第十二話 三連覇を目指して
~ 2004年8月14日、土曜日 ~
朝、顔を洗うために洗面所台に立っていた。
流し台前の大きな姿鏡で私の顔を覗くと・・・。
「ハゥ~~~、酷いお顔さんになってるぅ」
連日の部活の練習の意気込みと春香お姉ちゃんの突然の目覚めとか他にも色々あって精神的、肉体的な疲れが私の顔に出てしまっているみたいです。
お化粧とかほとんどしたこと無いから得意じゃないけど詩織さんから頂いた先輩のお母様が作られたと言う無添加の化粧品を使って顔を整えた。
「うっし、完璧ぃ~、ばっちり、ばっちりっ!」
そんな独り言をして、洗面所を後にした。それから、聖陵の制服に着替えて一階に下りるとパパもママも既に仕事に出掛けていていなかった。
用意されていた朝食を食べてから部活をしに学校へと向かう。
その途中、弥生と駅で待ち合わせをしていたから彼女を待った。
待つこと二十分近く、ヤットのことで弥生が到着。
「ハァ、ハァ、ハァ、みぃちゃんゴメンネェ・・・、寝坊しちゃった。アハァ、ハァ・・・」
走ってきた彼女は息を切らしながら毎度お馴染みの言葉を聞かせてくれた。
弥生が来たのが分かると改札口に歩き出しながら彼女に答えを返していた。
「弥生ちゃんのネボスケさんは今に始まったことじゃないでしょ・・・だから、気にしてないよ」
「ゴメンネェ、みぃちゃん」
「いいって、いいって、どうせ遅刻しても誰が怒るわけでもないし」
「駄目だよぉ~~~、弥生これでも大会が終わるまでは部長なんだから・・・、それにみぃちゃんは副部長さん。二人そろって遅刻なんってしゃれにならないよぉ」
「大丈夫っ、心配無いって・・・、弥生腕時計確認してごらん」
「・・・9時19分です」
「集合の10時に余裕で間に合うでしょ?弥生が遅刻するのなんって予想済み。だから毎回、待ち合わせ時間、早くしてるの」
「なぁ~~~んだ、そうだったんだぁ。流石みぃちゃん」
「ハイ、ハイ、分かったらさっさと行くわよ」
〈ハァ~~~、まったく弥生ちゃんったらバカにされてるの気付かないかなぁ~~~?〉
そう言って私達の立っているホームに丁度来た電車に乗り込んだ。
* * *
学校にも無事遅刻せずに到着して女子部員全員に弥生と一緒に号令を掛けると散り散りになって個人トレーニングを開始した。
私と弥生が一緒になって泳ぎ始めてしばらくしてから・・・。
「何だかみぃちゃん・・・、とっても顔色悪いよ、大丈夫?」
「なに言ってんの弥生ちゃん、私は元気、元気、心配ないって」
〈・・・?しっ、しまったぁ~~~、詩織さんから貰ったあれは《水で簡単に洗い落とせてしまうから気を付けてください》って言われていたんだっけ・・・、泳ぎ終わったら即行で塗りなおさないと〉
「明日は全国大会あるんだから無理しないでね・・・、みぃちゃんに倒れられたら弥生、心配だよぉ」
「だから大丈夫だって。さぁ、明日の為にガンバろっ!」
私は弥生に答えてやってからスタンディング・ポイントから飛び込んで泳ぎを再開した。それから、部活が終わるとその足で音速の速さを超えて、私は春香お姉ちゃんの所へお見舞いに行った。
今日は部活の終了と共に誰にも分からない所で中学校の制服に着替えて出てきたから二度手間しなくて済んだ。
病棟の六階の階段を登り春香お姉ちゃんの病室に差し掛かった時、急な目眩を覚える。
〈あれ、あれ、私どうしちゃったんだろ?〉
足元がふらつき・・・、春香お姉ちゃんの病室の寸前で倒れ意識を失ってしまったんです。
どうも自覚症状のない夏風邪で倒れてしまった見たいですね、私。
