第5話 遠い思い出(1)
ダミアンは目を覚ました。ここは寝室だ。部屋には机があり、たくさんの本棚がある。外では雪が降っている。部屋のエアコンは切っていて、寒い。
深夜だが、なぜか騒がしい。扉の向こうが明るい。もう寝ていて、暗いはずなのに。それに、どこか焦げ臭い。火事だろうか?
ダミアンは扉を開けた。だがそこには、炎が見える。火事だ。そして、その下では、両親が苦しんでいる。どうやら刺されたようだ。ダミアンは呆然とした。どうしてこんな事になったんだろう。信じられない。
「お父さん! お母さん!」
ダミアンは叫んだ。今まで育ててくれた両親が一瞬でいなくなるなんて、信じたくない。
「逃げろ! 逃げろ! 殺される!」
絶望していたその時、突然、目の前に金色の巨大なドラゴンが現れた。誰だろう。放火殺人の犯人だろうか? ダミアンは首をかしげた。
「聖ダミアノス郷、来なさい」
聖ダミアノス郷はダミアンのホーリーネームだ。ダミアンは昨日、その名前を授かった。どうしてその名前を知っているんだろうか? ダミアンは驚いた。
金色のドラゴンはダミアンを抱きかかえ、どこかへ飛んで行った。間もなくして、ダミアンはまばゆい光に包まれた。周りには何も見えない。一体どこだろう。
ダミアンは目を覚ました。夢だった。いつもこんな夢だ。もう6年前の話なのに。いまだに忘れる事ができない。それほど辛く、悲しい思い出だった。
ダミアン・クレイマーは18歳。インガーシティに住む大学1年生だ。ダミアンは悪魔の1種であるベリアル族だ。昔は優等生だったが、放火殺人で両親を失ったショックでぐれてしまい、中学校では非行に走った。だが、高校では再び真面目になり、大学に進学することができた。大学では順調な日々で、友達がたくさんできた。
「夢か・・・」
ダミアンは辺りを見渡した。小さなマンションの1室だ。机とたくさんの本棚がある。もう朝だ。朝からセミの鳴き声がけたたましく聞こえる。
このマンションに住んでもう6年だ。1人暮らしにだいぶ慣れてきた。炊事洗濯が全くできなかったが、次第にできるようになった。ダミアンはようやくいつも通りの自分に戻ってきたように見えた。だが、心の中ではあの時の事が夢になって出てくる。いつになったら忘れる事ができるんだろう。
突然、戸を叩く音がした。誰かが来たようだ。思い出した。今日から長い夏休みに入る。今日からしばらくバイクで旅をする日だ。バイク友達のベリー・カルロスが来たと思われる。
「ダミー、行くぞ!」
ベリーの声だ。ベリーはダミアンより早く起きて迎えに来た。
「ちょっと待ってね。今、準備するから」
ダミアンは大急ぎで支度をした。リュックとヘルメットを手に取り、玄関に向かった。
ダミアンは部屋の扉を開けた。目の前にはヘルメットをかぶったベリーがいる。ベリーは嬉しそうな表情だ。ベリーはダミアンとは別の大学に通っていて、同じく今日から夏休みだ。
「お待たせ」
ダミアンは部屋の鍵を閉め、マンション専用の駐車場に向かった。そこには自分のバイクが置いてある。
ダミアンは深呼吸をした。今日は快晴だ。絶好の行楽日和だ。外は朝のざわめきが過ぎて、少しは静かになっていた。周りの家々の主婦の声が時々こだまする。
「どうだ、大学生活は」
「楽しいよ」
ダミアンは笑顔で答えた。中学校でぐれていた頃は全く笑顔を見せなかった。だが、真面目に戻ってくるにしたがって、徐々に笑顔を見せる事ができるようになってきた。
「それはよかった」
ベリーもぐれていたが、高校で徐々に更生していき、今では真面目に大学生活を送っている。
「今まであんな人生、どうして送ってたんだろうって思ってしまうよ」
ダミアンはぐれていた日々を後悔していた。どうしてこんな事をしてしまったんだろう。平凡な日々を送っていれば、もっと幸せな学校生活を送る事ができたのに。
2人は1階にやって来た。そこにはやや大きめのバイクがある。バイクは高校になってから乗るようになり、大型連休になるとよく走り回っていた。
「まぁ、人生をやり直せてよかっただろう」
「うん」
ダミアンはバイクのエンジンをかけ、出発した。後に続いて、ベリーもバイクのエンジンをかけ、出発した。車の通りは少ない。だが、いつ飛び出してくるかわからない。2人は慎重にゆっくりと走らせていた。
2人は次の交差点の信号で止まった。目の前には国道がある。国道には多くの車やバイクが走っていた。夏休み真っただ中だ。車の中には家族全員が乗っている車もある。ダミアンはそれを見て悲しくなった。ある日、突然両親を失った。どうしてこんな事になったんだ? 自分の力が原因だろうか?
