第十一話 見舞いに来る人々
春香お姉ちゃんが三年目にしてやっと目を覚ましてくれてすっごく嬉しいはずなのに・・・、何かいい知れない不安に囚われていた。
それは春香お姉ちゃんの容態の所為だと思うんです。
お姉ちゃんの大切なお友達が来る度に色々な感情に私は駆り立てられてしまう。
~ 2004年8月6日、金曜日 ~
春香お姉ちゃんが目覚めてから二日目。
病室に向かう前に調川先生がいると思う医局へと向かっていたんです。
「おはようございます、調川先生はいらっしゃいますか?」
「おはようございます・・・、ああ、貴女は涼崎春香さんの妹さんですね・・・。確か翠さんでしたね」
挨拶をしながら医局に入って行くと調川先生は直ぐに対応してそう言ってきた。
「私の名前ぇ、覚えててくれたんですね、有難うございます」
「ほぼ毎日、お姉さんのお見舞いに来ている貴女を覚えないはずがないでしょう・・・。ところで私に用事があるみたいですがどういったご用件でしょうか?」
「春香お姉ちゃんの容態をもっと詳しく聞きたくてここへ来たんですけど・・・」
「そうですか・・・、それでは少し長くなりますのでこちらにお掛け下さい」
先生はそう言って椅子に座る事を勧めてくれた。
調川先生の正面のそれに座ると先生は春香お姉ちゃんの事に付いて話を始めました。
その内容は深刻なものだった。
今の状態ではまたいつ眠ってしまうのか分からない精神不安定の状態であること。
だからそれが安定するまで現実の時間と春香お姉ちゃんの持つ時間の隙間を悟られない様にしなければいけない。
春香お姉ちゃんにお見舞いに来るなら三年前の振りをしなくちゃいけないと言う事だったんです。
「と、言うわけです・・・、おわかり出来ましたか?」
「どうやって三年前の振りなんてすればいいんですか?私はあの頃と違って見た目が全然変わってしまったんですよ」
「それは問題ありません。現実との差を示すものを見せなければ春香さんは貴女の成長した姿を捉えないでしょう。それと時間の差を示すものや言葉遣いには注意してください・・・、特に写真とかは絶対禁止です」
「ハイ、分かりました・・・、聞かせてくださって有難うございます」
「どう致しまして・・・、私はこれから患者の診察回りを致しますので失礼させてもらいます」
「頑張ってくださいネェ!」
私の言葉に調川先生は軽く笑顔で応えてから医局を去って行った。
用事がなくなった私もそこから出て春香お姉ちゃんの所へと向かう。
「オッハァ~~~、春香おネェちゃん、お見舞いに来てあげちゃいましたぁ」
最近、余り使わなくなった喋り方で挨拶をして病室へと入っていた。
「おはよう翠。こんなに朝早くお姉ちゃんの所へ来てくれたんだね」
嬉しそうに優しく微笑みながら私のお姉ちゃんはそう言ってきました。
しばらく春香お姉ちゃんと会話をするんだけど・・・、殆ど私の言う事に耳を貸してくれないで病室の空間に目を泳がしていた。
度々私の目の前で一瞬だけ気絶をしていたんです。
調川先生に聞かされて知っていたけどそれを見てしまうとお姉ちゃんが可哀相で心がとても痛くなる。
私の時計の針がもう直ぐで9時になろうとした頃、春香お姉ちゃんの元彼が現れたんです。
「今日も来てくださったんですねぇ、柏木さん」
〈一体いまさら何しに来たんですかっ!〉
その心の中の思いと一緒に柏木さんを睨んでしまった。
私のそれに目を逸らしながらその人は春香お姉ちゃんに言葉をかける。
「・・・・春香、今日も来たぞ」
「有難うね、宏之君」
「礼なんていい、お前が嫌がっても毎日来てやる」
〈よくもまぁ、春香お姉ちゃんを二年間もほったらかしにしていたくせに、ずけずけとよくそんなことが言えますね〉
「ウン、絶対来てねぇ」
〈春香お姉ちゃんも、お姉ちゃんだよ。現実がどれだけ変ってしまったか知らないで嬉しそうに呑気に答えちゃってさぁ・・・〉
