第5話 アフリカ(後編)

 ローズがピラミッドに入った頃、戦艦がやって来た。ローズがどこにいるのか、戦艦は突き止めていた。だが、ローズには見えていなかった。


「ここに入ったというのか?」


 操縦室でアルスはじっと彼らの様子を見ていた。必ずローズを捕まえる! そして、自分たちの暗黒の世界を取り戻すんだ!


「はい、入る所を見つけました」


 デュランは冷静だ。必ずローズの息の根を止めてやる! そして、銀龍王が二度と復活しないようにせねば。


「絶対に捕まえてやる!」


 アルスは拳を握り締めた。銀龍王を解放させてはならない。再び封印されたくない。暗黒の世界に戻さねば。


 出入り口が開くと、戦闘員が出てきて、ピラミッドに入っていく。その様子を、牢屋の人々は見ている。ローズは大丈夫だろうか? ピラミッドに来ているんだろうか? 途中で死んでいないだろうか?


 その音は、ローズにも聞こえた。ローズは気が付いた。戦艦がやって来た。獣人団がやって来た。早く銀龍王に会わなければ。彼らに見つかって殺される前に。もし見つかって殺されたら、この世界の終わりだ。自分がその伝説を受け継がねば。


 通路の先には、広い部屋のようなものがある。そこに銀龍王はいるんだろうか? 何万年も前なのに、とてもきれいだ。銀龍王の魔力で美しさが保たれているんだろうか?


 ローズは広い部屋に入った。側面や床は黄金に輝いている。向こうの壁にはペンダントと同じ模様がある。その模様は巨大で、光り輝いている。ローズは息を飲んだ。こんなに地面の下にこんな美しい部屋があったとは。


 部屋の中心には机がある。その机の上には銀色の宝玉がある。銀色からして、この宝玉に銀龍王が封印されていると思われる。


 ローズは机の前に立った。この宝玉の中に銀龍王はいるはずだ。早く解放しなければ。


 そう思っていたその時、宝玉から光が発せられた。まぶしくて、ローズは目をふさいだ。一体何だろう。


 光が収まり、ローズは目を開けた。すると、そこには、銀色の龍が目の前にいる。ローズは驚いた。これが銀龍王だろうか?


「よくぞ来た。そなたはお前が来るのを待っていた。私は銀龍王。この世界の光を司る守り神。そなたら一族はこの伝説をよくぞ守り続けてきた。どんな時代の荒波があろうとも、その教えを絶やしてはならぬ。いつの日か、世界を闇に落とそうとする獣人が現れる時が来る。彼らを封印するために、その力を解き放つ。だが、それによって、お前の命は泡となるのだ。覚悟はできておるな?」


 やはり銀龍王だ。ローズはほっとした。やっと会えた。自分が銀龍王の力を解放すれば、世界が救われるだろう。


「覚悟はできております」


 ローズは覚悟を決めていた。自分の命が泡となっても構わない。生まれ変わり、平和な世界で生きたい。


「そうか」


 銀龍王は硬い表情だ。ローズは覚悟を決めているようだ。


「この地球の未来を、彼らに託します」


 ローズの意志は固い。これだけ多くの人が救えるのなら、悔いはない。もしできるとしたら、生まれ変わりたい。


「それでいいんだな?」


 銀龍王は真剣な表情だ。本当にこの選択でいいんだろうか? 一度だけの人生だ。それでもいいんだろうか?


