第十四話 譲れない想い
貴斗さんはその場に居る人達を一度深い悲しみに陥れたのに、それ以上の喜びをその場に居る人達に与えた。
とても、にくい演出です。
貴斗さんの目覚めを何時か何時かと待ちながら、先に目を覚ました春香お姉ちゃんの所へお見舞に行っていた。
その帰り調川先生から朗報を受けるんですよねぇ。
~ 2004年8月28日、土曜日 ~
「いつもご苦労様です」
「迷惑掛けられっぱなしですけど私には大事なお姉ちゃんですから」
「フッ、そうですか・・・、それではもう一人大事な方へのお見舞いへも行って上げてください」
「そっ、それって・・・・・・」
「ハァイィ、貴女がお兄さん、とお慕いしている藤原貴斗君がお目覚めになりました」
「嘘じゃないですよね?本当なんですよね」
「病室は621号室に移っています。間違えない様に・・・」
先生のその言葉に満面の笑みを返しそちらに向かおうとした・・・。
だけど、そんな私を調川先生は引きとめ、苦虫を噛み砕く様な表情で言葉を掛けていたんです。
「そのような表情をされると言い難いのですが・・・、彼は・・・」
その後の調川先生の言葉が信じられなくて、向きになってしまい先生の白衣を掴んで揺さぶりながら否定して貰いたくて口を動かした。
「調川先生、嘘だって言ってください・・・。そんなの酷すぎますよ・・・、そんなの・・・」
心の中に悲しみの黒い霧が覆う。
「それを知らないでお会いするよりはと思いまして言葉にしましたが・・・、そんな顔されたら・・・、確かに今は藤原君、貴女の事を思い出せないでしょうがそれも一時的な事です・・・、それまでは辛いでしょうけど元気に顔で彼に会って上げてください」
先生のその言葉に表面上の元気だけ取り戻して挨拶をしてから貴斗さんが居る病室へと向かった。
「『コン、コンッ』アぁッ、あのぉ~~~、涼崎翠って言いますけど・・・、お見舞いにきました」
「ハイッ、どうぞお入りください」
直ぐに返事が返ってきた・・・、そして、その声は紛れもなく貴斗さんの物だった。
恐る恐る病室のドアを開けて中に入ると、そこには貴斗さん、包帯が沢山巻かれ痛々しい姿で独り雑誌を読んでいた。
「コンニチは・・・俺の事を知っている方ですね・・・」
その言葉を聞いて、調川先生の聞かせてくれた言葉が嘘じゃない事が分かってしまう。
でも、貴斗さんに悲しい顔なんって見せられない。
だから、元気よくそれに答えるの。
「はっハァ~~~いっ、涼崎翠・・・、貴斗さんの妹でぇ~~~っす」
「フフッ、俺には君のような可愛いらしい妹はいないよ・・・、???」
〈ワッ、貴斗さんに素で可愛いなんって言われちゃいました・・・、感激〉
「・・・涼崎???・・・涼崎春香?若しかした春香さんと関係がある方ですか?」
貴斗さんの口にしたことに私は吃驚して言葉を返す。
「えぇ~~~!?そうです私は春香お姉ちゃんの妹ですけど・・・どうして?」
「それはですね・・・、今朝・・・」
私の言った後に貴斗さんがなぜ春香お姉ちゃんを知っているのか教えてくれたんです。
今は午後だけど、私が来ていなかった午前中に既に面会を果たしていたようだったんです。
〈何で、お姉ちゃん私に教えてくれなかったんだろう?後でとっちめてあげちゃいます〉
しばらく、貴斗さんと会話をする。
彼の話し方が以前と違うのは気のせいなのかな?