2人は交差点を右に曲がり、国道に出た。国道は2車線で、2人は右のレーンに入った。2人はバイクのスピードを上げた。風が心地よい。これがバイクのだいご味だ。
国道を離れ、2人は町道に入った。ここは1車線で、車はそんなに多くない。しばらく走ると田園風景に入った。国道より空気が澄んでいる。より風が心地よい。2人は気持ちよく走っていた。
「気持ちいいなー」
ダミアンは普段は感じない心地よい空気を肌で感じた。
「今日は峠の向こうの町まで行こうぜ」
ベリーは前を見た。その先には山がある。底には峠があり、インガーシティが見渡せる。峠の先には町がある。今日はそこの旅館に泊まろう。
「うん」
2人は更に先に進んだ。山が段々大きく見えてきた。道路に並行して川が流れている。川は流れが速く、ごつごつした岩肌が多くある。この先は山道だ。急カーブが連続する。気をつけて行かないと。
川では多くの人が遊んでいる。その中には家族連れもいる。ダミアンは彼らがうらやましく思えた。もう両親はこの世にはいない。もうこんな事できない。
バイクは町道を離れ、峠道へ通じる道に入った。最初の辺りは集落で、家々の中を走る。この辺りの家は古く、街道の雰囲気が色濃く残っている。人通りは少なく、ほとんどが高齢者だ。
進むにつれて、道が上り坂になってきた。いよいよ峠が近づいてきた。集落を離れ、民家が少なくなる。そして、田園地帯を眺めながら坂を上る。その先には雑木林が見え、更に急な坂が待ち構えている。進むにつれて、2人は気持ちが高ぶってきた。これから峠を越えて向こうの町に行くんだ。
その先はヘアピンカーブの続く上り坂だ。人家は全くない。カーブの先にはカーブミラーがあり、対向車がよくわかる。だが、対向車はない。交通量は全くと言っていいほどないようだ。ここから少し離れた所にトンネルがあり、大抵のドライバーはここを使う。2人はエンジンを全開にして登った。
1時間ほど走ると、峠の頂上にやって来た。底には何もない。あるのは雑木林と峠の頂上を示す看板、そして道の駅だけだ。
ここから先は再びヘアピンカーブだが、長い下り坂だ。2人は慎重に進んだ。ここを通る車は全くない。辺りはバイクの音しか聞こえない。
どこまでも続くようなヘアピンカーブをしばらく進んでいくと、1車線の道が見えてきた。トンネルの出口だ。もうすぐ道の駅に着くはずだ。そこでいったん休憩して、少し遅めの昼食にしよう。
2人は1車線の道と合流した。道には多くの車が行き交っている。その近くには長いトンネルが待ち構えている。道の駅はすぐそこだ。
2人は右折した。すぐそこには道の駅がある。あと一息だ。頑張ろう。
2人は道の駅にやって来た。ここは平原を見下ろす位置にあり、眺めがいい。2人はバイクの駐車場にバイクを停めた。
「やっと着いたな」
「うん」
2人はバイクを降りて、道の駅に向かった。道の駅には展望台があり、平原を見下ろすことができる。夏休み真っただ中で、道の駅には多くの家族連れが訪れている。駐車場には、多くの車が停まっている。
2人は展望台に向かった。展望台にも多くの家族連れが来ている。彼らは楽しそうな表情だ。うらやましい。自分は家族を突然失った。僕の痛みなんて、彼らにはわからない。
2人は展望台への階段をのぼり、展望台にやって来た。広大な平原が見え、その先には海が広がる。とても壮大な風景だ。2人はしばし見とれて、感動した。
「ここは眺めがいいなー」
「うん」
2人は下の食堂に向かった。時間は午後2時。少し遅いが、昼食にしよう。
2人は食堂にやって来た。食堂にはいくつかの店があり、注文して先にお金を払ってフードコートで食べる。すでに昼下がりだが、食堂にはある程度の人がいる。トラック輸送の人だろうか? それとも昼食が遅くなった観光客だろうか?
「いらっしゃいませ、何になさいますか?」
「ラーメンでお願いします」
ダミアンはお金を払った。ダミアンは自宅を出てから何も食べておらず、とてもお腹がすいていた。
「かしこまりました、少々お待ちください。ラーメン一丁!」
ダミアンは右に動いた。後ろのベリーの番だ。
「いらっしゃませ、何になさいますか?」
「カレーライスお願いします」
ベリーはお金を払った。
「かしこまりました。少々お待ちください。カレーライス一丁!」
2人は右に動いて、メニューを待つことにした。その後ろには誰も並んでいない。お昼ごろにはもっと多くの人が並んでいたと思われる。
数分後、メニューが届いた。2人はフードコートで食べ始めた。この頃になると座っている人はほとんどいない。隣にある土産物屋には多くの人がいる。彼らは楽しそうな表情だ。
「ダミー、将来、何になりたいんだ?」
「まだ決めてないけど、公務員かな?」
ダミアンは公務員と答えたが、本当ははっきり決まっていない。できそうな仕事がないか考えたらこれかなと思った。
「そっか、俺は教員だな」
2人はそれぞれの夢を語っていた。だが、ダミアンの表情は戸惑っていた。本当に公務員でいいんだろうか? もっとまともな仕事が見つかるんじゃないのか? ダミアンは将来が不安でしょうがなかった。中学校の頃にぐれていた自分にできる仕事なんてないんじゃないかと思っていた。
遅めの昼食を食べ終えた2人は先に進んだ。ここから先は下り坂だ。1車線の道路を2人は軽やかに進んでいた。登りに比べてカーブが急ではないし、少ない。2人はその向こうの町に着くのが楽しみでしょうがなかった。
2人は更に先に進んだ。ここからは下り坂だ。所々に民家が見える。町が見えてきた。
下り坂は1時間ほど続いた。周りの雑木林は段々畑に変わり、民家が点在する場所にまで来た。交通量は若干増え、徐々に町に近づいてきたという気分になれる。街道まではあと少しだ。2人は笑顔を見せた。
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