「アハッ、オアツイでうすねぇ、妬けてきちゃうので私は退散しまぁ~~~ス」
その場の雰囲気が嫌になってそう言って、病室を退散した。
何もやる事がなかったから病院の売店で週刊誌を立ち読みする事にしたんです。
しばらく、それを読んでから時間を確認・・・、三十分は過ぎている。
もう柏木さんも帰った頃だと思った私は再び、病室へと戻って行った。春香お姉ちゃんの病室の近くで調川先生とご対面。
「ァッ、調川先生、お姉ちゃんの診察ですか?」
「あぁハイ、これからそうする処です」
先生はそう言って病室の扉に手を掛けた。
「涼崎さん診察に参りましたよ」
「おねぇ~ちゃぁ~~ん、たっだいまぁ~~~」
「調川せんせいぇ」
「柏木君、今から彼女の診察をいたしますので早々に退室を願いたいのですが?」
「・・・・・・・・・」
〈なんだ、まだいたんだ。とっくに帰っているかと思ったのに〉
「それとも私と一緒に彼女の体を観察しますか?フフッ」
「・・・・ははっ、わかりました」
「愁センセェ、お姉ちゃんに変な事しないでねぇ」
「フッ、心外ですねぇ~~~、私はコレでも医者なのですよ。私は私の職務を全うするだけです」
「アハッ。失礼、しましたですぅ」
最後に調川先生におふざけそして私も部活に行く事にした。
~ 2004年8月7日、火曜日 ~
今日も朝から春香お姉ちゃんのところへ来ていた。
それと殆ど同じ頃に来なくてもいい人が到着する。
春香お姉ちゃんは私を無視してその人だけとお話をしていた。
私がいるのにも気にしないでとんでもない事を言い出したの。
「あのねぇ、宏之君。キスして」
「ナッ、何言ってんだ!誰かが来たらヤバイだろ。それに翠ちゃんだっているんだぞ」
「おねぇちゃぁんなに言ってんのぉ、私もいるんだからねぇ。そんな事私がいない時にしてよぉ」
余りにも春香お姉ちゃんが馬鹿らしいことを言うから呆れを通り越して怒った口調でそう口にしてしまった。
場の雰囲気が重くなってしまう。
だけど、それは私の尊敬する先輩によって直ぐに解消されました。
詩織さんは春香お姉ちゃんに挨拶をする。
柏木さんの存在を知ると驚いていた・・・、様に見えた。
「せんぱぁい?どうしたんですか」
「お気になさらずに、何でもありません」
そんなはずない詩織さんは何かを考えているとき目を瞑る癖があるのを私は知っていた。
だから、そんな筈ないんです。
でも、追求する気になれなかったから聞かない事にしました。
それから、みんなとの会話中、春香お姉ちゃんは今日も私の目の前で一瞬気絶をしてくれました。
そうなったけど、今は昨日の様に話の前後が食い違う事がなかった。
私以外の三人は聖陵高校のお話をするので私には混ざることは出来なかったんです。
だから、笑って相槌を返す事しか出来なかったの。
話に区切りが付いたところで詩織さんは用事があるからって帰る事を私達に告げる。
その時の春香お姉ちゃんとの会話で貴斗さんの事を言っていた。
その会話でお姉ちゃんは貴斗さんの苗字じゃなく名を口にしていたのを私は確かに聞き逃さなかった。
でも、どうしてお姉ちゃんがそう言ったのか私にはわからない。
詩織さんが病室に出て行くと同時に私も先輩が持って来てくれた花を活けるために花瓶とそれを持ってここを出た・・・。
それに詩織さんには言っておきたい事があったから。
先輩の動きが早かったのか詩織さんを捉えたのは病院の玄関前だった。
「センパァイ、これから貴斗さんのところへ行くんですか?」
「えぇ、そうですよ」
私の言葉に振り向いてから先輩はそう答えてくれました。
「貴斗さんのところに行く前にちょっとお話したい事があるんですが」
先輩の顔を覗き一間おいてから確認の言葉を口にする。
「いいですかぁ?」
「急いでいるわけではないので、大丈夫ですよ」