そんな事を思いながらそろそろ帰ることにして、それを告げる言葉を彼に向ける。
「貴斗さん、またお見舞いに来てもいいですか?」
「ハイ、翠ちゃんのことを思い出せないこんな俺でよければ話し相手になってください」
それを聞いて別れの挨拶をしてから、とっちめに春香お姉ちゃんの病室へと戻ったんだけど、寝ていたから起こさないで額と鼻の下に悪戯書きをして帰る事にしました。
そうでした・・・、春香お姉ちゃんは今回、正常な状態で目覚めこれからは以前みたいに気遣ってお見舞いしなくて済むんですよね。
それと貴斗さんは過去の記憶喪失から開放されたけど記憶喪失だった時の思い出を失くしてしまった状態にいる。
そんな貴斗さんの所へお見舞いに来た他の皆さんはどう思っているのか分からないけど彼の命が救われた事だけで満足だった。
だって思いでなんってまたこれから作ればいいんだもん。
夏休みも終わり二学期が始まってからも私は毎日、貴斗さんの所へお見舞いに行っていました。
春香お姉ちゃんは柏木さんと昔の関係を戻しそうだからもう心配する事もない。
ほったらかしにしても問題なさそうだから、お姉ちゃんの所にはついでに立ち寄るくらいだった。
それと貴斗さんに会うたび、彼は徐々に記憶を取り戻しているご様子だったんですよ。
~ 2004年9月21日、火曜日 ~
学校が終わるとお友達の事なんか彼方退け、其方退けで貴斗さんの所へ向かっていた。
「貴斗おにいちゃぁ~~~ん、今日もお見舞いにきちゃいました」
「今日も来てくれたんだな・・・、有難う、って毎日、俺の所へ来てくれて勉強の方は大丈夫なのか?」
「貴斗さんに心配されることないです。部活で健闘していましたから勉強の成績関係なしに聖陵大学に進めます」
「なんだ、翠ちゃんはそのまま俺や詩織がいる大学に来るのか?」
「ハイ、貴斗お兄ちゃんと同じ学校に行きたいから、一年でも同じ学校で過ごしたいから、そうします」
私の答えてあげた言葉に貴斗さんはなんだか照れているみたいだった。
今の貴斗さんはそれなりに多くのことを思い出してくれていた。
春香お姉ちゃんは完全に目覚め、貴斗さんの支えは有効期限切れだけど、今でも彼は私にお兄ちゃんって呼ばせてくれるの。
「お兄ちゃん・・・・・・その、また何か思い出しましたか?」
「そうだなぁ・・・、思い出した事と言えば翠ちゃんが俺に散々迷惑を掛けていたって事か?」
「ブゥ、酷いよぉ、私、貴斗お兄ちゃんに迷惑なんって掛けていたつもりないのにぃーーーっ」
「冗談だ、そんな顔するなよ・・・、翠ちゃんに甘えられて悪い気はしない」
「ほうとうですかぁ?だったらもっと甘えても良いですかぁ?」
「程にもよるぞ」
「ハッハァ~~~イッ・・・。お兄ちゃんそれよりも・・・・・・、詩織さんと上手く行ってるんですかぁ~~~っ?」
夏の大会が終わってから中々顔を合わせることが出来ていない詩織さんのことが気になってそう訊ねたんです。
「なんだ、翠ちゃんまでそんなこと、言うのか?」
「エェッ?エッ?そんな事って、どんな事ですか???」
彼のその言葉の意味がわからなくてそう聞き返していました。
「以前の俺は詩織と恋人同士だったようだが・・・、アイツには悪いが今の俺にそれに答えてやる事はない」
「ヴェッ!@#?お兄ちゃん本気?」
それは信じられないくらい驚愕的なことだった。
記憶喪失の貴斗さんと詩織さんはあれだけ惹かれあっていたのにどうして?
