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森の中には気持ちの良い風が流れ、それに伴い木々が揺れ、ハープのようにさらさらと音を立てています。それに合わせ、小気味よく歌うのは、小さな小鳥たち。近くを流れる小川は、木漏れ日を受け、清らかな光を放っています。
様々な音や色に溢れているというのに、森の中には特有の静けさが存在し、何もかもを受け入れてしまう懐の深さのようなものが感じられます。本当の
そのような空気に触発されたのか、ニンゲン公爵はあれこれと思案しているようでした。
自分は一動物でしかないのだという謙虚な気持ち。自分は人間という特別な存在なのだという
クマ子爵には大変申し訳なく思うが、医者になど電話しない。するのは
クマ鍋に興味がないわけではないが、食事は一瞬の快楽でしかない。
あれほどまでに教養があり、あんなにも若い内から人生を
若者が見るはずだったものを、その
クマ子爵と友情を
うんぬんと。
彼らは、山の中腹の、山小屋の多く建つあたりに差し掛かりました。
ニンゲン公爵は、少し息を切らしながら「ここで一息つきましょうか」と声を漏らしました。それに、クマ子爵は平然と「ええ。そうしましょう」と応じます。ニンゲン公爵は
「ああ、そうでした。サンドウィッチと紅茶を持ってきているのですが、いかがですか?」とニンゲン公爵は言った。
「ぜひ頂きたいです。なにからなにまでありがとうございます」
彼らは、その一帯の片隅に建つ、
「ふー。とても美味しいです。ふー。それにしても、このサンドウィッチという
「妻に電話を掛けてきます、先に料理の準備を始めていてもらいましょう」
と言い残し東屋を離れた。そして、そのまま歩を進め、森の暗がりの中へと入っていった。少ししてニンゲン公爵は立ち止まり、クマ子爵の付いて来ていないことを注意深く確認すると、懐から携帯端末を取り出し、地元の
その道中で、ニンゲン公爵はあるものに目を引かれた。それは、地面に転がる動物の骨でありました。
はて、来た時に、こんなものあっただろうかと思いつつ、ニンゲン公爵は屈み込み、骨を手に取りまじまじと見詰めました。
その骨は細かく砕けていて、ニンゲン公爵には、どんな種類の動物のものなのか判別が付かないようでありました。しかし、ニンゲン公爵にとっては些細なことでありました。
彼は、骨というもの全般を、忌諱しておりました。常々彼はこう思っておりました。こんなに無機質で作り物めいた
彼がこのような考えに行き着いたきっかけというのは、彼の幼少期にまで
彼の父親であるニンゲン
しかしながら、自らの趣味のために我が子が怪我をしたなどということになり、またそれが家人、それ以上に世間様に知られては、ニンゲン大公の
弾丸を手にしたニンゲン公爵少年はさっそくとばかりに、父の書斎から浅ましくも拳銃を盗み出し、そのまま森に出掛けてゆき、木立を的に見立て、馬鹿みたくになりながら拳銃で遊び始めたのであります。飽きることなく、馬鹿のひとつ覚えよろしくいつまでも。そしてその末、馬鹿の上塗りと相成りました。
その拳銃といいますのが元よりアンティークとして製造されたものでございまして、射撃を主たる目的に作られてはおりませんで、また、年季が入り古びてもおりまして、動作不良を起こしてしまったのです。
ニンゲン公爵少年は、猿のように顔を赤らめながら、必死にそれを解消するべく
ニンゲン公爵少年はしばらくの間、驚きのためなのか、痛みを感じることはありませんでした。それならばすぐに家人の許に行けばいいものを、ニンゲン公爵少年はその場に立ち尽くしているではありませんか。自身の手から
何をしているかと思えば、ニンゲン公爵少年は自らの骨を眺めておったのです。
この
このようなことがありましてから、ニンゲン公爵は、自分の骨ひいては骨全般に嫌悪を抱くようになったのであります。この恥知らずは小生意気にもそれを自身のトラウマであるなどと考えており、また、その観念を
この馬鹿者は、まるで
脳なしはふと我に帰りました。そして、いつの間にか魚のように開かれていた口許を引き締め、手にした骨をぞんざいに投げ捨てると、山小屋の方へ向かって歩き始めました。
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