気付いた時には、どこかのベッドで寝かされていたんです。
それと普段のこの時間には会えない人が私の傍で濡れたタオルを絞って私の額に乗せようとしていました。
「お・・・にぃ・・・ちゃん?」
「翠ちゃん、具合どうだ?」
「・・・、うん」
「いままで無理しやがって、なんで俺に言わなかった」
貴斗さんはとても穏やかな顔でそう言ってきてくれたんです。
だけど、貴斗さんが言うその理由を口にしてしまえば彼はきっと私を今以上に甘えさせてくれると思う。
でも、そんな事されちゃったら私、本当に貴斗さんから離れられなくなっちゃう。
それにそれは大切な、大好きな、詩織さんを裏切ってしまうことになるから、だから、それを言葉にして彼に言うことは出来なかった。
我慢していたの・・・。
「明日の大会絶対休め、いいな」
〈絶対嫌っ。だって、今まで水泳頑張ってこられたのは貴斗さんや詩織さんがいてくれたからだもん・・・、だから、今回もちゃんと結果を残したいの〉
水泳を頑張っていたのは春香お姉ちゃんのためだった。
だけど、それを支えてくれていたのは貴斗さんと詩織さんだった。
二人が私の傍にいてくれたから頑張ってこられた。
貴斗さん、何より優先して詩織さんの傍にいなくちゃいけないのにどうして私の所にいるの?
その疑問を熱で掠れてしまった声で貴斗さんに聞いてみることにしたんです。
「・・・ねぇ、お兄ちゃん。バイトはいいの?・・・・・・詩織先輩と一緒にいなくていいの?」
「俺の心配をするより、自分の心配をしろ」
抑揚のない淡々とした声。でも、貴斗さんが私の事を心配してくれるのは伝わってくる。
「うん・・・・・・・・・、お兄ちゃん、オネガイがあるの。ここにいられる時間まででいいから・・・、その・・・、私の手を握っていて欲しい」
優しくしてくれる貴斗さんに迷惑だって分かっていたけど我侭を言ってしまった。
だけど、その私の我侭を彼は何も口にしないで行動で示してくれた。
去年、私が怪我を負わせてしまった、貴斗さんの右の掌。
実は彼、その事を覚えていない。
どうしてなのか理由は知らないけど、本当に覚えていないんです。
それだけじゃなく、数週間前の詩織さんのあの事故すら・・・、記憶が曖昧に・・・、殆ど忘却してしまっている状態。
でも、今は良いのこうして、貴斗さんがそばに居てくれるから・・・。
貴斗さんの大きな手が優しく私の小さな手を握り締めてくれる。
手を握ってもらって安心した私は再び眠りに就く。
それから、どれだけ眠っていたのか分からないけど調川先生の声で目を覚ましてしまった。
「・・・、おにいちゃん・・・、手、ずっと握ってくれてたんですね」
「約束したからな。少し俺は愁先生と話がある。手、放していいか?」
「うん」
小さく頷いてから握っていた彼の手を放した。
それから、それを確認した貴斗さんは立ち上がり調川先生と一緒にこの部屋から出て行ってしまう。
二人が部屋の外で会話をしている間、私は貴斗さんの事を考えていた。
彼と初めてお会いした時の第一印象は無愛想な人で余り良い人には思えなかった。
しかも尊敬する詩織さんの彼氏だって言うのを聞いてとっても驚いて、その場で凄く失礼な事をしてしまったのを今でも覚えている。
まだ、その時は貴斗さんの表面上のことしか知らなかった。
でも、詩織さんと一緒に多くの時間を貴斗さんと共有して彼の人の良さを知ってしまった。
そんな貴斗さんの性格に付け込んでずっと甘えてしまっていた。
それと同時に彼の事を異性として好きになってもいたの。
だけど、それは絶対叶うはずないことも知っていた。