「春香お姉ちゃんの事ですけど・・・、詩織先輩・・・・・・、何か違和感に思う事ありませんでしたか?」
「翠ちゃん・・・、何か知っているのですね。よかったら教えて頂けないでしょうか?」
「ハイ・・・、そのために先輩を呼びとめたんです」
その言葉の後から詩織さんに春香お姉ちゃんの容態を正確に伝えた。
「ソッ、そんな・・・、そんなの残酷です・・・。春香ちゃんがお可哀相で胸が痛くなってしまいます」
「心配してくれるんですね、有難うございます・・・」
「翠ちゃん、そんな暗い顔しないで・・・、きっとよくなりますから」
「・・・、ハイ」
「それでは午後の部活でお会いいたしましょう。バイバイ、翠ちゃん」
詩織さんは笑って、手を振りながら私にお別れの挨拶をしてきました。だから、私も笑顔でそれに答えたんです。
* * *
花瓶に花を活け病室に戻るとまた新たなるお客様が来ていた。
「お姉ちゃん、お花交換してきたよぉ~~~、あっ!」
「どうしたの翠?」
「お姉ちゃん、柏木さんの隣にいる人は誰ですかぁ?」
何とか心を落ち着けて春香お姉ちゃんの言葉に答えることができた。
「アッ、翠は八神くんに会うの初めてよネェ」
「八神さんって言うんですネェ。宜しく御願いしますぅ。・・・、あっ、いっけなぁ~~~い。そろそろ検診の時間、お姉ちゃん楽しいところ、可哀想だけど、お二人にはご退場ぉっ!」
お姉ちゃんの言葉を聞くと後は私がまくし立てる様に口を挟み、この場にいる男二人を退場させていた。
「涼崎さん、また時間がある時来るから」
「春香、明日も来るよ」
〈貴方には出来るなら来て欲しくないです・・・〉
病室の外に足を運ぶと不思議そうにしていた八神さんに私が取った行動の理由と春香お姉ちゃんの容態を教えて上げました。
~ 2004年8月8日、日曜日 ~
今日は一番来て欲しくない人が春香お姉ちゃんのお見舞いに来てくれて私の気分は凄く荒れてしまう。
日曜日だからって思って遅く春香お姉ちゃんのお見舞いに行った事が失敗だった。
「どうしてアナタがいるんですか?」
「あたり前の事を聞かないで翠。私は春香の親友よ!見舞いに来て当然でしょう?」
「アナタ、ホントに本当にそう思ってるんですか?」
その人を睨みながら強い口調でそう言い放っていた。
〈よくもまぁ、真顔でお姉ちゃんを裏切った人がそんなことを言えるもんですね〉
口から出した言葉と同時にそうも心の中で思っていた。
「翠ちゃん・・・・・・」
「いい加減にしなさい、翠。あなた何、言っているか分かっているの?」
「いいのよ、春香。あんたは気にしなくて」
詩織さんは宥める様に、春香お姉ちゃんは叱る様にそれぞれ言葉を私にかけてきたんです。
もう一人の別の人は悟ったような口調でそう言っていた。
若し、この場に詩織さんがいなかったら私はあの時の様にまた暴走してしまったかもしれないんですよね。
せっかくお見舞いに来たのにこの場に居るのが嫌になってしまったから直ぐに帰る事にした。
なんであの人はあんなに冷静で春香お姉ちゃんと接する事が出来るのか理解不可能。
私が同じ立場だったのなら、普通ではいられない・・・、と思う。
冷静になんか出来ない。
午後から始まる部活でそんな気分を振り払う為に我武者羅に泳いでいた。
~ 2004年8月9日、月曜日 ~
春香お姉ちゃんのお見舞いから帰ろうとしたときとんでもない事を頼まれてしまった。
それは全然ここへ足を運んでくれない貴斗さんを詩織さんを通して連れてきて欲しいという事だった。
こんな状態の春香お姉ちゃんに貴斗さんを会わすの嫌だけど、私がお姉ちゃんのそれを断れるはずなかった。
どうして、会わせたくないのかって?それは貴斗さんが今の春香お姉ちゃんの容態を知ればまた辛い気持ちになるとそう思ったから・・・。
