第1話 故郷の過去(2)

 それは10年前の春のことだった。いつものように朝が来た。今日もいい天気だ。2階の自分の部屋にいるジーダは窓を開けて、朝の風を感じていた。今日もいい1日が始まりそうな気がしてきた。


 ジーダが生まれ育ったのはペオンビレッジだ。190年前、壊滅状態にあったこの村は復興した。辺境の地で、人口はそんなに多くはない。ペオンビレッジは自然が豊かで、林業が盛んだ。そんなペオンビレッジには、かつて世界を救った英雄の1人に会えると言われているが、誰も信じない。


 だが、ジーダは知らなかった。今日を最後に故郷を追われることになろうとは。そしてこれが、10年後の冒険につながるきっかけになろうとは。


「ジーダ、ごはんよー」


 1階から母の声が聞こえた。朝食ができたようだ。ジーダは嬉しそうな表情だ。


「はーい!」


 1階からジーダが下りてきた。食卓には食パンとサラダが置かれている。


「いただきまーす!」


 ジーダは朝食を食べ始めた。すでに弟と妹は食べている。


 ジーダは父のゴルゴン、母のアシーナ、3歳上の姉のキャサリン、1つ下の弟のアンドレの5人暮らしだ。家は賑やかで、笑顔が絶えない。


「今日は誰かと遊んでくるの?」

「うん」


 今日は隣に住むゴースト族のテッドと一緒に山道を散歩する予定だ。昼までには帰ると約束している。

 テッドは隣に住むゴースト族の少年だ。年齢はジーダより1つ上の6歳。山の向こうの小学校に通っていて、朝早くにスクールバスで出かけている。今は夏休みの期間だったので、この時間でもペオンビレッジにいた。


「あんまり遠くに行っちゃだめよ!」

「わかってるよ!」


 母はジーダに注意した。この辺りは険しい所にある。危険がいっぱいだ。けがをしてほしくなかった。


「ここ最近魔族が襲い掛かってくることが多いんだよ! 気を付けなさいよ!」

「はーい」


 父はジーダに注意した。ここ最近、魔族が襲い掛かってくることが多い。200年ぐらい前に世界を作り直して、人間を絶滅させようとした神龍教が現れた時のようだ。あの時もそうだったという。だが、神龍教は全く昔の事。誰も信じない。だが、語り継がれてきた。この村には英雄のリーダーを祀る祠があると。だが、誰もそれを話してはならない。いつか来る神龍教の猛威からこの村を守るために。


「ジーダ、来年から小学校だな」

「うん」


 ジーダは来年から小学校だ。テッドと同様に朝早くから起きてスクールバスに乗って小学校に行かなければならない。


「スクールバスは朝早いから、早起きして出かけないとな」

「そうだね」


 ジーダは来年からの小学校生活を楽しみにしていた。友達をたくさん作って、楽しい小学校生活を送るんだ。きっと、家より楽しい生活が待っているはずだ。


 朝食を食べた後、ジーダは2階でのんびりしていた。


「ジーダ、行こうぜ!」


 突然、下で声がした。テッドだ。


「あ、テッド! ちょっと待ってね」


 テッドの声を聞くと、ジーダは支度をして1階に向かった。ジーダは嬉しそうな表情だ。


「行ってらっしゃい。あんまり遠くに行っちゃだめよー」

「いってきまーす」


 ジーダとテッドは出かけていった。この後、とんでもないことになると知らずに。


「昨日さ、面白い所を見つけたんだ!」


 テッドは昨日、山道を歩いていた時に変な所を見つけた。次の日、ジーダにも教えてやろうと思っていた。


「面白い所?」

「ああ、祠みたいなところなんだが、行き止まりになってるんだよ」


 テッドは昨日言った時からずっとそこの事が気になっていた。ジーダはその祠みたいな所が何か知っているか聞きたかった。


「ふーん、面白そうじゃん!」


 ジーダは笑顔を見せた。ジーダは不思議な物事に興味があった。将来はそれを研究する人になりたいと思っていた。


「行ってみる?」

「うん」


 2人は笑顔を見せながら村の田園地帯を歩いていた。まだ朝早いためか、農作業をしている人はいない。朝早くから野鳥のさえずりが聞こえる。


 2人は人里を離れ、獣道に入った。獣道は静かだ。誰も人がいない。


「静かだね」

「うん」

「この辺りは、誰も通ろうとしないんだ」

「ふーん」


 その時、目の前に2匹の赤いドラゴンが現れた。2人を狙っているようだ。


「うわっ、何だ?」


 ジーダは驚いた。こんなことになるとは。


「魔獣だ!」


 テッドは焦っていた。まさか本当に魔獣が襲い掛かってくるとは。


「狙っているのか?」

「そうみたいだ」


 ジーダは真剣な表情だ。ドラゴンの力、見せてやろう!