だって貴斗さんと詩織さんはお互い凄く必要としているのを先月のみんなで遊びに行った時に理解したから。
それと、ずっと貴斗さんと一緒に居て心配し続けたことが一つあるんです。
それは彼の記憶。
余りそれをみんなの前で口にすることはなかったけど、もう三年も経ってしまうのに貴斗さんはそれより以前の記憶を失ったままなんですね。
今だって悪い出来事だったけど私にとっては大切なそれを貴斗さんは記憶にとどめていなかった。
彼が嘘を言っているのではなくて。
何かで、読んだことがあるはずなんだけど・・・、記憶喪失の人ってその状態の間、何かの精神的な苦痛を感じている、って書いてあったような気がするんだけど・・・、
絶対無理しているはずなのに貴斗さんはそんなのを一度も見せてくれませんでした。
だから、貴斗さんには気付かれない様にずっと心配し続けたんです・・・。
それと同時に甘えちゃってもいたんですけどね、ハハッ。
私が水泳を頑張る三つ目の理由、それは貴斗さんの記憶の回復の願掛けでもあったんですよ。
お姉ちゃんが目覚めたんだからきっと貴斗さんだって・・・。
〈はあぅ~~~どうして、私と貴斗さんは出逢ってしまったんだろう・・・こんな気持ち辛いよ〉
貴斗さんの事を考えていたら辛い気分になってしまった。
「はぁあぁ~~~、貴斗さん、戻ってこないなぁ~~~、若しかして帰っちゃったのかなぁ~」
「ただいま・・・、今戻った」
溜息をつきながら独り、そう呟いていると貴斗さんが戻ってきてくれた。
貴斗さんは私のことを一度覗きこみ微笑むと近くにあった洗面器に入っている水をこの部屋にあった冷凍庫の氷を使って氷水に交換していた。
それに浸して絞ったタオルを私の額に乗せてくれる。
「おにいちゃん」
「どうした?」
「バイト、行かなくていいんですか?」
「今日はない」
「詩織先輩と一緒にいなくていいんですか?」
「心配ない」
彼の言葉が嘘でも私にはとても嬉しい事だった。
今は私の為だけに貴斗さんはここにいてくれる。
「お兄ちゃん有難う」
「気にするな」
「お兄ちゃん、また手、握ってくれるかなぁ?」
「いまの俺の手はそうとう冷え切っているぞ・・・、俺の心のように・・・。それでもいいか?」
そんな事ない・・・、そんな事ないもん。
若し、貴斗さんが、貴斗さんの言う様な人だったら私はこんなにも好きになるはずがないの。
だから、そんな事ないんです・・・。
そんな意地悪な事を言う貴斗さんに拗ねる様な言葉を口にする。
「お兄ちゃん、バカな事いわないで欲しいなぁ、そんな事を言うお兄ちゃん嫌い」
「フッ、悪かった」
貴斗さんは彼の手に息を吹きかけてからその手で私の願いに答えてくれた。
「有難う、お兄ちゃん・・・大好き」
春香お姉ちゃんとも、秋人パパとも、葵ママとも違う貴斗さんの手。
私の肉親とは違った温かさと安心感のある貴斗さんの手。
私はその手に包まれながら三度目の眠りに就いた。
~ 2004年8月15日、日曜日 ~
翌日、貴斗さんよりも早く目を覚ましたんです。
貴斗さんが看病をしてくれたからスッゴク元気になった様な気がする。
右手を確認すると貴斗さんはずっと私の約束を守っていてくれていました。
貴斗さんが目を覚まさない様に気付かれない様に私の方からその手を放す・・・。
って言うか彼、寝ている時って何しても殆ど気付かないんですよねぇ。
まだ、気持ちよさそうに寝ている貴斗さんに私が使っていた毛布をかけて上げました。
私が目を覚ましたことに気がつかない、穏やかな寝顔のままの貴斗さんを見てしまった私は、流石に貴斗さんの唇に交わす勇気はなかったけど、頬くらいだったら・・・、