貴斗さん、春香お姉ちゃんのお見舞いに来ていたとき何度かとても辛そうな表情をしていたのを今でもはっきりと覚えているの。
だから、会わせたくないんですけど・・・。
詩織さんが部活のコーチに来た時にそれを伝えようとしたんだけど今日は先輩来ないのをすっかり忘れてしまっていました。
だから、お家に帰ってから電話する事にしたんです。
「もしもし、藤原さんのお宅ですか」
「あら、その声は翠ちゃんですね」
「はいそうでぇ~~~っす。ジャァ私もまねしてその声は詩織先輩ですネェ」
「もぉ、翠ちゃんたら・・・、ところで私にご用事、それとも貴斗?」
本当は詩織さんに話そうと思ったことなんだけど・・・、貴斗さんと直接お話をしたかったから、代わって貰うことにしたんです。
「貴斗さんをお願いいたします」
それから程なくして彼に代わってくれました。
「ハイ、もしもし藤原貴斗です」
「分かっていますからそんな挨拶しなくていいですよ」
「それで、用件は?下らない事だったら切るからな」
「大事なことですちゃんと聞いて下さいね」
〈もおお、貴斗さんなんで電話の態度いつもそっけないんだろう?〉
「わかった、それで」
「明日、必ずお姉ちゃんの見舞い来て下さい」
〈ハァ~~~、本当は来て欲しくないんだけど・・・、春香お姉ちゃんの頼みだから〉
「詩織先輩は何度かぁ、顔を出してくれたのに貴斗さんはあれっきりなんだから」
「分かったよ、行く。明日だな」
「絶対ですよ!もしこなかったら」
「もし行かなかったら?」
〈ホントに素っ気無い態度ですね・・・、少しからかちゃえぇ〉
「もし来なかったら、クックックックック」
見えない電話向こうの貴斗さんにそう言って最後に悪戯に笑って差し上げたんですよ。
「分かった、切るぞ」
「アッ、詩織先輩に代わって下さい」
詩織さんと代わって貰ってからは最近出来たショッピング・モールや909の中のお店の話題で二時間もお話してしまいました。
~ 2004年8月10日、火曜日 ~
今日から春香お姉ちゃんの時間の流れでは新学期が始まる事になっているんですよ。
だから、三年前の様に振舞わないといけないんです。
今ある物を試着しているところ。
それは、私が中学校に行っていた時の制服。
「葵ママこれちょっときついよぉ」
「あら・・・、頼んでおいたそれ寸法、間違ってしまったのかしら?・・・。でも、我慢してください。もう新しい物を新調する時間ないのですから」
ママは呑気な声でそんな感じに返してきたんですよ。
私はもう三年前と違っていた。
願いの一つが叶って私は急成長していたんです。
今ではあの頃と比べて約30㎝も身長が伸びていた。
中学校が同じだった春香お姉ちゃんの制服を着られる訳でもなく、私のなんって全然着られない。
だから態々、春香お姉ちゃんの容態の為に新しい物を仕立てたの。
仕様がないから私はそれを綺麗にたたんで部活の用具が入っているスポーツ・バッグに仕舞って聖陵へと向かった。
部 活 練習中
「詩織先輩、弥生と勝負してくれませんか?」
「お邪魔虫のアンタはあっちに行ってなさい。詩織先輩は私の専属コーチなんだから」
去年の終わりごろから詩織さんも一緒になって泳ぎながら私のフォームを間近で確認してくれていた。
「駄目ですよ、翠ちゃんそんなことをお口にしては・・・、確かに今は貴女を集中して見ていますけど元々は部全体のコーチとして私は招かれたのですからね」
「それじゃァ、弥生と勝負してくれるんですね?」
「ハイ、勿論お受けいたします。それと弥生ちゃんのお得意な背泳ぎ100mで」
「ウッシッシィ~弥生ちゃん、詩織先輩にあんたの得意なそれでもし負けたら罰としてあれ飲んでもらうからね」
私の笑い声に弥生は冷や汗を掻いて苦笑していた。
私は二人のその勝負を観戦。
それから、勝負は一分弱で付いた。
その結果とは・・・?