「ならば、やってやろうじゃないか!」


 ジーダは拳を握り締めると、ジーダの手は黒いワニの手になる。胴体は大きくなり、背中からはコウモリのような黒い羽が生える。足は恐竜のようになり、顔は角の生えた恐竜のようになる。ジーダは魔獣としての姿、黒いドラゴンに変身した。テッドの体は徐々に薄くなり、白いおばけのようになった。


「炎の力を!」


 魔法の得意なテッドは魔法で火柱を起こした。2匹の赤いドラゴンは少し熱がったが、すぐに立ち直った。


「グルルル・・・」


 ジーダは1匹のドラゴンに噛みついた。赤いドラゴンは少し痛がった。


「ガオー!」


 1匹の赤いドラゴンは小さな炎を吐いた。だが、2人にはあまり効かない。


「グルルル・・・」


 もう1匹のドラゴンはサムに噛みついた。サムは少し痛がった。


「癒しの力を!」


 テッドは魔法で自分を回復させた。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。2匹は大きなダメージを受け、1匹の赤いドラゴンは倒れた。


「グルルル・・・」


 残った赤いドラゴンは炎を吐いた。ジーダは少し苦しくなった。


「癒しの力を!」


 テッドは魔法でジーダを回復させた。


「とどめだ!」


 ジーダは炎を吐いた。残った赤いドラゴンは倒れた。


「ちょろいもんだ!」


 テッドは両手を払い、自信気な表情を見せた。テッドは笑顔を見せた。


「魔獣が襲い掛かってくるなんて」


 ジーダは驚いていた。まさか、本当に魔獣が襲い掛かってくるなんて。


「お父さんがよく言ってる。最近、魔獣が襲い掛かってくることが多いんだって」

「それ、僕のお父さんも言ってた」


 テッドも父から注意されていた。父もその昔話の事や、あと10年しか封印の効き目がない事も知っていた。


「でもどうしてだろう」


 ジーダは首をかしげた。だが、再び敵が襲い掛かってきた。3匹の頭に角の生えたウサギだ。


「くそっ、また敵だ」

「やってやろうじゃん!」


 ジーダとテッドは再び魔獣に変身して、立ち向かった。


「氷の力を!」


 テッドは魔法で3匹を氷漬けにした。1匹が氷漬けになった。


「ギャオー!」


 ジーダは1匹を引っかいた。引っかかれた角の生えたウサギは痛がった。


 突然、角の生えたウサギは頭の角でジーダを突いた。だが、ドラゴンの皮膚は硬く、角が折れた。


「ガオー!」


 もう1匹の角の生えたウサギはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。


「大地の力を!」


 テッドは魔法で地響きを起こした。3匹は驚き、1匹の表情が苦しくなった。


「グルルル・・・」


 ジーダは炎を吐いた。3匹は大きなダメージを受け、1匹の角の生えたウサギが倒れた。


 突然、角の生えたウサギは頭の角でテッドを突いた。だが、テッドには効かない。


「氷の力を!」


 テッドは魔法で2匹を氷漬けにした。2匹は大きなダメージを受け、1匹の角の生えたウサギが倒れた。


「とどめだ!」


 ジーダは残った角の生えたウサギに噛みついた。残った角の生えたウサギは倒れた。


「まさか、王神龍が復活とか?」

「王神龍?」


 ジーダは王神龍の事を知らなかった。ジーダはサラの昔話の事を知らなかった。


「今から190年前、世界を作り直して、人間を絶滅させようとした奴だよ」


 テッドは説明した。テッドはその昔話の事を知っていた。


「それって、本当にあったのか?」

「神話じゃないよ。本当の事だよ」


 ジーダは信じられないような表情だ。今から190年前にこんなことが起こったとは。


「本当の事なんだ」

「で、あと10年しか封印が効かないとのこと」


 テッドは下を向いた。それに気づかなければ、人間はあと10年しか生きられない。早く伝えないと。そして、英雄が現れないと。


「だったら、彼らが力を与えているんじゃないか?」

「そうかもしれないよ」


