ドラゴンは笑みを浮かべている。


「死ね!」


 ドラゴンは氷の息を吐いた。ダミアンは少し表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 ダミアンは魔法で自分を回復させた。ダミアンはある程度の魔法を使う事もできた。


「炎の力を!」


 ドラゴンは魔法で火柱を起こした。だが、ダミアンの体に火が点かない。


「それっ!」


 ダミアンはものすごい勢いでドラゴンを突いた。ドラゴンの表情は変わらない。


「効いてない効いてない」


 ドラゴンは笑みを浮かべながらダミアンに噛みついた。ダミアンの表情も変わらない。


「氷の力を!」


 ダミアンは魔法でドラゴンを氷漬けにした。だが、ドラゴンは氷漬けにならない。


「全然痛くないわ!」


 ドラゴンは炎を吐いた。それでもダミアンの体に火が点かない。


「許さんぞ!」


 ダミアンは炎を帯びた三叉槍でドラゴンを突いた。ドラゴンは痛くもかゆくもないようだ。


「全然効かんわ!」


 ドラゴンはダミアンに噛みついた。ダミアンは表情が苦しくなった。


「天の怒りを!」


 ダミアンは魔法で雷を落とした。ドラゴンの体はしびれない。


「なかなかやるな。ではこれではどうだ?」


 ドラゴンが気をためると、ドラゴンは黒いベールに包まれた。闇のバリアだ。こうなるとどんな攻撃も効かなくなる、ある力を使わない限り。


「食らえ!」


 それを知らないダミアンはものすごい勢いでドラゴンを突いた。だが、ドラゴンには全く効かない。これが闇のバリアの力だ。


「全然痛くもかゆくもないわ!」


 ドラゴンは黒い炎を吐いた。ダミアンは少し表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 ダミアンは魔法で自分を回復させた。だが、魔力が尽き、それ以上できなくなった。


「どうした? もう諦めるか?」


 ドラゴンは不敵な笑みを浮かべながら氷を吐いた。それまで以上に強さが増している。ダミアンは驚いたが、ベリーを助けたいという気持ちがダミアンを動かしていた。


「諦めない! ベリーを返せ!」


 ダミアンは炎を帯びた三叉槍でドラゴンを突いた。それでもドラゴンには全く効かない。


「諦めろ!」


 ドラゴンは炎を吐いた。ダミアンは少し表情が苦しくなった。


「諦めるもんか!」


 それでもダミアンは立ち向かった。ベリーを守るために。ダミアンは炎を帯びた三叉槍でドラゴンを突いた。ドラゴンは不敵な笑みを浮かべている。


「そろそろ死んでもらおうか?」


 ドラゴンは灼熱の炎を吐いた。ダミアンは非常に大きなダメージを受け、立ち上がれなくなった。


「くそっ・・・」


 ダミアンはドラゴンに倒された。だが突然、ドラゴンはまばゆい光に包まれた。ドラゴンは驚いた。


「な、何だ、この光は?」


 そらからすぐに、ドラゴンの目の前に金色のドラゴンが現れた。金色のドラゴンは自分よりはるかに大きい。まるで王神龍のようだ。


 光が収まり、目の前を見ると、ダミアンがいない。ドラゴンは首をかしげた。どこに行ったんだろう。


「どこに行ったんだろう」


 ドラゴンとベリーは呆然としていた。ダミアンはどうしたんだろう。今さっきの金色のドラゴンは一体何者だろう。

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