「本気もなにもない・・・、駄目なものは、駄目」
「お兄ちゃん・・・、なにか理由があるんですか?」
「あっても教えない」
その言葉を聞いて更に聞き返す事はしなかった。
貴斗さんと詩織さんの関係が恋人でないのなら・・・、それが分かると、仕舞い込んでいた貴斗さんを慕う気持ちが増大して行くのを感じてしまっていた。
心の制御ができそうになくて、貴斗さんに告白してしまう勢いだった。
「アッ、あの・・・、貴斗お兄ちゃん。若しも、私が・・・、その・・・」
そう言い掛けた時に見計らっていたように誰かが扉をノックしてきた。私は驚いてそっちの方を振り向くと、
『トンッ、トンッ、トンッ!』
「詩織です、貴斗お見舞いに来て差し上げましたよ」
そう言って先輩は我が物顔で貴斗さんの言葉を待たないで入室してきた。
「あらっ、翠ちゃんも来ていたのですね?」
「エッ、アッはい、当然です・・・。もうたくさん貴斗さんとお話しましたから私はもう帰ります、貴斗さんそれじゃネェ~~~っ!病室の中で柏木さんと春香お姉ちゃんみたいにいちゃつかないでくださいねぇ、ニュフフフフゥッ」
彼に出掛かった言葉も最後まで言えないまま、そう無理して、悪戯な笑みを作り、挨拶して詩織さんに顔を背け出てきてしまった。
でも、最後まで言葉にしても・・・、きっと断られ・・・・・・・。
そして、どうして詩織さんはあんな平然とした顔なんって出来るんだろう。
そう疑問を感じながらも病院を後にした。
~ 2004年9月30日、木曜日 ~
今日も、学校帰りに貴斗さんの所へ行こうとしていたら弥生に捕まってしまった。
「最近のみぃちゃん、全然っ、弥生や将臣お兄ちゃんと一緒に帰ってくれなくて淋しいよぉ~っ」
「はなせぇ~、弥生ちゃん、今はアンタになんか構っている暇なんてないの」
「酷いよぉ~~~っ、理由を教えてくれないとこの手、離さないんだからっ!」
弥生がそんな事を言うからしょうがないから適当に嘘をつくことにした。
* * *
「ッてことよ、分かった?それでは弥生ちゃん、おさらばぁ~~~っ!」
『がシッ!!』
理由を説明したのに弥生の奴は再び私を掴んできた。
「みぃちゃん、私に嘘、ついてるでしょぉ~~~っ?」
「何を根拠にそんなこと、言うのよっ!」
彼女のその言葉に驚いたけど、冷静な口調でそう聞き返した。
「弥生はみぃちゃんのお友達、もう六年もやっているの。みぃちゃんの嘘や言い訳くらい分かっちゃうんだからぁ」
「ハイ、はい、そうですかぁ~~~。だったら余計に教えられませぇ~~~ん」
そんな事を口にする弥生に小莫迦にするように言い返してあげちゃいました。
「そんな風に言うだったら、弥生もこの手、離さないもんっ」
言葉にした事と一緒に弥生の握る手が強くなっていたんですよ、まったく。
「痛たたたたたったっ、痛いってば。弥生ちゃん、アンタもしぶといわね・・・。ちゃんと言うから握るの止めぇーーーっ!!」
本当に痛かったから握られていた手首を振り振りしながら、弥生に本当の事を教えて上げたんです。
「たっ、貴斗さんが事故で大怪我をして入院?しかも、弥生や将臣おにいちゃんの事を・・・、忘れてしまっている、っていうの?ひっどぉオォーーーいっ、みぃちゃん、そんなとっても大事なこと、今まで、弥生に隠してたのっ!」
「ッて分け、だから今から私はそこへ行くの今度こそ、じゃなネェ~~~」
「あぁあ~~~っ、みぃ~ちゃぁ~~~ん、待ってぇ弥生も一緒に行くぅ~~~」
「何言ってんの?アンタみたいなお邪魔虫君はきちゃ駄目に決まってますぅ。それに貴斗さんは弥生ちゃんのことなんって、ぜぇ~んぜんっ覚えてないよぉ~~~だぁッ」