「ハイッ、弥生ちゃんこれ飲んでね」
私は嬉しそうにお昼の時間、ボタンを押し間違えちゃって購入してしまった濃縮青汁ミルクを部室の冷蔵庫から取り出して、にっこり微笑んで、それを彼女に手渡していた。
「詩織センパァ~~~イ、みぃちゃんが弥生のこと、苛めます」
「得意の泳ぎの勝負で負けたあんたが悪いんでしょ・・・、って言うか自由形・クロールの詩織先輩がなんで全国区の弥生ちゃんより早いんですか」
「それは弥生ちゃんが本気を出していなかったからじゃないのかしら?」
「弥生は手なんて抜いてませぇ~~~ん。先輩に失礼したくなかったから真剣にやりました」
「まっ、アンタが負けた事実は変わりないから理由なんてどうでもいかな・・・。ハイ、弥生ちゃん、一気、一気、グイッと飲んじゃおぉーーーッ!」
私のその言葉に渋々と弥生は激不味ジュースを飲み始めた。
「みぃ~~~ちゃん、これ本当に美味しくないですよぉ~~~」
ちょっと口にしただけでマジ苦渋の顔を作って不満そうに弥生はそんな風に言葉に出していた。
それを見かねた詩織さんが弥生からそれを取り上げ排水溝に流してしまうのかと思いきや・・・・・・、飲んでしまわれました。
しかも全部綺麗に。
更に、詩織さんはそれを飲み終えると平然とした表情で弥生と私に声を掛けてくるんですよ。
それに、いやぁ~~~ん、私の詩織お姉さまと、弥生お馬鹿さんの間接キッスぅ。
よろしくありませんわぁ、なんてぇね。
「おふざけはここまでです。それでは残りの時間も頑張って練習いたしましょうね」
「はぁ~~~っい」
なんとなく突っ込んではいけない雰囲気を醸し出していた詩織さん、だから弥生と二人してそんな風に明るく返事を返したんです。
部活も終わり、詩織さんが一緒に帰ろうって言ってきてくれました。しかも貴斗さんがお迎えに来るそうです・・・。
本当はそうしたかったけど、それを断ってしまいました。
「それじゃバイバイです」
「翠ちゃん、それではまた病院で会いましょう」
手を振って貴斗さんを待っている詩織さんより先に学校を出た。
* * *
病院についてからお手洗いで聖陵高校の制服から陽南中学のそれに着替えて春香お姉ちゃんの所へと向かった。
「春香おねえちゃぁ~~~ん、お見舞いだよぉ~~~」
「あら翠いらっしゃい・・・、学校の帰り?」
「春香お姉ちゃん正解ですぅ~~~」
それから数分、夏休み以外の事を話題に雑談した。
初めてお姉ちゃんが目覚めた頃に比べると今は余り気絶をしなくなっていた。
程なくして柏木さんがここへ現れる。
それから、直ぐに貴斗さんと詩織さんがここへ来てくれた。
詩織さんの恋人は春香お姉ちゃんの元ナンチャラの存在を確認すると本当に刹那な時間、笑みを浮かべていました。
何故そう思えるのか私に理解できないけど、貴斗さんにとって春香お姉ちゃんと柏木さんが一緒に居るのが自然な形みたいですね。
詩織さんも、柏木さんも、前もって春香お姉ちゃんの容態を知っていたから途中でお姉ちゃんが気絶しても驚かないでくれました。
だけど、それを知らなかった貴斗さんは吃驚した顔ではなく辛そうな顔を私に見せてくれたのと同時に私と詩織さんを睨んでから口を開きました。
「宏之と涼崎さん二人きりにしてやろう」
「貴斗君、そんな事、気にしなくていいのにぃ~」
「二人とも行くぞ」
「貴斗さん、目が怖いですぅ~」
〈うぅぅ~~~、そんな怖い目で見ないでください、脅えちゃいますぅ〉
詩織さんも私も貴斗さんに促されて病室の外へと出たんですよ。
「翠ちゃん、これはどう言う事だ」
「そぉっ、それはぁ・・・」
〈たっ、貴斗さん・・・、さっきより目が怖いです〉
「何故っ、君は中学生の頃の制服を着ている!」
〈ハゥ~~~、なんて説明して言いかわからないですぅ〉
「答えろ、みどりぃーっ!」
その言葉と一緒に私の両腕をかなりの握力で掴んできた。
「ヒィッ」
貴斗さんの怒気を含んだその声に私は脅えて竦み上がってしまいました。
脅えの方が強くて腕の痛みは感じていなかった。
だって本当に怖いんだもん。
「止めなさいっ、貴斗!翠ちゃん、怯えていますわ」
「アッ、ゴメン翠ちゃん・・・痛かっただろ?ゴメンな」
詩織さんの言葉で正常に戻りスッごくすまなそうに貴斗さんは私に謝ってくる。
「いえ、大丈夫です」
本当はとても痛かった。
だけど、それだけ言うと次の言葉が見つけられなくて下を向いてしまいました。
そのまま、貴斗さんが何も聞いてくれなければ言いのに、って思いましたけど・・・、調川先生のご登場で彼は春香お姉ちゃんの容態を知ってしまう。
「そんな馬鹿な、せっかく、折角、目覚めたのに・・・、あんまりだ」
〈・・・どうしてそんなに辛そうな顔するんですか?〉
詩織さんと貴斗さんのお陰で春香お姉ちゃんの事でそれほど多く辛い思いをしなくて済んだ・・・、二人の先輩に救われたけど・・・。
だけど・・・、だけど・・・、貴斗さんは?詩織さんが傍にいるだけじゃそれは救えなかったの?