「貴斗さん、本当に有難うございました・・・。今日の大会見に来てくださいね。自分の為にも貴方の為に絶対優勝しちゃいますから・・・・・・、チュッ」
静かに貴斗さんにその言葉を向け、穏やかな顔をして眠っている彼の頬にキスをしてしまいました。
こんなところ詩織さんに見られたら多分、激怒どころじゃ、すまないけど・・・、ハハッ。
それから、貴斗さんを起こさないで病院を後にしたんです。
だって起こしてしまえば彼は必ず私が大会に出る事を止めると思ったから。
今年の水泳全国大会は地元の所で行われる事になっていた。
なんと、しかも公の施設じゃなくて聖陵高校でだよ。
「ネェ、みぃチャン、私達今年も全国大会、来ちゃったね。精一杯頑張ろうね」
「あったりまえぇ~~~、今年も優勝して三連覇取るって決めたんだからっ!!」
「ああぁ~!なんか今日のみぃちゃん凄い意気込み。それに元気いっぱいって感じがするぅ~」
「ふふぅ~~~ん、だって昨日いい事あったんだもん。そして、今日のあさもぉ~ッ!」
「エッ、何々、弥生に教えてよぉ」
「教えて上げたいけど、教えてあげないぁ~~~い・・・、それより弥生ちゃんも頑張ってね。あんただってこの夏の大会も優勝すれば二連覇じゃない。しかも今年の冬の大会も何気に優勝なんかしてくれちゃったから二冠っておまけも付いて来るし」
「うん、みぃちゃんが頑張るなら弥生も頑張るよ・・・、ネェ、また勝負しよっか?負けた方は罰として危険物指定三種の魔器の一気飲み」
「それでおぉーけぇーよ・・・。でも、今日の私、凄いんだから絶対勝つ自信がありありってね」
その漲る意思を弥生に見せつけた。
それから、会場の中にいる他の部員たちの所へ移動した。
大会が始まる直前、観客席を眺めていたら、如何してそこに居たのか分からないけど直ぐ近くの特別席にいた貴斗さんと目が合いつかまってしまう。
「翠ちゃん、なんで俺に黙って病院を出て行った。心配したんだぞ。今すぐに棄権しろっ!」
「貴斗お兄ちゃん、そんな顔しないでよ。お兄ちゃんが看病してくれたから、ほら元気してるでしょ?私全然平気だから」
私の元気を見せつけるように貴斗さんに元気な声と目一杯の元気な顔を見せて上げた。
「分かった・・・。でも、無理はしてくれるなよ」
「ハッハァ~~~ッイ、私、貴斗お兄ちゃんのために頑張ってきまぁ~~~っす」
そう言葉に残して貴斗さんの返事を聞かないで選手の控え室へと移動して行った。
そうそう、さっき観客席の方を覗いた時、私の両親以外の知っている人達が応援に来てくれたみたいだった。
その中にあの人もいた。以前だったらその人が居るだけで嫌な気分になっただろうけど今日はそんな事を気にしないで優勝することだけを頭の中に詰めていた。
* * *
『パシンッ!!』
弥生と私は高く上げた手をガッツ・ポーズと一緒に打ち鳴らしていた。
大会も無事に終了し、着替え終わった私達は部室に居たんですよ。
「弥生ちゃん、背泳ぎ100m優しょぉ~~~オメデトさん」
「みぃちゃんすっごぉ~~~い、三連覇おめでとうネェ」
「お互いよく三年間頑張ってこれたもんだね」
「うん、そうだネェ・・・。みぃちゃんは今日これからどうするの?」
弥生は大会後の予定を聞いてきたけど詩織さんと貴斗さんと一緒に居るのを邪魔されたくなかったから適当にはぐらかして彼女とお別れした。
それから二人と約束していた待ち合わせの場所へと向かう。
「詩織先輩、貴斗さん!私、やりましたッ!」
目に見えた二人にそう言ってから嬉しさの余り詩織さんに抱き付いた。