「それでも行くのぉ~~~」
結局、そのお邪魔者、弥生ともう一人。二人を引き連れて貴斗さんの所へ行く事になってしまったんです。二人目は彼女の半身の将臣。
* * *
「貴斗センパァ~~~イッ、余計なの付いてきちゃったけど、きょぉ~も来ちゃいましたぁ」
「今日も悪いな・・・、入ってくれ」
貴斗さんの言葉を待ってからツインズと一緒に病室へと入った。そして、中に入ると彼の親しき友達五人がいた。
「貴斗さん、僕のこと、覚えているか分かんないけどお見舞いにきました・・・。藤宮さんこんばんは・・・、あっ、それと皆さんもこんばんは」
「貴斗さんのことみぃちゃんが全然教えてくれなかったから今までお見舞いに来れなくてごめんなさい・・・、それと詩織先輩と皆さん、こんばんはです」
「来てくれて有難う、二人の事ちゃんと思い出している。翠ちゃんの一番友達の双子兄妹だろ」
「やめてよぉ、貴斗さん!弥生ちゃんはともかく将臣が一番の友達って言うの・・・、それとどうして皆さん、そろってここにいるんですか?」
私の問いに答えてきたのは今までずっと嫌ってきた香澄さん、その人だった。
でも、そのわだかまりもなくなりつつあった。
それは夏休み、柏木さんが春香おねえちゃんのお見舞いに来たときに聞かされた言葉が。
それに結局のところ私のポケポケお姉ちゃんが目を覚ましてくれなかった時、精神疲弊してゆく彼を救ったのは紛れもなく香澄さんだったから・・・、逆恨みするなんって可笑しいんだよね?
そんな風に最近は思っていたんですよ。それに・・・・・・。
「あんたはどうせ知らないだろうと思うけど今日は貴斗の誕生日なの。しおりンがみんなでお祝いして上げたいって言うからこうして集まったのよ」
それから殆どの記憶を取り戻している貴斗さんを囲んで既に始まっていた彼の誕生会の様なモノにお邪魔さん結城兄妹と一緒にお交ぜしてもらって、談笑しながら楽しい時間が過ごし、そのまま終わるはずだった。
貴斗さんは怪我人だったから誰かが持ってきていたお酒やビールに手を付ける事はなかった。
しらふの状態だったんですよ。
でも、彼以外の人はみんなお酒を口にしていた。
未成年の私も弥生も将臣も。
酔いの勢いに任せてなのか?
それとも本意なのか詩織さんは貴斗さんに何かを口にする。
「タカトぉ、貴方にもう一度確認したい事があります・・・。私を・・・、その貰ってください・・・・・・・・・、アハハハッ、恥ずかしい」
その言葉に酔いが醒めてしまった。
「ハハッ、いくら私達が酔っているからってよくもまぁそんなこと、言えるわね、しおりンは」
「藤宮ってホント貴斗の前だと大胆だな」
「ハァ~~~、詩織ちゃんのその大胆さ私にも少し分けて欲しいよぉ」
「ホラッ、貴斗なんか藤宮さんに答えてやれよ」
「ハァ~~~、僕の心は砕け散る」
「詩織先輩、凄いこと言ってます・・・、うらまやしいぃ~~~」
香澄さんの言葉に誘発されてみんな色々なことを好き勝手に言っていたんです。
だけど、貴斗さんはとても冷静な口調で詩織さんに言葉を返す。
「断る」
「あれっ?アハハハッ・・・、わたくしの聞き違いですよね、冗談ですよね?・・・ネェ貴斗、嘘ですよね??・・・。だって記憶、お戻りしたのでしょう?」
「二事はない」
「ドッ、どうしてそんなことを言うのですか!?」
完全に酔いが醒め、詩織さんの言動に苛立ちを感じてしまっていた。
「詩織先輩、いい加減にしてくださいっ!貴斗さんがそう言っているんですから諦めたらどうなんですかっ!それに先輩自身、一度は貴斗さんのこと、見捨てているでしょっ!」