 ジーダも下を向いた。もし、それが本当の事なら、自分もあと10年しか生きられない。10年後、自分はどうなるんだろう。




 しばらく歩くと、祠が見えてきた。その祠は、何年も前からあるような外観だ。入口にはドラゴンの装飾がある。そのドラゴンはまるで女神のような服を着ている。


「祠だ!」


 ジーダは上を向いた。こんな祠がどうしてこんな山奥にあるんだろう。何年前からあるんだろう。


「ここか?」

「うん」


 だが、入ろうとすると、敵が襲い掛かってきた。3匹の赤いドラゴンと1匹の1つ目の蛇だ。


「天の怒りを!」


 テッドは魔法で強烈な雷を落とした。1つ目の蛇は体がしびれた。


「ガオー!」


 ジーダは赤いドラゴンを引っかいた。赤いドラゴンは痛がったが、すぐに立ち直った。


「グルルル・・・」


 赤いドラゴンは炎を吐いた。2人はびくともしない。


「ギャオー!」


 もう1匹の赤いドラゴンはテッドに噛みついた。それでもテッドはびくともしない。


「グルルル・・・」


 更にもう1匹の赤いドラゴンはジーダに噛みついた。だが、ジーダには全く効かない。


「氷の力を!」


 テッドは魔法で4匹を氷漬けにした。1匹の赤いドラゴンは倒れた。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。3匹は大きなダメージを受けた。1つ目の蛇は倒れ、1匹の赤いドラゴンが氷漬けになった。


「グルルル・・・」


 赤いドラゴンは炎を吐いた。テッドは少し表情が苦しくなった。


「癒しの力を!」


 テッドは魔法で2人を回復させた。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。2匹の赤いドラゴンは倒れた。


 2人は祠に入った。ジーダは天井を見渡した。こんな山奥に祠があるなんて。ジーダは驚いていた。


「ここが問題の祠か」

「うん」


 祠の天井や側面の所々には壁画が施されている。


「何だろうこの壁画は?」


 よく見ると、人間や魔族が描かれている。最初の壁画には、人間と魔族が仲良く共存している様子が描かれている。まるで今の世界のようだ。2人は楽しそうにその壁画を見ていた。


 その次の壁画には、仰向けになり浮き上がる人間、そしてそれをじっと見つめる三つ目の龍が描かれている。下の人々は祈りを捧げている。どうやら何らかの儀式のようだ。


「この儀式は、何だろう?」


 ジーダは首をかしげた。


 その先には、ベランダと思われる場所から空を見上げる女性の壁画だ。よく見ると、空には何か光が見える。女性はその光に導かれているようだ。


「これ、『赤竜伝説(せきりゅうでんせつ)』じゃないかな?」

「あの昔話の?」

「うん」


 テッドは思い出した。昔から、人間と魔族は友好関係にあった。だが、ある日、王神龍という邪神が現れ、人間を生贄に捧げた。新たな世界を作り、人間を滅ぼそうとしているらしい。天の声でそれを知ったドラゴン族のサラは、王神龍を封印するために立ち上がった。奇跡の光が降り注ぎ、その力がサラに宿った時、王神龍は封印された。


 その先の壁画には、祈りを捧げる人間と、7つの首を持つ龍と金色の巨大なドラゴンが向かい合う様子が描かれている。


「これは、奇跡の光?」

「そうかもしれない」


 そしてその先には、人間や魔族の歓声に手を振ってこたえる赤いドラゴンの壁画がある。やはりこれは、赤竜伝説を現した壁画のようだ。でも、どうしてこんな所にあるんだろう。


「奥に進もう!」


 2人は先に進んだ。その先は暗い。一体何があるんだろう。


「ここは、どこだ?」

「僕にもわからないよ。この先に進んだことないんだもん」


 テッドは辺りを見渡した。だが何も見えない。


 前を見ると、目の前に敵がいた。2匹の小さな赤いドラゴンと2匹の角の生えたウサギだ。


「水の力を!」


 テッドは魔法で水柱を落とした。4匹はびくともしない。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。1匹の赤いドラゴンと1匹の角の生えたウサギが倒れた。