貴斗さんにもしたかったんですけど。
そんな事をすれば詩織さんに怖い怖い目されちゃうのでがまん、我慢。
「頑張ったわね、優勝おめでとう」
「よくやった、オメデト!」
「有難うございます・・・。たぁかっとさぁ~んっ、約束覚えてますぅ?」
二人に感謝の気持ちを述べてからこの前、車の中で約束してもらったあれを詩織さんに抱きついたまま、甘えるような口調で貴斗さんに言って聞かせました。
「ハテ?約束?俺は約束、何ってしたつもり無いぞ!」
「ひどいよぉ~~~、詩織お姉さまぁ。貴斗さん、あんなこと、言ってます。グスゥン」
「貴斗、男でしょ、それ位いいじゃない!」
「両親に祝ってもらえっ!」
詩織さんの言葉にも抵抗する様に貴斗さんはそう言ってきました。
今日の彼のディフェンスはとっても硬いようです。
「だって今日パパとママ結婚記念日だからって大会の後、温泉旅行に行くんだって言ってたもん」
家の両親は結婚記念日の日だけは何があっても私と春香お姉ちゃんの事をほったらかしにしてどこかへと旅行に行ってしまいます。しかも、行き先は教えてくれません。
私の言った事を信じてくれなかったのか貴斗さんは携帯電話で既に帰ってしまった私の両親に連絡して確認しているようだった。
「詩織お姉さま、酷いですよ!貴斗さん・・・、私が嘘ついていると思って態々、家に連絡するなんてぇ」
〈ハァウゥ~~~、信じてくれなかったんですネェ。貴斗さんが私のこと信じてくれなかったから悲しいです〉
後は詩織さんに頼って貴斗さんを泣き落として今年も去年と一緒で帰ってからどこかへ連れて行ってくれる事になりました。
ただいま貴斗さんのお家の空き部屋で詩織さんと一緒に浴衣の着付けを仕様としていました。今日は三年に一度の三戸祭り。
丁度、私が上を脱いで穿いていたスカートのフォックに手をかけた時、閉めていた扉が開いた。
『ガチャッ、キィーーーッ』
「二人とも着替え終わったか?・・・・・・?」
「???」
「アハッ、アハハハハッ」
「たっ、たぁっ、貴斗さぁーーーん、どっ、どどど、どこ見てんですかぁ、エッチ、スケベ、度変態、あっち行っちゃってくださいっ!」
不意に着替えを覗かれて錯乱してしまった私は手近にある物、何でも缶でも彼に投げつけた。
その一つが貴斗さんの顔面に直撃。
「グヘッ・・・、男、冥利に尽きる」
最後変な事を言って顔を摩りながら立ち去って行った。
着替えが終わってからさっきの貴斗さんの行動を咎める様に詩織さんと一緒になって彼を見据えていたんです。
「・・・、別に下着も水着もたいした差なんてないだろう。どうしてそんな顔をするんだ?」
「貴斗、反省の色が顔に出ていませんけどどう言うことかしら?」
「そうですよぉ、お嫁入り前のお肌見られちゃいましたぁ責任とって私を貰ってください」
「翠ちゃん、そんな馬鹿なこと口にしないでください」
貴斗さんに向かってそう言葉にすると彼じゃなくて私に怖い目で詩織さんに突っ込まれてしまいました。
「ウゥッ、・・・、・・・二人とも悪かった、許せ・・・、二人ともその浴衣が似合っている綺麗だ」
「ハァ、褒めてくれましたから今回はお許しします」
「貴斗さんに褒められちゃいましたぁ・・・、それに私は別に見られたって気にしてませんからぁ~~~、見たかったらいつでもお見せしてあげますから言ってくださいねっ」
「もぉ~っ、翠ちゃんたら、またそんな事を言って貴斗をからかわないで下さいね」
三人浴衣の格好でお祭りへと出掛けて行くのでしたぁ。
それから、出店にある物を食べ歩き、お祭りの色々なイベントを眺めていたんです。