余り多くを語らない貴斗さん。
だから、彼がどんな気持ちで今までいたかなんってそう簡単にお察ししてあげる事はできないんです。
それは私が・・・、お子様だから・・・。
「タカト、もう貴方が気にすることないのよ」
「貴斗さん・・・」
「少し考えさせてくれ」
〈考えるって・・・、一体何を考えるって言うんですか?貴斗さん〉
「たかとぉっ!一人で背負い込まないで!」
「貴斗さん、私では頼りないんですか?」
「・・・・・・・・・」
詩織さんと私の言葉に貴斗さんは何も返してくれなかったんです。
ほんの僅かな時間だけ私と詩織さんに聞こえない様に調川先生は貴斗さんに何かを話しているようだった。
「詩織・・・、帰ろうか」
「元気出して」
「大丈夫・・・、翠ちゃん、一緒に帰るか?送っていくぜ」
「あっ、ハイッ有難うございます」
貴斗さん元気なかったけど私の元気を分けて上げたくて明るくそう返事を返していました。
それから、貴斗さんの運転する車の中で彼が全国大会の話を持ちかけてくれたんですよ。
「そういえば、翠ちゃん、そろそろ高校最後の大会だな」
「どうして知っているんですか」
「詩織」
「なぁ~~るほどねェ~、大会応援来て下さい!」
「詩織と一緒に行ってやるよ・・・、いいだろ詩織?」
〈やったぁ~~~、今年も全国大会の応援には来てくれるんですネェ〉
「フフッ、わかりました」
「貴斗さん、優勝したら、ご褒美下さいねぇ!」
〈今年も優勝していっぱい貴斗さんに甘えちゃおぉ~~~ッと〉
「馬鹿いえっ!丁寧にお断りする!」
「絶対ご褒美貰うんだから!」
「絶対やらぬ」
〈ウゥ~~~っ、今年の貴斗さん辛口ですぅ~~~〉
「少しくらい、いいじゃないの」
「さっすがぁ~~~、詩織先輩話が分かる!」
「こらっ、詩織余計なこと言うな」
「ごめんなさぁーい」
そう言う会話をしていたら貴斗さんも病院の時とは違って穏やかな顔に戻っていた。
~ 2004年8月13日、金曜日 ~
部活前に春香お姉ちゃんの所へと向かっていた。しかも私服。
今日は春香お姉ちゃんの日付で陽南中学の創立記念日になっているはずだからその格好でも問題ないんです。
「コンチィ、おねぇちゃぁ~~~ん。今日もお見舞いに来たのよぉ???っ!柏木さん何、やってんですか!お姉ちゃんは怪我人なんだよっ!」
病室に入ると、こんな時間に居るはずもない柏木さんを見て吃驚。
しかもなぜか春香お姉ちゃんとその人は指を絡めていたんですよっ・・・。
まあ、柏木さんなら学校サボってきたって言う感じなんだろうけど。
「あっ、あぁ・・・・」
「人の目が届かない所だと・・・、本当に男の人って厭らしいですねぇ」
「それは貴斗も含めてか?」
「ムッ###」
〈アナタなんかと比べないでクダサいっ、貴斗さんに失礼です!〉
「柏木さん・・・、お姉ちゃんに何をしてたんですか?」
怒った口調でその人を問い詰めていた。
でも、それに答えてくれたのは柏木さんじゃなくて春香お姉ちゃんだった。
「・・・、おまじないしてたの」
「えっ一体何をお姉ちゃんに誑し込もうとしてたんですかアナタは?」
更に私の怒りがこみ上げさっきより強くそう言葉に出していた。
私の怒りなんかお構いなしで春香お姉ちゃんは言葉を続けていた。
「永遠の約束のオマジナイ」
「ヴぇ!?」
〈永遠の約束おまじない?・・・、そんな物ある訳ないでしょっ!その人はお姉ちゃんを裏切って・・・、私まで裏切った人と一緒に居るんだからっ!〉
心の中で口には出せないことを訴えたら、怒りと悲しみの両方がこみ上げてきちゃいました。
「宏之君、アリガトウ、私とても安心したの」
「・・・・ぁあ、そうだな」
「永遠?そんなもの有る訳ないじゃないですか、馬鹿じゃないの・・・、・・・・、・・・・・・、売店に行って必要な物を買って来ます」