「はい、この世界を元に美しい世界に戻せるのなら、それでいいです。そして、私が生まれ変わる時には、元の豊かな自然の地球になっていればいいのです」


 ローズは真剣な表情だ。世界の未来のために命を捧げるのなら、自分が犠牲になってでもいい。これによって生き延びた命が何万人、何億人にも広がれば、これ以上嬉しい事はない。


 銀龍王はその声を聞きとめると、ローズの体と1つになった。ついに、ローズは銀龍王の力を手に入れた。その力を使って、獣人団を封印して、世界を救わねば。


 その時、誰かが近づいてくる音がした。獣人団だ。ついにローズのいる所にやって来た。ローズは慌てた。どこに隠れよう。ローズは辺りを見渡した。だが、隠れられそうなところはなかなか見つからない。


 しばらくすると、獣人団がやって来た。ローズは宝玉のあった机の下に隠れた。物音をしてはならない。見つかってしまう。


「見つけたぞ!」


 ローズが振り向くと、そこには獣人がいる。見つかってしまった。もうだめだ。


「動くな!」


 ローズはおびえた。せっかく銀龍王の力を手に入れたのに、ここで命を落としてしまうなんて。


「ローズ、恐れるな! 力を解放しろ! 『ドラゲンス・シルベーロ!』と叫ぶのだ!」


 銀龍王の声だ。だが、銀龍王の姿は見えない。心の中から言っていると思われる。


 アルスはローズに銃を向けた。だが、ローズの表情は変わらない。何かを考えているようだ。


「最後に残す言葉はないか?」


 アルスは笑みを浮かべた。ようやく自分の世界が作れる。そして、世界を永遠の暗黒に導くんだ。


「ドラゲンス・シルベーロ!」


 その声とともに、ローズの体から光が発せられた。ローズや獣人団は驚いた。何が起こったんだろう。ひょっとして、銀龍王が目覚めたんだろうか?


「うわっ!」


 デュランは驚き、目がくらんだ。まさか、銀龍王が目覚めたんだろうか? そうなったら、また封印されるかもしれない。


「な、何だ?」


 次第に光が収まった。見渡すと、そこは地上だ。今さっきの衝撃でピラミッドが吹っ飛んだと思われる。だが、けがはない。何だろう。


 デュランは目を開いた。そこには、銀色の巨大な龍がいる。それこそ、この世界の守り神、銀龍王だ。ついに目覚めてしまった。まさか、ローズがすでに手にしたとは。


「これが・・・」


 獣人団の兵士は銀龍王を見て、茫然としていた。あいつがまた蘇ってしまった。どうしよう。だが、立ち向かおう。世界を暗黒に導くために。


「銀龍王・・・」


 アルスはじっと見ていた。まさかまた蘇ってしまうとは。また封印されてたまるか! 今度こそ倒して世界を暗黒に導かねば。


 銀龍王はアルスをじっと見つめている。また蘇った彼らを封印せねば。そしてこの世界の平和を守らねば。


 アルスは銀龍王に向かって銃を撃った。だが、銀龍王には通用しない。銀龍王の表情は変わらない。


 銀龍王は大きな雄たけびを上げた。牢屋の人々は窓からその様子を見ていた。ローズだ。ローズが銀龍王を覚醒させたんだ。


 獣人団も銀龍王に攻撃した。それでも銀龍王の表情は変わらない。まるで効いていないかのようだ。


 銀龍王は更に大きな雄たけびを上げた。アルスは少しおののいた。だが、すぐに気を取り戻した。立ち上がらなければ。自分の世界を築くために。


「ローズ、放て、この世界のために!」


 銀龍王の声が聞こえた。ローズは覚悟を決めた。この世界の未来のために、犠牲になろう。生まれ変わるのなら、平和な世界がいいな。


 銀龍王は大きな雄たけびと共に、全身から光を発した。獣人団は目がくらんだ。何が起こったのか、わからなかった。


 その光が収まると、獣人団や戦艦は消えていた。そして、銀龍王はそこにたたずんでいる。だが、銀龍王は悲しそうな表情だ。その力を使ったら、自分は光となり、再び宝玉となる。そして、再び力が使われる時にその姿を現すだろう。