「グルルル・・・」


 赤いドラゴンはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。


 突然、1匹の角の生えたウサギが頭の角でジーダを突いた。だが、ジーダはびくともしない。


「氷の力を!」


 テッドは魔法で2匹を氷漬けにした。2匹は表情が苦しくなった。


「とどめだ!」


 ジーダは氷の息を吐いた。2匹は倒れた。


「ここにも敵がいるのか」


 ジーダは驚いた。どうしてこんな所に凶暴な敵がいるんだろう。


「怖い所だね」


「僕はこんなとこ大丈夫だよ。だって僕、ゴーストだもん」


 テッドは笑顔を見せた。だがすぐに敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いドラゴンと3匹の角の生えたウサギだ。


「雪の力を!」


 テッドは魔法で吹雪を起こした。5匹は凍えたが、すぐに持ち直した。


「ガオー!」


 ジーダは氷の息を吐いた。5匹は凍え、2匹の角の生えたウサギは氷漬けになった。


「グルルル・・・」


 赤いドラゴンはジーダを引っかいた。だが、ジーダはびくともしない。


「ギャオー!」


 もう1匹の赤いドラゴンは炎を吐いた。ジーダは少し表情が苦しくなった。


 角の生えたウサギはテッドに噛みついた。だが、テッドはびくともしない。


「癒しの力を!」


 テッドは魔法でジーダを回復させた。


「グルルル・・・」


 ジーダは炎を吐いた。5匹は熱がり、1匹の赤いドラゴンと2匹の角の生えたウサギが倒れた。


「ガオー!」


 赤いドラゴンはテッドに噛みついた。テッドは少し表情が苦しくなった。


 突然、角の生えたウサギはジーダに噛みついた。だが、ジーダには全く効かない。


「癒しの力を!」


 テッドは魔法で自分を回復させた。


「とどめだ!」


 ジーダは炎を吐いた。残った2匹は倒れた。


「光が見える!」


 テッドが前を見ると、光が見える。こんな洞窟の奥深くに何があるんだろう。


「本当だ!」

「行こう!」


 2人はその先の部屋に入った。その中央ではオーブが光っていた。その光がオーブから放たれる光なんだ。2人はその時はじめてわかった。


「こ、これはどこだ?」


 その時、オーブはよりまぶしく光った。2人は驚いた。今度は何が起こるんだろう。


「ようこそいらっしゃいました」


 2人は辺りを見渡した。だが、誰もいない。どこにいるんだろう。


「ん? 誰?」


 突然、光の中から白いマントを着た赤いドラゴンが現れた。羽は途中で途切れていて、光でできている。あのドラゴンは何だろう。


「まさか、女神竜サラ様?」


 ジーダは適当に答えた。白いマントを着た赤いドラゴンと言えば、これしか思い浮かばなかった。


「はい、そうです」


 そのドラゴンは女神竜サラだ。190年前に世界を救い、死後は女神竜サラとなり、この世界を見守っている。人間を救い、死後も女神竜となって見守っており、『幾万の人間の守り神』と呼ばれている。でも、どうしてこんな所で会えるんだろう。


「おいジーダ、女神竜サラ様と話せるのか?」


 テッドには女神竜サラの姿が見えなかった。ただの光しか見えない。普通の人には見えない。だが、ジーダには見える。どうしてだろう。


「知らないよ。初めて見たんだよ」

「まさか、あの伝説は本当だったんだな」


 2人は驚いた。あの昔話は本当にあったとは。


「あの伝説?」

「190年前にサラと4人の魔獣の英雄が世界を救ったって話だよ」

「あー、あれね」


 驚いている2人を見て、女神竜サラは真剣な表情になった。


「あれは本当の話です。私はその魔獣の英雄のリーダー、サラ・ロッシでした」


 女神竜サラはその昔話は本当の事だと告白した。作り話ではない。本当の事だ。それを伝えていき、いつか来る王神龍の復活に備えなければならない。


「でもすごいな。ジーダが女神竜サラと話せるとは」


 テッドはまだ感心していた。どうしてジーダは女神竜と話せることができるんだろう。


「どうして?」


 ジーダは首をかしげた。どこがすごいのかまだ理解できなかった。


「普通は話せないんだぜ」

「そうなんだ」


 ジーダは驚いた。普通にできないことができる。自分は何か運命を背負って生まれてきたんじゃないのか?


「でも、ジーダがどうして話せたんだろうな?」

「わからない」


 ジーダは深く考えた。僕は普通の黒いドラゴンだ。何が違うんだろう。

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