「翠、アンタ何を言ってんのか分かってんの?貴斗としおりンの関係に翠が口を挟むことじゃないでしょ?」
「一度は春香お姉ちゃんから柏木さんを奪った人が口を挟まないで下さい・・・。私だって・・・・・・、私だって、ずっと・・・、ずっと貴斗さんのこと好きでどう仕様もなく好きで・・・、それでも我慢してきたのに・・・・・・、我慢してきたのに・・・」
押さえられなくなってしまった感情が、貴斗さんに対する強い想いが、私の口を動かし、みんなにそれを打ち明けてしまった。
そこにいた人達全員、貴斗さん以外、みんな驚きの表情を見せてくれました。
「アン時・・・、あの時は翠ちゃんには分からなかっただろうけど大人の事情ってもんがあるんだ。隼瀬に謝れよな」
「大人の事情ってなんですか?春香お姉ちゃんが眠っている間にお姉ちゃんから柏木さんを奪うことですか?」
「みどりっ!お姉ちゃん怒るわよ!馬鹿なこと言ってないで香澄ちゃんにも詩織ちゃんにも八神君にも謝りなさいっ!!」
「春香お姉ちゃんがいけないんだからね・・・。お姉ちゃんが・・・、お姉ちゃんがずっと、何も知らないでずっと呑気に眠っていたからいけないんだから・・・。そん何じゃなかったら尊敬する香澄先輩を嫌いになる事もなかったのに・・・、こんな辛い思いにならなかったのに・・・、大好きな詩織先輩に隠す様に貴斗さんを好きにならなかったのに」
『パシッ!!!』
「お姉ちゃんだって好きでそうしてたわけじゃないの・・・・・・」
私の頬に強く平手打ちをしてから春香お姉ちゃんそういってきた。
「春香お姉ちゃんも、詩織先輩も、香澄先輩も、八神さんも柏木さんも、嫌いです。みんな、みんな嫌いです、大ッ嫌いです。莫迦ぁーーーーーーッ!!」
「みぃちゃん・・・」
「オイッ、翠、待てよっ。どこ行くんだっ!」
感情の流れるまま心にたまっていた鬱積を吐き出して貴斗さんの病室から出ていた。
とんだ醜態を大好きな人に晒してしまったんです。
* * *
病室を出てから、何処をどう彷徨っていたのか誰もいない暗い廊下のベンチに膝を抱え座っていた。
あんこと言って出てきても誰も追いかけてくれる人はいな・・・???
「探したんだぞ」
「どうして私のいる場所が?・・・」
「ナインス・センスだ・・・、ニュータ○プとも言うかな」
「クスッ、そんな言葉、聞いたことありません・・・。でも、どうして私の所なんか来たんですか・・・、詩織先輩・・・・・・、あの人の傍にいれば良いのに・・・・・・・・・。私なんか相手してくれなくてもいいのに」
いじけていた私はその人の言葉を聞いて可笑しくなって軽く笑っちゃいました。
その人に皮肉れた言葉のオプションも追加していたんです。
「せっかく無理して探してやったのに冷たい言葉だ」
「・・・貴斗お兄ちゃんにそんな言葉、言われちゃったら本当にお兄ちゃんの傍から離れられなくなっちゃう」
「今の俺になんて言って良いのか言葉が見つからない・・・。だが、翠ちゃんに甘えられるには悪くはない」
「貴斗さん・・・、それって私に対しての告白ですか?」
「違う」
「こういう時は嘘でもうなずいて欲しいのにぃ・・・。でも、貴斗さん、心配掛けさせちゃってゴメンなさい・・・・・・。それと有り難うです」
私がそう口にすると貴斗さんはニッコリと微笑みながら、怪我していない方の手で頭を優しく撫でてくれた。とっても心地よいです・・・。
大好きな人の誕生日以来、みんなとの関係がちょっとギクシャクしてしまった。