 間もなくして、銀龍王は大きな雄たけびを上げ、体が爆発した。そして、光が解き放たれた。その光は、全世界に広がっていく。その光は、世界を再生させる『再生の光』だ。


 光に包まれると、森は更に美しくなり、海から毒がなくなり、元の美しい海になった。世界が元の美しい姿に再生していく。


 世界中の人々はその様子を見て、感動した。これが私たちの理想の世界なんだ。これが地球のあるべき姿なんだ。


 捕らえられていた康子は海が元に戻る様子を見ていた。ローズが自分の命と引き換えにこの世界を元に戻したんだ。


「ローズ・・・」


 康子は泣き崩れた。もうローズには会えない。あんなに優しくて、まるで自分の子供のようだったローズはもう死んでしまった。


「消えちゃったのか?」

「ああ。銀龍王と共に」


 その隣で、2人の男が空を見上げている。その空には、ローズがいるんだろうか? もしいたら、この世界を見守っているんだろうか?


「どうして死んじゃったの?」


 その隣で女が泣き崩れた。彼女はローズの幼馴染で、ローズの事を気にしていた。ローズは必ず帰ってくる。世界を救って帰ってくる。だが、世界を救う引き換えに命を落とすなんて。


「・・・、未来を・・・、みんなに・・・、託したんだ・・・」


 男はローズが死んだ理由を知っていた。この世界の未来をみんなに託し、世界の平和を空から見守ろうと思ったんだ。だから、空を見上げれば、きっとローズがいる。この世界を見守っているだろう。


「えっ!?」

「我々に未来を託したんだ」


 男は空をじっと見て、ローズの事を思い浮かべた。ローズと遊んだ日々は走馬灯のように蘇る。


「そんな・・・」


 康子は空を見上げた。見えないけれど、ローズはいるんだろうか?


「見て! 海がきれいになってる!」


 戦艦から出てきた男は驚いた。毒で汚れていた海が美しくなっている。泳いでいなかった魚が泳いでいる。まるで星戦前の世界のようだ。男はしばらく感動していた。


「本当だ!」

「緑が蘇ってく!」


 その遠くを見ると、森がより美しくなっていく。遠くから見ても、それがよくわかる。その声に反応して、人々は森を見た。徐々に緑が蘇っていく様子を見て、彼らは感動した。これは奇跡だ。銀龍王が起こした奇跡だ。


「ローズは、人間の未来への力になったんだ」

「ローズ、あんたすごいよ。こんな勇気を持てるなんて」


 彼らはローズの勇気に感動した。命を捧げてまでも、人々を、そして世界を救った。


 康子は銀龍王のいた所を見た。そこには銀色の宝玉がある。その中に銀龍王の力が入っている。再び獣人団がやって来る時、この力を解放しなければならない。そして、その話を語り継ぎ、その力を使って世界を救わねばならない。


「ローズの遺志を受け継ごう。ローズが夢見た未来を僕らは生きていくんだ。これからは、助け合い、生きよう。そして、再び来る獣人の脅威に備えよう」


 男は空を見上げて誓った。僕たちの世界を守るために、語り継ぎ、受け継がなければならない。みんながもっと平和に、豊かに暮らせるようにしなければならない。それを夢見たローズのためにも。


「うん。ローズの先祖達が受け継いできたように、銀龍王の伝説を語り継がなければならない」


 突然、赤ん坊の泣き声が聞こえた。新しい世界になって、最初の子供が生まれたのだ。赤ん坊は元気な鳴き声だ。牢屋から出てきた人々は笑顔を見せた。新しい時代の、新しい子供だ。きっと、ローズの生まれ変わりに違いない。きっと、ローズはこの子の未来を見守っているに違いない。


 やがて、曇っていた空が晴れてきた。空が明るくなっていく。きっと世界が救われた事に対する祝いだろう。世界もそれを祝福しているだろう。僕らはそれに応えて、平和な世界を築かなければならない。ローズ、見守っていてくれ。君の夢見た世界を築いてみせるよ。

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Guardian 口羽龍 @ryo_kuchiba

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