何も知らない春香お姉ちゃんはとても幸せそうな顔を柏木さんに向ける。
それを見ているのが凄く辛くて私はそこを飛び出して行った。
入り口前で検診に来た調川先生にぶつかりそうになるけど何とか上手くすり抜けることが出来た。
売店になんって用事なかったから私は病院の外へ出て嫌味なくらい澄み切った空を眺めて、柏木さんと春香お姉ちゃん、その二人の事を考えたんです。
春香お姉ちゃんは柏木さんの事を必要としている。
お姉ちゃんがそれを望むなら私が口出しなんかしてもしょうがないんだよね・・・。
さっきのことを柏木さんに謝らなくちゃ。
考えがそこに行きついた処で柏木さんが病院の外へちょうど出てきた。
「・・・、さっきはあんな酷い事を言ってごめんなさい」
「別にもういいさ、俺だって悪かった。翠から見たら俺って最低な奴、だもんな」
柏木さんはちゃんと自分の事を理解しているようだった。
ヤッパリ私の考えはまだ、まだ子供じみているのかもしれない。
「それは・・・」
「いいんだよ。別に、言いたい事、言ってもらった方がスッキリする時もあるんだぜ」
「私は貴方が許せなかった。二度もお姉ちゃんを見捨てたくせにまたノコノコとここに現れるなんて許せなかった」
柏木さんの大人の考え方に私は素直に私の気持ちを伝えました。
「ヤッパそうだろうな」
「でも、それでも私が柏木さんを嫌っていても春香お姉ちゃんは貴方の事を必要としていた・・・。まだ、お姉ちゃんの事を少しでも想ってくれているのなら、私はもう何も言いません」
「・・・・・・」
「今は何も答えなくていいです。だけど、必ずその答えを見つけてください」
こう言う問題を簡単に解決できたら誰だって苦労しないよね。
だからそう考えて柏木さんに私の気持ちを伝えたの。
「・・・、分かった」
「有難う御座います・・・・・・・・・」
そこで私は言葉に詰まってしまった。
柏木さんはどうも、私が貴斗さんへ向けている気持ちを知っているようだった。
私のこの気持ちを話してみたら、柏木さんは一体どんな風に返してくれるのだろう・・・。
それが知りたくて、柏木さんに私の胸のうちを聞いてもらいたくなってしまっていた。だから、怖ず怖ずと
「一つ質問していいですか?」
「なにをだ?」
「柏木さんは私が貴斗・・・、さんの事をどう想っているかご存知のようですね」
その人が春香おねえちゃんの見舞いに来てくれなくなってから接触する機会それほどなかったんです。
なのになぜか柏木さんは私の想い、それを知っていた。
「それで?」
柏木さんのその言葉の後に絶対、ゼッタイありえない質問を投げかけてしまっていたんです。
「若し、若し、何かのきっかけで私と貴斗さんが関係を持つようになったら。柏木さんはどう思うのですか?」
「そんなの俺には関係ない。貴斗がそれを認めれば藤宮さんだって周りの奴らだって何を言っても無駄だろう?」
「それは柏木さんとあの人にも言える事なんですか?」
「そんなの翠、自分で考えろよ。お前だってもう高校生だろ、そんなの分からない歳でもないだろよ?」
「有難う御座います。それじゃ私、おねえちゃんの所に戻ります」
そう言って病室に置きっぱなしの部活用のスポーツバッグを取りに戻った。
移動中さっきの柏木さんの言っていた事を整理していた。
柏木さんが思っているほど大人の考え何って出来ない・・・。
でも、この先の未来にそんなこと有りえないけど、若し貴斗さんとそうなる事があったら私の気持ちに正直になってもいいって言うことなンですよね・・・。
絶対ありえないけど。
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