街の中腹に来た頃に見知った二人に偶然遭遇。
「こんばんは藤宮さんとても浴衣美人ですね、貴斗さんもこんばんは、それとついでに翠も」
「貴斗さん、お久しぶりです。綺麗な浴衣を来た詩織先輩、こんばんはです・・・・・・。あっ、みぃちゃん〝もぉ〟いたんだぁ~?」
「将臣、誰がついでよ!それに弥生ちゃん何その態とらしい言い方」
「お二人とも今晩は将臣君、弥生ちゃんお褒め頂き有難うございます」
「二人とも久しいな祭りは楽しんでいるか?」
「弥生が一緒だと楽しめるものも楽しめなくなっちゃいますよ」
「将臣お兄ちゃんなんかもうどっか行っちゃって良いですよ。今から貴斗さん達と一緒にお祭り、見ますから」
「なに言ってんの弥生ちゃん?私がそんなの許す訳ないでしょ。邪魔者ツインズはどっかに消えちゃってくださぁ~~~ッい。ハイッ、即退去ぉ~~~っ!!」
「翠ちゃん、いまの言い方よろしくないな。お兄さんは泣いてしまいそうだ」
「そうよ、お祭りなのですから皆さんで楽しまなくては」
「貴斗さんと詩織さんがそう言うのなら・・・、ってな訳でよかったね」
二人にそう言われてしまったらこれ以上、弥生と将臣を無碍にすることは出来ないから双子の兄妹に振り向いてそう言って上げた。
「さすが貴斗さんと藤宮さん。分かってる、そうでなくちゃ・・・。それと翠も可愛いな・・・」
「〝浴衣の柄〟がって言うオチ言ったら両手両足に枷つけて海に放り込むからね」
「なんだよ、せっかくマジに褒めてやったのに」
「日頃のアンタの言動の所為でしょ」
「くだらない言葉遊びはそこまで移動するぞ」
貴斗さんがそう言ったのでそれ以上、何も言わないで彼の右腕につかまる。弥生も私の真似をして空いている腕にそうする。
「弥生ちゃん、なにやってんのよ。あんたにそんな事する権利、どこにもないでしょ」
「そんなのみぃちゃんだって同じだよぉ」
「アッ、二人とも貴斗に何をしているんですか離れなさい」
そんな事を言う詩織さんを無視して貴斗さんを引っ張り歩き始めた。
貴斗さんは私と弥生が腕につかまっていても怒る様子じゃなかった。
満更でもないようすねぇ。
しばらく、そんな状態で色々な所を歩き回っていた。貴斗さんを私と弥生で占領しちゃっていたから詩織さんは将臣の相手をしていたみたいですね。
一番出店の多い場所で私も詩織さんも弥生も将臣も何かを争う様に貴斗さんにお強請りをしていた。
私達の強引な手口に貴斗さんお財布から何枚ものお札が飛び散って行く。
聖陵の大きな木がある旧校舎裏で花火を見てから人気のある場所に戻り双子の兄妹と別れた。
それから貴斗さんは私達に背を向け何か独り言している。
「ウウゥ~~~、夏目くん、君だけが俺の気持ちを分かってくれたかぁ~~~」
「センパァ~~~イ喉渇きましたぁ」
「私も何か飲みたいなぁ」
「無理、無理、俺もう金無い」
そう必死になってお兄ちゃんは訴えてきたけど開きっぱなしのお財布にはお札が見えました。
「貴斗さん、あそこに奇麗な白銀の髪をした蒼い瞳の美女さんが」
「エッ、何、ドコ?」
〈嘘ッ!?マジでそんな手に引っかかる訳?わたしの方が断然、可愛くて、プロポーションも負けないくらいで、胸も・・・大きくないけど。なんだか口惜しいィーーー、最後のお札取っちゃえ〉
「漱石さぁ~~~ん見ぃ~つけたぁっ!」
そんな陽気な声を出しながらその最後のお札を貴斗さんお財布から奪って自動販売機へと向かったのでした。ちゃん、ちゃん、っと。
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