貴斗さんのお見舞いに行きたかったけどその人達とそこでバッタリと顔をあせるのが怖くて約一ヶ月近くも会わない日々が続いていた。
それは貴斗さんの誕生日の三日後のことだったんです。
~ 2004年10月3日、日曜日 ~
将臣のヤツに学校の旧校舎裏、大きな桜の木のある高台に呼び出されていた。
しかも、日曜日で学校はお休みだっていうのに私は律儀に制服で家を出てきている。
お空を見上げれば、あいにくの曇り空。非常に寒い日でした。
「将臣、一体なんの用事があってこんなとこに呼び出したのよっ!しかもこんな寒い日にぃっ!」
寒さで振るえながら私は両腕を抱え込んでいた。
「ゴメン、翠が寒がりだって僕、知っていたのに・・・」
「そんなこと良いからサクット、済ませちゃってよねぇ。あぁ~~~、さむ、さむ、さむぅ~~~、ブルブルゥ」
「分かった言うよ・・・。翠、・・・、翠が好きなんだ。僕と・・・・・・、僕と付き合ってくれ」
「はあぁんっ?将臣何を言ってんの?笑えない冗談、よしてよ」
「冗談ジャなんかじゃないよ!僕は本当に、本気で翠のことが好きなんだ」
「将臣、私が誰を好きかって知っているのにどうしてそんなこと言うのよっ」
「知ってる・・・。その人が僕と違ってどれだけ凄いかって知ってる。でも、貴斗さんには藤宮さんがいるじゃないか」
「将臣、アンタ。おとといの事、もう忘れちゃったわけ?貴斗さん、詩織先輩になんって言ったのか覚えてないの?」
「しってるよっ!でも、だからって貴斗さんが翠の気持ちに答えるとは限らないだろっ!それにあれは貴斗さんが記憶を完全に取り戻していないからじゃないかっ!」
「そんなの判ってる。それでも、それでも貴斗さんのことが好きなの・・・。大好きなの。誰に何って言われてもこの想いは変えられない、譲れないの。諦められないのッ!」
「僕はずっと、ずっと翠を見てきたのに中学校の頃から六年間ずっとお前だけを僕は追い続けてきたのに・・・、どうして・・・・・・、どうして、僕より後に現れた貴斗さんなんだよっ・・・、どうしてなんだぁッ」
「しょうがないじゃない。好きになっちゃったんだから仕様がないじゃない・・・、それに人を好きになるのに何時か、って時間は関係ないよっ!出逢ったその瞬間からかもしれない。それとも長い時間を共有してからかもしれないし。そんなの人それぞれだよ」
「翠、現実を見ろよ。どんなに頑張っても手の届かない事してどうすんだよ」
「将臣にそんなこと言われたくない・・・・。アンタなんかに私の想いなんって理解できるはずないの、将臣のばかぁっ!!」
その言葉を言い切ると将臣をそこに残して逃げる様に丘を駆け下りていた。
『ズシュッ、ガスッ!!』
「クッ、何でだよ。なんで貴斗さんなんだよ・・・。なんで僕じゃなくて、よりによって貴斗さんなんだぁあぁぁあっぁっぁぁあぁぁぁっ!!」 将臣は大木にボクシングのワン・ツーを繰り出すとそう叫んでいた。その大きな叫びは、丘を駆け下りる私にまで届いていた。でも、私には関係ない。
突然、将臣にアンなこと言われちゃって私は頭が混乱しちゃっていたんです。
それから暫くして、冷静になってからあいつが言った言葉を考えていた。
将臣が言った様に私がどんなに想い続けても、その想いは貴斗さんには届かない。
そんなこと言われなくたってわかっているの頭の中では・・・、
でも、私の気持ちは・・・、変えられないの。譲れないよ。
だって、だって、どうしようもないくらいに、あの人のことが大好きだから・・・・・・。
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